相続が発生した際に、「遺言書」の存在が発覚することがあります。
そして、遺言書があると相続税申告にどう影響するのか心配になり、相談に来る方も珍しくありません。
そもそも遺言書があれば、遺された相続財産を誰がどうもらうのかが決まっているため、遺産分割協議は”原則”として不要になります。つまり相続手続が簡便になりやすいのです。
しかし相続税の申告は、遺言書があるからといって簡単になるとは限りません。
そこで今回は、遺言書がある場合の相続税申告の留意点を、具体例を使って解説していきます。
遺言書がある場合の相続税申告で知っておくべきポイント
遺言書がある場合の相続税申告の留意点としては、次のようなことが挙げられます。
- 遺産分割協議の有無によって、相続税申告書の前提が左右される
- 遺贈先が相続人でない場合は税負担が増える
- 税負担の軽減制度を利用できる可能性がある
- 遺留分侵害額請求によって相続税申告がやり直しになるこ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
遺産分割協議の有無によって相続税申告書の前提が左右される
遺言書があれば、基本的にはその内容の通りに財産が分配されます。
しかし相続人全員の同意があれば、原則として遺産分割協議により遺産分割をすることができるともされています。
つまり、遺言書の通り財産が分配されれば、遺言書の内容に従って相続税申告書を作成しますが、遺産分割協議による遺産分割を行う場合には、相続税申告書も遺産分割協議書をもとに作成するということです。
遺贈先が相続人でない場合は税負担が増える
遺言書により、被相続人の財産を、相続人以外に遺贈するケースがあります。
例えば、内縁の妻、甥、姪、お世話になった知人などに財産を遺贈するケースです。
このようなケースの注意点として、これらの方々は法定相続人ではないので、基礎控除(法定相続人1人あたり600万円)の算定に入れることはできないこととなります。
関連記事:相続税の基礎控除額とは?計算方法や相続税申告が必要な例を紹介!【税理士監修】
また、生命保険金については遺産分割の対象ではありませんが、仮に法定相続人以外の方が生命保険金を受け取った場合、非課税枠(法定相続人1人あたり500万円)の対象外になります。
関連記事:生命保険金は相続財産?遺産分割・特別受益への影響を行政書士が解説
さらに、相続人以外の方が遺産を受け取る場合、通常の相続税の金額に2割加算して相続税を納める必要がでてきますので、税負担は増えることになります。
関連記事:相続税額の2割加算とは?対象者や計算方法について税理士が解説!
このように、遺贈先が相続人でない場合は、税負担が増えることも知っておきましょう。
税負担の軽減制度を利用できる可能性がある
遺言書がある場合でも、「配偶者の税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」などを適用できる可能性があります。
これらの税負担軽減効果は大きいため、相続税専門の税理士に相談することをお勧めします。
関連記事:相続税申告で「配偶者の税額の軽減」を適用し忘れたらどうする?税理士が対応方法を紹介!、相続時の「小規模宅地等の特例」とは?土地の評価額が最大80%減額される制度を税理士が解説
遺留分侵害額請求によって相続税申告がやり直しになることもある
相続人には、最低限の取り分である「遺留分」が認められています。
関連記事:遺留分とは?割合や法定相続分との違いを行政書士がわかりやすく解説!
そのため、仮に遺言書で相続人の遺留分が侵害されていると、遺留分侵害額請求権を行使されることがあります。
そのような場合には、相続税申告もその状況にあわせて対応する必要があり、相続税申告がやり直しになることもあるのです。
遺言書があった場合の相続税シミュレーション
それでは一つの事例として、お父さんが遺言書を残していたケースでシミュレーションしてみましょう。
家族構成
父(遺言書を残してお亡くなりになったとします)
母
長男
長女
財産内容
賃貸アパート:3,000万円
預金:5,000万円
自宅:7,000万円
合計:1億5,000万円
このとき、公正証書遺言で次のように指定されていたとします。
- 自宅は母へ
- 賃貸アパートは長男へ
- 預金は長女へ
いったい、相続税はいくらかかるでしょうか。
まず、相続税には「基礎控除」があります。
基礎控除:3,000万円+600万円×相続人の人数
今回の相続人は3人なので、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除額です。
つまり1億5,000万円 − 4,800万円 =1億200万円が課税対象になります。
計算すると、相続税の総額は約1,495万円になります。
ただし、配偶者には「配偶者の税額の軽減」という特別な優遇規定があります。
配偶者は次の金額のどちらか多い金額までは相続税はかかりません。
- 配偶者の法定相続分
- 1億6,000万円
今回、母は7,000万円の自宅を取得されていて、それは法定相続分(半分=7,500万円)以内なので、母の相続税は0円になります。
その結果、相続税は、子ども2人(長男、長女)が相続税の総額から遺産が分配された分のみ負担することになります。
なお、自宅の土地や賃貸アパートには「小規模宅地等の特例」という特別な優遇規定が適用できる可能性があります。
条件を満たせば、土地の評価額が最大80%減額されることになりますので、適用できるかの判断は必ず必要になります。
なお、たとえば今回のケースで、「遺言書によって、全財産を長女がもらった」としたら、長男が遺留分侵害額請求するケースもあります。遺留分侵害額請求の結果、財産の分け方が変わったとしたら、相続税の修正申告等が必要になることは覚えておきましょう。
遺言書がある相続税申告も税理士へ相談!
遺言書があると、遺産分割協議をしなくても、相続手続を進められます。
しかし、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議によって遺産の分け方を決めることも可能です。この場合は、相続税の負担を総合的に勘案して遺産分割をしていくことが推奨されます。
そして相続税は、誰がどの財産をもらうか、どのような特例が使えるかによって大きく変わります。
「遺言があるから安心」ではなく、「遺言があるからこそ税務チェックが必要」
これが相続税の実務の現場で感じる本音です。
遺言書がある場合こそ、相続税専門の税理士に相談してみてください。







