相続税の物納とは?条件や注意点について税理士が解説!

相続税の物納とは?条件や注意点について税理士が解説! 相続税・贈与税
相続税・贈与税

相続税は納税額が多額になることがあり納付期限までに金銭で支払うことが困難なケースが見受けられます。

そのような場合、一定の条件をもとに「物納」による納付をすることも可能です。

今回はこの相続税の物納について、条件や注意点について解説していきたいと思います。(参考:国税庁|相続税の物納

この記事の執筆・監修者
大岡 俊明(税理士)

税理士。神奈川県横浜市のクロスウィード税理士事務所代表。メンターキャピタル税理士法人で13年間実績を積み、2024年にクロスウィード税理士事務所を開業。相鉄線沿線を対象に、相続税申告のなかでも遺産総額が1億円以下の相続税申告に特化していることが特徴。

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相続税の物納とは?

国税は、金銭で納付することが原則です。

しかし相続税に限っては、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として「一定の相続財産による納付」、つまり物納ができます。

物納できる財産の要件

次に掲げるすべての要件を満たしている場合、物納を申請することができます。

  1. 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
  2. 物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、日本国内に所在する次に掲げる財産であり、かつ次の順位(1から5の順)によること。
  3. 物納に充てることができる財産は、物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)に該当しないものであること。および物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。
  4. 物納しようとする相続税の納付期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること。

それぞれの要件について、ポイントをピックアップして解説していきます。

物納にあてる財産には優先順位がある

物納できる財産の要件のなかでとくに知っておきたいポイントは、物納申請財産には優先順位があるということです。

第1順位

1.不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
(特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。)

2.不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位

3.非上場株式等
(特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。)

4.非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位 5.動産

後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合および先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。

ただし、特定登録美術品については、上記の順序にかかわらず一定の書類を提出することにより物納に充てることができます。

特定登録美術品とは

美術品の美術館における公開の促進に関する法律第2条第3号に規定する登録美術品で相続開始の時において既に登録を受けているもの

なお、次に該当する財産は、物納の対象とすることはできません。

  • 相続時精算課税の適用を受けた財産
  • 非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた非上場株式等
  • 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた事業用資産

また、自然公園法の国立公園特別保護地区等内の土地で平成26年3月31日までに環境大臣と風景地保護協定を締結していることその他一定の要件を満たすものは、物納劣後財産に該当しないものとして取り扱います。

管理処分不適格財産は物納できない

物納に充てることができる財産は、物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)に該当しないものともされています。

財産の種別ごと、どのようなものが管理処分不適格財産とされてしまうのか見ていきましょう。

不動産の場合

  • 担保権の設定の登記がされていること、その他これに準ずる事情がある不動産
  • 権利の帰属について争いがある不動産
  • 境界が明らかでない土地
  • 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
  • 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で民法第210条(公道に至るための他の土地の通行権)の規定による通行権の内容が明確でないもの
  • 借地権の目的となっている土地で、その借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情があるもの
  • 他の不動産(他の不動産の上に存する権利を含みます。)と社会通念上一体として利用されている不動産もしくは利用されるべき不動産または二以上の者の共有に属する不動産
  • 耐用年数(所得税法の規定に基づいて定められている耐用年数をいいます。)を経過している建物(通常の使用ができるものを除きます。)
  • 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産(申請者において清算することを確認できる場合を除きます。)
  • その管理または処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産
  • 公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある目的に使用されている不動産その他社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産
  • 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
  • 地上権、永小作権、賃借権その他の使用および収益を目的とする権利が設定されている不動産で次に掲げる者がその権利を有しているもの
  1. 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」といいます。)
  2. 暴力団員等によりその事業活動を支配されている者
  3. 法人で暴力団員等を役員等(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事および監事ならびにこれら以外の者でその法人の経営に従事している者ならびに支配人をいいます。)とするもの

株式の場合

  • 譲渡に関して金融商品取引法その他の法令の規定により一定の手続が定められている株式で、その手続がとられていない株式
  • 譲渡制限株式
  • 質権その他の担保権の目的となっている株式
  • 権利の帰属について争いがある株式
  • 共有に属する株式(共有者全員がその株式について物納の許可を申請する場合を除きます。)
  • 暴力団員等によりその事業活動を支配されている株式会社または暴力団員等を役員(取締役、会計参与、監査役および執行役をいいます。)とする株式会社が発行した株式(取引相場のない株式に限ります。)

それ以外の財産の場合

その財産の性質が、ここまで紹介した「不動産」または「株式」に定める財産に準ずるものとして税務署長が認めるものも、管理処分不適格財産とされます。

物納劣後財産は条件を満たせば納められる

次に掲げるような財産は「物納劣後財産」とされ、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納に充てることができるとされています。

