「法の大海原を船はゆく。『三方よし』の御旗をかかげて」
「三方よし」という言葉がある。かつて日本において、近江商人が胸に刻んでいた商いのポリシーだ。三方とは、「売り手」「買い手」「世間(世の中)」を指す。つまり、サービスを売る側、依頼する側、そして社会すべてがよくなる仕事が大切だという考えだ。
長岡行政書士事務所の所長・長岡真也は、2012年に横浜で開業して以降、常にこの「三方よし」を心に刻み続けてきた。「印鑑1本で、負担のない相続手続、遺言書作成を行う」というポリシーもそこに由来する。
とはいえ、理想というものは、言うは易く行うは難い。長岡行政書士及び同事務所が依頼者・相談者をはじめ、事務所員などステークホルダー(関係者)にどのように接しているのか。真に世の中の役に立つ行政書士像とは何か。今回のインタビューでは、長岡氏の本音を徹底して掘り下げる。
(取材・文:新田哲嗣)
関わる人たちに貢献できる事務所でありたい
父の相続を経験して行政書士の道へ
―行政書士を志したのは、お父様の相続がきっかけだったとか?
父が亡くなったのは、私が23歳のころ。その頃は水道工事の仕事をしており、法律については勉強したことがありませんでした。ですので、相続と言われても、何をどうすればいいかわからず、まさに右往左往したんです。相続について不安を覚えたり、振り回されてしまうのは自分だけではないはずと思い、一念発起して行政書士になるべく勉強を始めました。
おかげさまで行政書士になり12年が経過しますが、今振り返ってもあの時期が人生の大きなターニングポイントになっていましたね。
相談者のゴールを伴走しながら解決する
―行政書士として仕事をする上で、ずっと大事にしてきた信念があるとか?
やはり依頼者・相談者を大事にすることはもちろんですが、当事務所に関わってくださるステークホルダーや地域に貢献できる事務所経営を行いたいと考えています。
近江商人の「三方よし」の理念は、開業時から今でも持ち続けているんですよ。その考えが確固たるものになったのは、母の知人の美容室からご相談があったことでした。
といっても、行政書士の相談ではなく、「給湯器が故障してお湯が出なくなったから助けて」というものでしたが(笑) 美容室でお湯が使えないのは致命的なこと。私は既に行政書士一本で仕事をしており道具も持ち合わせていなかったため、前職の同僚に連絡し、翌日には給湯器の交換を終えることができたんです。
加えて、ちょうどその頃、その方に相続の問題が発生しまして。今度はまさに私のフィールドでしたので、誠心誠意、手続きを終えると「困りごとが一気に2つも解決するなんて!」と、心底喜ばれたんですね。
このときに、私たちが向き合うべきは、あくまで依頼者・相談者の困りごとであり、不安を解消したいというお気持ちです。そこに目を向けると自然に「三方よし」になるのだと感じたんです。
相続で悩まれる方の精神的負担を取り除きたい
―「困りごと」の解決のため、気持ちに寄り添う。素敵なポリシーですね。
ありがとうございます。例えば、相続にせよ離婚問題にせよ、法律家を頼る方々が抱える問題は、悲しみを帯びたものが多いんです。ですので、余計に悲しみや辛さを感じていただかないような配慮は徹底しています。
例えば、気遣って発言したつもりでも意図せず相手を傷つける可能性があるので、あえて不要なことをこちらから申し上げません。機械的だとか冷たいということではなく、依頼者・相談者に合わせた感情表現で寄り添うことを大事にしているんです。
でもその裏では、依頼者・相談者が安心して相談できる場になるよう、ご来所時のシミュレーションを行うなど、かなり細やかなところに気を配るようにしています。
スリッパは人数分必ず出してお待ちする、エアコンの温度をご来所直前に適温に調整し直す、法律の専門用語は極力使わないなど、挙げればきりがありませんが、依頼者・相談者にささいなことでも心理負担を欠けないことへのこだわりは強いですね。
同じ志を持つ仲間が集い、動く
依頼者の立場に立って言葉を伝える
―依頼者・相談者はそもそも心理的な負担を負ってお越しになっているのですものね。特に感謝されるようなことはどのようなことですか?
よく言っていただけるのは、「資料がとてもわかりやすい」というご感想です。ここは私たちも大変こだわっている箇所なので、ご指摘いただくのはとても嬉しいですね。
例えば相続で数ヶ月継続して作業を行っていると、資料もそれなりの数量になってきます。依頼者の立場からすると、見慣れない法律用語が並んだ資料をランダムに渡されても、その資料がどんなものでどういうときに必要なのかがわからないですよね。
ですので、誰が見ても一義的に理解できるよう整理の仕方をわかりやすくし、かつ、ラベリングやインデックス付けなどを行い、情報を編集してファイルにまとめるという作業をしています。
ある意味、書籍編集に近いものがありますね。もちろん私一人ではできないことですので、当事務所の所員のスキルにいつも助けられています。皆、依頼者に寄り添うという気持ちは同じなので成果物ひとつとっても、依頼者にご満足いただける結果を出すことができています。
事務所の仲間にも成長の実感を伝えたい
―先ほど、ステークホルダーにも貢献する旨のご発言がありましたが、所員やパートナーとの向きあい方は?
