財産評価基本通達6で争われた裁判例を税理士が解説【相続税の豆知識】

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相続税の算出のために財産を評価するときは、「財産評価基本通達」に則って評価することが多いです。

ただし相続手続きの実務においては、財産評価基本通達による評価(原則)財産評価基本通達6による評価(例外)のいずれで評価するか、判断しなければなりません。

しかしこの「財産評価基本通達6」については、納税者の予測可能性法的安定性が確保できていないと考えられます。そのため税理士である筆者は、この財産評価基本通達6の存在意義について個人的には違和感を持っています。

関連記事:財産評価基本通達とは?「相続税法の時価」との関係や存在意義を税理士が解説

個人的に違和感を持っているものの、「財産評価基本通達6」は通達として存在してしまっているため、相続税手続きの実務においては理解を深めておかなければなりません。

そこでこの記事では財産評価基本通達6についての理解を深めていくために、財産評価基本通達6で争われた裁判例等を、次の2つの類型に分類し整理していきます。

  • 価額乖離型
  • 租税回避型
この記事の執筆・監修者
大岡 俊明(税理士)

税理士。神奈川県横浜市のクロスウィード税理士事務所代表。メンターキャピタル税理士法人で13年間実績を積み、2024年にクロスウィード税理士事務所を開業。相鉄線沿線を対象に、相続税申告のなかでも遺産総額が1億円以下の相続税申告に特化していることが特徴。

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価額乖離型

「時価」と「財産評価基本通達による評価額」が乖離していると争われた事例は、価額乖離型に分類できます。

2つの例を見ていきましょう。

東京地方裁判所平成9年9月30日判決(TAINZ文献番号Z228-7994)

この事例は、相続財産である土地の評価について、「評価通達に定める路線価方式により評価した評価額」と「客観的時価」との間に著しい乖離があったというものです。

〈判決の内容〉

「評価通達」では、路線価方式により客観的な基準に基づき算定することを予定しています。

この「通達に基づいて評価した価額=相続財産の時価」とする原則は、次の2つの観点から、法が予定する「時価」ヘの接近方法として合理性を有するとしています。

  • 全国に大量に存在する課税対象土地について相続財産の評価方法の基準化を図る
  • 評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消する

本判決はまず、相続税法22条の予定する「時価」とは、「取得時における客観的時価」になるとしています。

そして「相続により取得された土地」の時価に対する、一般的に最も正確な算定方法として、鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的・具体的に鑑定評価することを挙げています。

しかし、「路線価方式により算定される評価額」が「客観的時価」を上回る場合には、「路線価方式による評価額」「法が予定する時価」と見るべきではないともいっています。

このような場合、「評価通達の一律適用という公平の原則」よりも、「個別的評価の合理性」を尊重すべきであり、評価通達6に定める「評価通達により評価することが著しく不適当と認められる場合」に該当するとしているのです。

このように本判決では、「評価通達による路線価方式により算定される評価額」が「客観的時価」を上回る場合、それは相続税法22条に違反するものであり、「評価通達により画一的に評価することが著しく不適当」と認められる特別の事情があるという判断が示されています。

国税不服審判所平成20年3月28日裁決(LEX/DB文献番号26012200)

この事例は、相続財産である土地の評価について、「評価通達に定める路線価方式により評価した評価額」が「買収予定価額」に比べて著しく低額であったというものです。

〈判決の内容〉

課税当局は「評価通達により定められた評価方式で評価した場合の価額」が「買収予定価額(取引予定価額)」に比べ著しく低額となるため、それは「評価通達6に定める特別の事情がある場合」に当たると主張していました。

それに対し本判決は、次のような点を指摘しています。

評価通達に基づき、「評価する土地の地価公示価格レベル水準の価格の80%相当額」になるよう、各国税局長が定めた「財産評価基準書」に路線価や倍率が定めれれていることは周知の事実

仮に「買収予定価額(取引予定価額)」が「時価」を表しているとすれば、その定められた路線価・倍率の合理性が問われることはあっても、「評価通達による評価額」が「買収予定価額(取引予定価額)」に比べ著しく低額となることのみをもって、評価基本通達6に定める特別な事情がある場合に該当するとはいえない

少し難しいですが、客観的な交換価値の範囲内であれば、「買収予定価額」と「評価通達による評価額」との著しい乖離差のみをもって、特別な事情があるとはいえないとしています。

「評価通達により定められた評価方法によって画一的な評価を行うこと」=「相続税法における時価の原則的な評価方法」であるという判断が示されているのです。

租税回避型

つづいて、不動産の購入が租税回避行為とされた裁判例について見ていきましょう。

東京地方裁判所平成4年3月11日判決(TAINZ文献番号Z188-6866)

この事例の状況は次のとおりです。

  1. 相続開始直前、被相続人が、借り入れた資金で不動産を購入
  2. 相続開始直後、相続人によって、当時の市場価格で他に売却
  3. その売却金によって、借入金を返済

