親族が亡くなった際に、課税関係が気になるものの一つとして「年金」があるのではないでしょうか。
年金を受給する権利も「相続財産」として、相続税が課税されるとしたら、何らかの準備をしておかなければなりません。
しかし年金には、国民年金や企業年金、その他個人年金保険契約に基づく年金など様々な種類の年金があります。これら年金受給権は必ずしも相続財産となるものではなく、課税対象になるもの・ならないものが存在するのです。
今回は相続税に携わっている税理士として、年金と相続税の関係について解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
相続税等の課税対象になる年金受給権
被相続人の死亡により取得する年金受給権については、年金の種類などによって相続税の課税が異なります。
ここでは主なケースを2つ説明します。
- 退職金として支払われることになった年金
- 課税条件を満たす個人年金保険契約
退職金として支払われることになった年金
在職中に死亡し「死亡退職」となったため、会社の規約等に基づき、会社が運営を委託していた機関から遺族の方などに「退職金」として年金が支払われることがあります。
この年金は、死亡した人の退職手当金等として相続税の対象となります。
課税条件を満たす個人年金保険契約
「保険料負担者」「被保険者」「年金受取人」が同一人の個人年金保険契約で、その年金支払保証期間内にその人が死亡したために、残りの期間については遺族の方などが年金を受け取ることになるケースがあります。
この場合、死亡した人から”年金受給権”を相続または遺贈により取得したものとみなされて、相続税の課税対象となります。
なお、年金受給権が相続税の課税対象となるときの価額の評価は、相続税法第24条または第25条の規定に基づき、解約返戻金相当額などにより評価します。
関連記事:相続時の財産評価とは?遺産の評価方法や注意点を解説【税理士監修】
所得税・相続税が課税されないこともある
遺族が年金を受け取るとしても、それらに相続税はもちろん、所得税なども課税されないものも存在します。
- 厚生年金や国民年金などの遺族年金(所得税も相続税も課税されない)
- 確定給付企業年金法などに基づく遺族年金(所得税が課税されない)
それぞれ詳しく見ていきましょう。(参考:国税庁|遺族の方に支給される公的年金等)
厚生年金や国民年金などの遺族年金(所得税も相続税も課税されない)
厚生年金や国民年金などの被保険者であった人が亡くなったときは、遺族の方に対して遺族年金が支給されます。
また、恩給を受けていた人が亡くなった場合には、遺族の方に対して遺族恩給が支給されます。
次の法律に基づいて遺族の方に支給される遺族年金や遺族恩給は、原則として所得税も相続税も課税されません。
- 国民年金法
- 厚生年金保険法
- 恩給法
- 旧船員保険法
- 国家公務員共済組合法
- 地方公務員等共済組合法
- 私立学校教職員共済法
- 旧農林漁業団体職員共済組合法
なお、これらの法律に基づいて支払を受ける年金の受給権者が死亡した場合において、その死亡した人に支給されるべき年金給付のうち、まだ支給されていなかったもの(未支給年金)があるときには、その受給権者の遺族で一定の要件に該当する人は、その人の名前でその未支給年金の支給を請求することができます。
この遺族が支払を受ける未支給年金は、その遺族の固有の権利に基づいて支払を受けるものですので、その遺族の一時所得の収入金額に該当します(これらの法律の規定により課税されないものとされているものを除きます)
確定給付企業年金法などに基づく遺族年金(所得税が課税されない)
遺族の方に支給される以下の年金などは相続税の課税の対象になりますが、毎年受け取る年金には所得税が課税されません。
- 確定給付企業年金法第3条第1項に規定する確定給付企業年金に係る規約に基づいて支給される年金
- 所得税法施行令第73条第1項に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいて支給される年金
- 法人税法附則第20条第3項に規定する適格退職年金契約に基づいて支給を受ける退職年金
「未支給年金請求権」は相続税の課税対象にはならないが一時所得に該当する
次に未支給の国民年金があった場合の課税関係について、国税庁がQ&Aをだしていますので紹介させていただきます。
老齢基礎年金(国民年金)の給付の受給権者が死亡した場合、その死亡した者に支給すべき年金給付で、まだその者に支給されていない年金があるときには、その者の配偶者(内縁の配偶者を含む)・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものが、「自己の名」でその未支給の年金の支給を請求することができることとされています(国民年金法19➀)。
老齢基礎年金の受給権者の相続開始時に、当該死亡した受給権者に係る未支給年金がある場合、当該死亡した受給権者に係る当該未支給年金を配偶者等が請求することができる権利(以下”未支給年金請求権”)は、相続税の課税対象となる財産に含まれますか。
未支給年金請求権については、当該死亡した受給権者に係る遺族が、当該未支給年金を自己の固有の権利として請求するものであり、当該死亡した受給権者に係る相続税の課税対象にはなりません。
なお、遺族が支給を受けた当該未支給年金は、当該遺族の一時所得に該当します。
「未支給年金請求権」は、相続税の課税対象にはなりませんが、一時所得には該当するため注意しなければなりません。
なぜこのような扱いとなるのか、理由を解説します。
まず、国民年金法に基づく未支給年金請求権については、最高裁判決(平成7年11月7日)において、その相続性が否定されています。
国民年金法第19条の規定については、同条が未支給年金の支給請求することのできる者の範囲及び順位について、民法の規定する相続人の範囲・順位決定の原則とは異なった定め方をしています。
これは民法の相続とは別の、「被保険者の収入に依拠していた遺族の生活保障」を目的とした立場から、未支給の年金給付の支給を一定の遺族に対して認めたものと解されているものです。
したがって未支給年金請求権が、本来の相続財産として相続税の課税対象となるとは解されません。
また、未支給年金請求権は、国民年金法の規定に基づき一方的に付与されるものです。つまり契約に基づかない権利(請求権)です。
そして相続税法第3条第1項第6号に規定する「これに係る一時金」には、継続受取人が受給を受けるべき「定期金が特別に又は選択的に一時金とされる場合の一時金のみが含まれる」こととされています。
この趣旨からすると、今回テーマとしている”未支給年金”は、定期金ではなく「最初から一時金のみを支給するもの」であるため、同号に規定する”みなし相続財産”にも該当しません。
以上のことから、未支給年金請求権については、死亡した受給権者に係る遺族が、未支給年金を自己の固有の権利として請求するものであり、死亡した受給権者に係る相続税の課税対象にはなりません。
ただし、遺族が支給を受けた未支給年金は、所得税基本通達34-2により、当該遺族の一時所得に該当します。
まとめ
年金の種類に応じて課税関係は多岐にわたり、複雑化しています。
今回紹介した種類以外の年金も存在し、それが相続税の課税対象となるのかどうか、相続税以外の税金の対象となるのかどうか判断することは、非常に難しいといえるでしょう。
年金に係る税の取扱いで不明な場合には、相続税に強い税理士へ相談することをおすすめします。