せっかくご縁があって当事務所でお仕事を共にしているので、給与や報酬以外の面でも、所員の成長に寄与できることはしていきたいと常々考えています。例えば、計画書づくり。当事務所の目標設定を行い、現在どの地点にいるか、目標に至るまでにどんな課題をクリアしなくてはいけないのかを皆で考え、計画書に落とし込みます。
当事務所の経営にプラスになるのはもちろんですが、所員の皆さんが独立したり新たな目標を作るときにも必ず役に立つスキルになりますので、あえて皆で行っています。
パートナーにも業務の一部を手伝ってもらうことがありますが、必ず当事務所や私の理念、ポリシーをしっかりと説明して、共感していただける方のみと提携するようにしていますよ。
相続・遺言のコラムサイトを通じて信頼を醸成
相続・遺言の知識を社会に還元
―近年、巷では長岡行政書士事務所のコラムサイト人気が右肩上がりだとか?
これもパートナーシップの一環なのですが、当事務所がプロデュースする相続サイト、遺言サイトでの情報発信に力を入れています。もちろん私一人で書くことは物理的にできません。パートナーの行政書士、税理士、そして理念に共感してくださり将来的に行政書士を目指す皆様らで編集部を作り、私が編集長として監督しながらコラムサイト運営をしています。
それぞれのサイトで相続や遺言にまつわるアドバイスを行い、読者の皆様が少しでも知識を身に着け、安心していただければという一念で行っていますね。
おかげさまで、読者の皆様のお役に立てるだけでなく、弁護士執筆のポータルサイトや金融機関などからも情報提供や情報監修のご相談をいただけるようにもなってきており、社会のお役に立てるサイトに成長しつつあると自負しています。
相続に直面している方がコラムで解決できるのがゴール
―同じ士業から頼られるサイトとはすごいですね!でも、本来行政書士として依頼されて説明を行うべき情報を無料で出し、読者自ら解決できてしまうならば、ご依頼が減ったりするのでは?
確かに編集経費をかけ、ご依頼につながらなかったら、事務所として損失を出しているように見えるかもしれません。こうした社会的役割を担うのも、いち行政書士として大切なことだと考えているんです。
もちろんコラムを読んでいただいて、当事務所にご相談いただくのはありがたいことです。しかし、例えばサイトを見て自分で遺言書を作ることができたとしたら、その方は当事務所を信頼してくださるはずです。
その信頼の輪が広がり、ご紹介などにつながると、まさに三方よしなんですよ。社会の役に立つというのは、巡り巡って、ご紹介やご推薦という結果になってくることは最近特に強く感じています。
大航海時代の羅針盤のような役割
依頼者の本来のニーズに光を照らしたい
―今後、どのような行政書士、または行政書士事務所でありたいと考えていますか?
私たちは法律の専門家ですが、依頼者・相談者は法律に詳しくないことが多くあります。人間、わからないことがあると不安につながってしまいますので、まず「わからない」をなくすことが大事。私たちの仕事は、法律の講釈を述べるのことではなく、法律によって問題解決をはかることです。
ですから、依頼者・相談者が求めるニーズがどこにあるのかを日々勉強し続けないといけないですね。もっと言うと、依頼者・相談者がどんな目的地を目指しているのかがわからないとナビゲートしようがありません。
でも皆、問題に直面している状態ではうまく説明できないことが多いんです。ならば、私たちがお気持ちの向こう側にある隠れたメッセージを探り当て、言語化し、整理し、提示していく必要があります。
まさに、大航海時代の羅針盤のような役割ですね。これは、相手に寄り添わないと絶対にできないこと。横柄な態度や、頭でっかちな状態だと、まず寄り添うということ自体ができないですから。
相続手続を印鑑1本で負担なくできるように
―皆が乗る船が、安全で安心できる明日へと向かう。そんなメッセージも、きっとこのインタビューをお読みになる皆様に伝わるのでは?
伝わっていくと、それに勝る喜びはないですね。当事務所が良く使うフレーズ「印鑑1本で、負担のない相続手続、遺言書作成を行う」という言葉の中にも、今回お話したような内容を込めているつもりです。当事務所を通じて、皆様がお悩みなく過ごせる日々を迎えられるよう、引き続き精進してまいります。
―貴重なお話、ありがとうございました。