  • 地上権、永小作権もしくは耕作を目的とする賃借権、地役権または入会権が設定されている土地
  • 法令の規定に違反して建築された建物およびその敷地
  • 土地区画整理法による土地区画整理事業等の施行に係る土地につき仮換地または一時利用地の指定がされていない土地(その指定後において使用または収益をすることができない土地を含みます。)
  • 現に納税義務者の居住の用または事業の用に供されている建物およびその敷地(納税義務者がその建物および敷地について物納の許可を申請する場合を除きます。)
  • 配偶者居住権の目的となっている建物およびその敷地
  • 劇場、工場、浴場その他の維持または管理に特殊技能を要する建物およびこれらの敷地
  • 建築基準法第43条第1項(敷地等と道路との関係)に規定する道路に2メートル以上接していない土地
  • 都市計画法の規定による都道府県知事の許可を受けなければならない開発行為をする場合において、その開発行為が開発許可の基準に適合しないときにおけるその開発行為に係る土地
  • 都市計画法に規定する市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成することができるものを除きます。)
  • 農業振興地域の整備に関する法律の農業振興地域整備計画において農用地区域として定められた区域内の土地
  • 森林法の規定により保安林として指定された区域内の土地
  • 法令の規定により建物の建築をすることができない土地(建物の建築をすることができる面積が著しく狭くなる土地を含みます。)
  • 過去に生じた事件または事故その他の事情により、正常な取引が行われないおそれがある不動産およびこれに隣接する不動産
  • 事業の休止(一時的な休止を除きます。)をしている法人に係る株式に係る株券

物納財産の価額(収納価額)の決まり方

物納財産を国が収納するときの価額は、原則として「相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額」になります。

なお、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けた相続財産を物納する場合の収納価額は、特例適用後の価額となります。

物納手続関係書類の提出期限

物納手続を刷るためには、納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して提出する必要があります。

ただし、物納申請期限までに物納手続関係書類を提出することができない場合、物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出することにより、1回につき3か月を限度として、最長で1年まで物納手続関係書類の提出期限を延長することができます。

物納許可までの審査期間

物納申請書が提出された場合、税務署長は、その物納申請に係る要件の調査結果に基づいて、物納申請期限から3か月以内に許可または却下を行います。申請財産の状況によっては、許可または却下までの期間を最長で9か月まで延長する場合があります。

なお、許可以外に、次のような決定がくだされる可能性もあります。

  • 条件付許可
  • 却下

それぞれの決定がくだされたら、どのように手続すべきかも紹介します。

条件付許可

汚染物質除去の履行義務などの条件を付されて物納の許可を受けた後に、許可財産に土壌汚染などの瑕疵があることが判明した場合には、汚染の除去などの措置を求められることとなります。

なお、物納許可後5年以内に上記の措置を求められ、その措置ができない場合には、物納許可が取り消されることがありますのでご注意ください。

却下(物納の再申請・延納申請への変更)

物納申請した財産が管理処分不適格財産に該当すると判断されて物納申請が却下されたときは、その却下された財産に代えて、他の財産による物納の再申請を1回に限り行うことができます。

延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がないと判断されて物納申請が却下されたときは、物納が却下された相続税額について延納の申請をすることができます。

利子税の納付が必要なケース

物納申請が行われた場合には、物納の許可による納付があったものとされた日までの期間のうち、申請者において必要書類の訂正等または物納申請財産の収納に当たっての措置を行う期間について、利子税がかかります。

また、物納申請が却下された場合や物納申請を取り下げたものとみなされた場合は、納期限または納付すべき日の翌日から、その却下の日またはみなす取下げの日までの期間について、利子税がかかります。

なお、自ら物納申請を取り下げた場合は、納期限または納付すべき日の翌日から延滞税がかかることになります。

延納から物納への変更も可能(特定物納制度)

延納の許可を受けた相続税額について、その後に延納条件を履行することが困難となった場合には、申告期限から10年以内に限り、分納期限が未到来の税額部分について、延納から物納への変更を行うこと(特定物納)ができます。

特定物納申請をした場合には、物納財産を納付するまでの期間に応じ、当初の延納条件による利子税を納付することとなります。

なお、特定物納に係る財産の収納価額は、特定物納申請の時の価額となります。

※特定物納制度は、平成18年4月1日以後の相続開始により財産を取得した場合に適用されます。

物納を検討する場合は相続税に詳しい税理士へ相談

物納で相続税を納付する場合には、その物納する財産の時価で物納ができるわけではありません。

相続税の計算をした際に財産評価した相続税評価額で物納する金額が計算されることに注意しましょう。

例えば、土地を物納する場合には土地の相続税評価額での納付になってしまいます。

土地を路線価評価すると、相続税評価額は一般的には時価の70~80%程度になることが多いです。さらに小規模宅地特例を適用できる土地ですと、その評価額から最大で80%減額した価額とされるため、物納を選択する際には注意が必要です。

このように、物納するためには考慮すべき事項が非常に多くあります。もし物納を検討する場合には、相続税に詳しい税理士へ相談するようにしましょう。

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