相続した不動産を売却し、その代金を相続人同士で分ける方法を「換価分割」といいます。
この換価分割では、売却手続きを進めやすくするため、代表者となる相続人一人の名義で相続登記を行うことがあります。
しかし、遺産分割協議書の記載が不十分だと、代表者が不動産を単独で取得したように見えたり、売却代金の分配が贈与と判断されたりする可能性があります。
そこで今回は、税務上の注意点をふまえた、換価分割で代表者に不動産を取得させる際の遺産分割協議書のひな形を紹介します。
※ただし、専門的な用語も多く登場するため、「自分で作れるか不安」と感じた場合は、税理士・行政書士などの専門家へ相談することをおすすめします。
換価分割のために代表者が不動産を取得する遺産分割協議書の要点
換価分割のために、代表者が不動産を取得する場合、次の要点を押さえて遺産分割協議書を作成する必要があります。
- 便宜上の名義変更であることを明記する
- 売却後の分配方法を明記する
- 換価分割に伴う費用の扱いも明記する
なぜこのような点に注意しなければならないのか、背景を詳しく見ていきましょう。
便宜上の名義変更であることを明記する
記事冒頭で触れたとおり、換価分割では、売却手続きを簡単にするため、代表者一人が不動産を取得する形式で相続登記を行うことがあります。
しかし、遺産分割協議書に「代表者が不動産を取得する」としか書かれていない場合、代表者が不動産を単独で相続した後、自分の財産を売却して他の相続人へお金を渡したように見える可能性があります。
そのため、遺産分割協議書には、代表者による取得が換価分割のための便宜上のものであることや、売却後に代金を相続人へ分配することを明記しましょう。たとえば次のような記載です。
「次の不動産は、換価分割を目的として、相続人〇〇〇〇が取得し、相続登記および売却手続きを行う。」
※対象となる不動産は、登記事項証明書の記載に従って、所在地、地番、地目、地積、家屋番号、種類、構造、床面積などを正確に記載します。
※国税庁も、共同相続人の一人による相続登記が換価のための便宜的なものであり、定められた内容に従って代金が実際に分配される場合には、贈与税の課税対象にならないとの取扱いを示しています。
関連記事:換価分割時の税務上の注意点とは?遺産分割協議書に記載すべき内容について税理士が解説!

売却後の分配方法を明記する
代表者名義で不動産を売却する際、売却代金が代表者の口座へ入金され、その後、代表者から他の相続人へ送金されることがあります。
この場合、遺産分割協議書の記載内容や実際の分配状況によっては、代表者から他の相続人への贈与と疑われる可能性があるため、注意しなければなりません。
このような疑いを避けるために、売却代金から必要な費用を控除した残額を、定められた割合に従って分配することも遺産分割協議書に明記します。
法定相続分に従って分ける場合でも、遺産分割協議書に「各2分の1」「各3分の1」などと具体的な割合を記載することが大切です。
なお、法律上、換価分割を目的とした不動産について、遺産分割協議後何日以内に売却しなければならないという一律の期限はありません。
しかし、期限を決めずに代表者へ任せると、売却活動や代金分配が進まない可能性があります。そのため、「令和〇年〇月〇日までを目安に売却する」「売却代金を受領してから〇日以内に分配する」など、一定の期限を定めることもおすすめします。
市況や買主の有無によって売却時期が変わる可能性があるため、期限までに売却できなかった場合の対応も、相続人同士で話し合っておきましょう。
換価分割に伴う費用の扱いも明記する
不動産の売却時には、仲介手数料、登記費用、測量費、建物の解体費などが発生する場合があります。これらの費用を、どう売却代金から差し引くのかや、どう相続人同士で案分するのかについても明記しておくと、誤解の余地が生じず安心です。
たとえば「売却代金から仲介手数料、登記費用その他売却に必要な費用を控除した残額を、相続人〇〇に2分の1、相続人〇〇に2分の1の割合で分配する」のような記載です。
「売却にかかった費用を差し引く」とだけ記載すると、控除できる費用の範囲について意見が分かれる可能性があります。想定される費用を具体的に列挙し、列挙されていない費用が発生した場合の取扱いも決めておくと安心です。