そして「相続開始時点での不動産評価額」については「評価通達により評価」したことで、市場価格に比べ著しく低い評価額としたものです。

〈判決の内容〉

本判決は、まず相続税法22条における時価の意義に関して、次のように述べています。

相続税法は相続財産の価額について、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定している。この時価とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値である

しかし、「客観的な交換価値」は必ずしも一義的に確定されるものではありません。

そのため課税実務上は、評価通達によって「相続財産評価の一般的基準」が定められおり、この画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされています。

これは「相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法」をとると、次のような難点があるためです。

  • その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難い
  • 課税当局の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがある

このため、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節税という見地からみて合理的であるとされているのです。

そして特に”租税平等主義”という観点からして、「評価通達に定められた評価方式」が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができます。

そのため「特定の納税者」あるいは「特定の相続財産」についてのみ評価通達に定める方式以外の方法によってその評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法第22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、許されないとしているのです。

次に「評価通達6」の意義等について、本判決は次のような判断をしています。

評価通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方式によることが許されるものと解すべき

このことは、評価通達において「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかであるとしています。

すなわち「相続財産の評価に当たっては、特別の定めのある場合を除き、評価通達によるのが原則」「評価通達によらないことが相当と認められるような特別な事情のある場合には、他の合理的な時価の評価方式によることが許されるものと解するのが相当」ということです。

そして、本件においては、相続の前後を通じて事柄の実質をみると、次のような判断がされています。

当該不動産がいわば一種の商品のような形で、一時的に相続人及び被相続人の所有に帰属することとなったにすぎない

画一的に評価通達に基づいてその不動産の価額を評価すべきものとすると、取引の経過から客観的に明らかになっているその不動産の市場における現実の交換価値によって、その価額を評価した場合に比べて相続税の課税価格に著しい差を生じる

この場合、実質的な租税負担の公平という観点からして、看過し難い事態を招来する

以上のことより、評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情がある場合に該当するとしています。

本判決のポイントをまとめると、次のようにいえるでしょう。

相続財産を個別に評価する方法をとると、納税者間で異なった評価額が生じてしまう可能性や、課税当局の事務負担増等となるおそれがあることから、評価通達による画一的な評価方式の合理性を認めている

その一方、この評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、他の合理的な方式によって評価することが許される

東京地方裁判所平成4年7月29日判決(TAINZ文献番号Z192-6947)

この事例でも、被相続人が相続開始直前に借り入れた資金で購入した不動産が、相続開始直後に相続人によって、当時の市場価格で他に売却され、その売却金によって借入金が返済されています。

本判決では、まず次のような判断がされています。

評価通達の評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別な事情がある場合には、例外的に相続税法22条の「時価」を算定する他の合理的な方式によることが許されるものと解すべき

このことは、評価通達6において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定められていることからも明らかである

そして本件においても、画一的に評価通達に基づいてその不動産の価額を評価すると、当該不動産以外に多額の財産を保有している被相続人については、経済的合理性を無視した異常ともいうべき取引によってその他の相続財産の課税価格が大幅に圧縮されることになるとしています。

そして次のような判断へと続きます。

このような事態は、他に多額の財産を保有していないため借入れによる土地の購入をし、結果として「他の相続財産の課税価格の大幅な圧縮による相続税負担の軽減」という効果を享受する余地のない納税者との間で、実質的な租税負担の公平という観点からして看過し難い

また、租税制度全体を通じて「税負担の累進性を補完するとともに富の再分配機能を通じて経済的平等を実現する」という相続税法の立法趣旨からして著しく不相当

また本判決では、次のようなポイントも述べられています。

財産の客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではなく、当然に一定の幅をもった概念として理解されるべきものである。

評価通達による評価額も、一定の幅をもった時価の概念に含まれる一つの具体的な価額にとどまるものと考えられる。

評価通達による評価方法以外の方法によって算定された価額であっても、それが「時価」の概念の範囲に含まれるものであるときには、それもまた相続税法22条にいう「時価」に該当するものとすることに、法解釈上の支障はない

このように本判決では、次の点を「特別な事情」であると判断していることが特徴です。

「評価通達の評価方式を画一的に適用するという形式的な平等」を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであること

まとめ

今回の記事では「財産評価基本通達6」で争われた裁判例等を検証しました。

どのようなケースで「財産評価基本通達6」が適用されたかが理解できましたでしょうか。

財産評価基本通達6が適用される明確な基準はないものの、実際の裁判例等を見てみるとどのようなケースで適用されるか理解できたかと思います。

次回はタワマン節税にメスが入った要因の一つとなった有名な裁判(最高裁判所第三小法廷令和4年4月19日判決)があるのですが、財産評価基本通達6にも関連する重要な裁判例になりますので詳しく解説していきます。

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