「生前贈与って遺留分侵害になるの?」
「そもそも遺留分とは?」
「どんな場合に遺留分侵害とみなされるの?」
相続の際に問題となってくる遺留分。それが一体どこまで適用されるのか、わからない方も多いと思います。
相続ではもちろん問題になりますが、今回は生前贈与、つまり遺産ではなく自分の財産として生前誰かにあげてしまった場合に遺留分はどうなるのか、という問題について書いていきたいと思います。
遺留分の目的は一体なんなのか、といった本質的なテーマともつながってきますので、より相続や遺産について深い理解につながると思います。
遺留分とは
そもそもの問題となる遺留分について説明したいと思います。これは簡単に言えば、法律で定められた相続人には最低限の遺産を保障してあげよう、という制度になります。
遺産を誰に遺すかは故人の自由
原則的には、遺産を誰に遺すかは故人の自由となっています。遺言にしっかりと記載して意思表示をすれば、誰かにすべての遺産を遺す、というのも認められます。
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遺留分の目的
とはいえそれでは、相続人たちにとって非常に酷な結果になりかねません。
たとえば夫に先立たれた妻が夫の所得に頼って暮らしていた場合、遺産がまったくなければ生活自体が成り立たなくなる可能性があります。
そういった場合に最低限の遺産を受け取ることができるよう、遺留分というものがあります。
遺留分には、相続の不平等をある程度是正する、そして経済的に困窮している人の保護、という重大な意図があるのです。
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生前贈与とは
生前贈与とはその漢字通り、生前に財産を贈与する、つまり生きているうちに誰かに財産をあげてしまうことを指します。
生きているうちに渡すこと
死因贈与というものもあり、こちらは「自分が死んだら」という条件付きで贈与が起こる、という契約になります。
生前贈与はこれと対照的に、生きているうちに、ということがポイントです。
生前贈与した財産も相続財産と認められる?
生きているうちに贈与したのですから、それは財産を贈与しただけであり、遺産とはあまり関係がないように思えます。
実際、厳密な意味での遺産ではありません。しかし生前贈与が相続財産と同じ扱いをされることはあります。
相続財産とみなす条文の規定
それでは、その具体的な場面をここでは書いていこうと思います。民法には以下の規定があります。
民法903条1項 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
これが意味するところは、たとえば結婚の持参金や生活費のために遺贈や生前贈与があった場合など特定の場面では、それは相続財産を受け取ったものとして計算する、ということです。
相続の前倒しとみなされる
民法は法律ですから、ある程度形式的なところもありますが、生前贈与した財産を相続財産とみなす、というのは実際的な事情を考慮したものでしょう。
実際、自分が亡くなる時期が近いから財産を誰かにあげよう、というのはやはり相続に似た意思が汲み取れる行為ではないでしょうか。
このようにある一定の場合には、生前贈与は相続の前倒しとみなされる、ということだけ留意していただけたら、と思います。
生前贈与が遺留分に関係するシーン
これまで、生前贈与、遺留分、という両方の性質を説明してきました。ここからは具体的な場面のなかで、これらの法律行為や制度がどのように関係するのかを書いていきたいと思います。
相続人以外へ相続開始前一年間にした贈与
相続は死亡によって始まります。相続開始(故人が死亡した日)前一年以内に贈与契約をした場合は、遺留分に含まれます。つまり、その贈与した財産の額も遺留分の算定額に含まれます。
そして、これは契約(財産をあげると約束)をしたのが一年以内ということなので、贈与が一年以内でも契約自体が一年よりも前ならば、特に当てはまりません。
もう少しシンプルに言えば、「亡くなる一年前までに贈与する約束をした場合、遺留分の請求額が多くなる」ということになります。
贈与とみなされるような財産の処分
たとえば故人が誰かに多額のお金を貸していて、「もう自分も亡くなってしまうから、借金を免除してあげよう」とその借金を免除したとします。
その免除された借金は本来、相続されるはずのプラスの財産だったはずです。ですから、これも贈与とみなされ、遺留分の算定額に含まれることになります。
特定の相続人に対する贈与
特定の相続人に生前贈与をした場合、その人に対する特別な利益であって、これを法律では特別受益と言います。
この特別受益の場合は、相続開始前10年以内のものまで遺留分の算定額に含まれることになります。
最初に書いた相続開始前一年以内の贈与と混乱しないように、以下整理していきます。
・相続人以外への贈与 ⇒ 相続開始前1年以内の贈与
・特定の相続人への贈与(特別受益に該当) ⇒ 相続開始前10年以内までさかのぼる
という整理になります。
贈与者が遺留分の侵害を知っていたら期限はない
相続人以外に贈与する場合でも、相続人に贈与する場合でそれが特別受益となる場合でも、贈与する人とそれを受け取る人が「この贈与って遺留分の侵害になるだろうな」と知っていたような場合、上で書いた1年以内、10年以内という期限はなくなります。
つまり、どれほど過去のことであってもそれを遺留分の侵害とすることができるのです。契約者の双方が知っていた以上、その意思表示を保護する必要は特にないからです。
生前贈与により遺留分侵害があった際の注意点
それでは生前贈与が遺留分の侵害に該当するとして、それに対してどのような注意をしていけばいいのでしょうか。
スタンダードな方法ですが、大切な部分ですので最後にチェックしていきましょう。
遺留分侵害額請求の時効に気をつけよう
遺留分が侵害された贈与があるとして、「遺留分に抵触する部分の金額を返してほしい」と法的に請求することを遺留分侵害額請求といいます。
➀故人の死を知り、②遺留分を侵害する贈与があったことを知った時から1年経過
または、
相続開始から10年経過
で遺留分侵害額を請求できる権利は時効で消滅してしまいます。
遺留分侵害の事実を知りそれについて争うのなら、1年以内と非常に早い期間の中で手続きをする必要があります。
内容証明郵便を送る
書面で相手に遺留分侵害の事実、そしてそれについて遺留分に相当する金銭の支払いを請求する旨を通知しましょう。
この際、配達証明付内容証明郵便という相手方に書面が届いたことを証明できるものを利用すると確実でしょう。
問題が解決しないなら弁護士へ
それでも問題が解決しないのなら、専門家に相談した方がいいでしょう。訴訟が必要になりそうな場面なので、弁護士に相談するのが一般的になります。
私達が提携する弁護士をご紹介することも可能ですので、お気軽にご連絡ください。
相続で生前贈与が気になる方は行政書士に相談ください
相続に関わる制度や行為は、本当にたくさんあります。今回のコラムの中だけでも、
- 遺留分
- 生前贈与
- 特別受益
普段あまり聞きなれない言葉が出てきます。これらを理解し、相続内容を最適化するのは非常に骨が折れる作業になります。
たとえば、贈与が相続財産と同一視されるのは、内容から見て「その贈与が相続財産の処分として扱われている」と汲み取れるようなケースが多いです。
そういったことから、行為の背景、制度の趣旨、などを深く考えていく必要があります。ご自身で不安な時は、横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。