なお、相続した不動産を売却して利益が生じた場合は、原則として譲渡所得税の対象になります。この譲渡所得税も、換価分割に伴って生じる負担といえるでしょう。しかし、譲渡所得税の扱いについてまでは、遺産分割協議書に記載しなくても問題ありません。
そもそも、換価分割の場合、各相続人は分配割合に応じて不動産を取得したものとして、相続税を申告します。
そのため代表者一人の名義で売却したとしても、必ずしも代表者一人だけが譲渡所得を申告するわけではないのです。
実際、国税庁は「未分割遺産を換価した場合、原則として換価時の所有割合に応じて譲渡所得を申告する」という取扱いを示しています。
ここまでの話は非常に複雑であるため、「自分は相続税だけでなく、譲渡所得税についても申告する必要があるのか?」「そもそも不動産売却時の譲渡所得税は、どう計算すればいいのか?」が分からない場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
換価分割で代表者に取得させる場合の遺産分割協議書のひな形
ここまで紹介した要点をふまえた、「代表者が換価目的で不動産を取得し、売却代金を相続人へ分配する」場合の遺産分割協議書のひな形は次のとおりです。
| 遺産分割協議書 被相続人 〇〇〇〇(令和〇年〇月〇日死亡)の遺産について、共同相続人全員は協議の結果、次のとおり遺産分割を行うことに合意した。 第1条(換価目的による不動産の取得) 次の不動産は、換価分割を目的として、相続人〇〇〇〇が取得し、相続登記および売却手続きを行う。 【土地】 所在地:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目 地番:〇番〇 地目:宅地 地積:〇〇〇.〇〇平方メートル 【建物】 所在:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地〇 家屋番号:〇番〇 種類:居宅 構造:木造瓦葺2階建 床面積:1階〇〇.〇〇平方メートル 2階〇〇.〇〇平方メートル 第2条(売却手続き) 相続人〇〇〇〇は、前条の不動産を適正な条件で売却し、売買契約の締結、所有権移転登記その他売却に必要な手続きを行う。 第3条(売却代金の分配) 売却代金から、仲介手数料、登記費用、測量費、解体費、印紙税その他売却に直接必要となる費用を控除した残額を、次の割合で各相続人へ分配する。 相続人〇〇〇〇 2分の1 相続人〇〇〇〇 4分の1 相続人〇〇〇〇 4分の1 第4条(売却および分配の期限) 相続人〇〇〇〇は、令和〇年〇月〇日までを目安に売却手続きを進め、売却代金の受領後〇日以内に前条の割合に従って分配する。 第5条(手続きへの協力) 共同相続人は、相続登記および売却手続きに必要な書類の提出、署名押印その他必要な行為に協力する。 以上、本協議成立の証として本書〇通を作成し、共同相続人全員が署名し、実印を押印のうえ、各自1通を保有する。 令和〇年〇月〇日 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 相続人 〇〇〇〇 実印 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 相続人 〇〇〇〇 実印 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 相続人 〇〇〇〇 実印 |
※本ひな形は一般的な記載例です。個別の案件への適合性や税務上の取扱いを保証するものではありません。
実際に使用する際は、相続人の人数、不動産の内容、分配割合、売却条件などに合わせて修正する必要がありますので、不安な場合は税理士・行政書士などの専門家へ相談してください。
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換価分割の遺産分割協議書で迷ったら税理士・行政書士に相談しよう
換価分割で代表者一人に不動産を取得させる場合、遺産分割協議書には、換価目的であること、売却手続きを担当する人、控除する費用、売却代金の分配割合などを具体的に記載する必要があります。
また、実際の遺産分割協議書には、他にも預貯金・株式などの情報も記載されます。項目が多くなるほど、気を付けるべきことも増え、混乱してしまうかもしれません。
そのため、税務的に問題がなく、なおかつ各種手続をスムーズに進められる遺産分割協議書を自力で作る自信がない場合は、早めに税理士・行政書士に相談することをおすすめします。



