「遺言書の内容が気に入らないから他の相続人に知られる前に破棄したい!」
「相続者のひとりが暴走して故人の遺言書をどこかに隠しているようで困る…」
「親族の特定の人に不義理なことをされたから、この人だけは財産を相続させたくない!」
ちょっと待ってください!
そのお困りごと、法律に触れてしまっていませんか?
相続は故人の財産を引き継ぐための重要な制度ですが、相続の形や関わる人々が多岐に渡り、日常生活を送っているだけではよくわからないこともたくさんあるのではないでしょうか。
今回は当てはまるだけで財産を相続できなくなってしまう『相続欠格』についてお話しします。
相続欠格とは
相続欠格とは、相続人が一定の事由に当てはまる場合にその相続する資格を失ったり、あるいは失わせたりする法律上の制度のことをいいます。
ざっくり大まかにいうと、相続に関して侵害行為を行うなど非行をした相続人に相続をさせないようにするための制裁措置といったものです。
相続欠格の5つの事由
では具体的にどのような場合に相続欠格となるのでしょうか?
民法891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りではない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
上記の5つの事由に当てはまる場合、残念ながら相続人となることはできません。
ここでポイントとなるのは、「五」に記載されている者です。
殺人や詐欺、強迫など明らかに違法である者だけでなく、意図的に本来の遺言書を書きかえたり、捨てたり、隠したりする者も相続する資格を失うことになります。
そして「五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は、相続開始前にも相続開始後にも発生しうるものなので、実務上一番遭遇しやすい問題ともいえます。
相続欠格者は相続財産を受け取れない
実際に相続欠格者に当てはまると、相続権を失うことになります。
たとえ遺言があったとしても、相続財産を引き受けることはできません。
ただし、相続欠格者に子がいる場合は、その子が代わりに相続人となることは可能です。
このようなケースを代襲相続といいます。
代襲相続とは?
詳しく書いた記事がございますので、下記をご覧ください。
あわせて読みたい:直系卑属とは?直系尊属や遺産相続との関係性を行政書士が解説!
相続欠格の手続きや証明とは
前述した通り、相続欠格という状態は民法891条という法律に基づいたものになります。
事由が重大であるために、列挙した場合には相続人になれないと定められているのです。
相続欠格の手続きや証明は不要
裁判や届出などは原則必要なく、民法891条に抵触するという事実だけで相続欠格者となります。
ただし、該当者が相続欠格であることを認めなかった場合は裁判で争う可能性があり、また認めていたとしても不動産の名義を変えるなど法定相続分の割合を変更する場合は「相続欠格証明書」が必要になるケースもあります。
相続廃除とどう違う?
相続欠格と同じような制度として相続廃除というものがあります。
相続廃除の大きな特徴としては、亡くなるかた(被相続人)の意思を尊重して、その意思に基づいて相続権をなくならせることができる点にあります。
相続廃除は故人の意思に基づく
被相続人本人が「この人には相続させたくない!!」と思っている場合に、その者を相続人から外すことができます。
他方、相続欠格は被相続人の意思に関係なく、法律に抵触する重大な事由がある場合に問答無用で適用されます。
ここに相続欠格と相続廃除の大きな違いがあります。
相続廃除の事由
大きく分けると、「虐待」・「重大な侮辱」・「著しい非行」の3つが相続排除の事由として法律に定められています。
民法982条
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下に同じ。)が被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる
それぞれ3つをざっくりと説明すると、
「虐待」
被相続人に対する暴力や耐え難い精神的苦痛を与えること
「重大な侮辱」
被相続人の名誉等を著しく害すること
「著しい非行」
前述の虐待や重大な侮辱には該当しないものの、相続人の資格が剥奪されるに相当する悪い行いのこと
これらに当てはまる場合は、生前であれば家庭裁判所に相続人廃除の請求をすることもできますし、遺言で相続人廃除の意思表示をすることもできます。
相続廃除は遺留分を有する推定相続人のみ
ただし、相続廃除者となりうるのは、遺留分を有する推定相続人のみに限定されており、その他の推定相続人に相続させたくない場合は遺言によって相続分なしとしておくことがベターです。
あわせて読みたい:遺留分とは何か?遺留分の割合と遺留分侵害請求について解説!
相続廃除者は相続財産を受け取れない
生前に請求する場合も、遺言で意思表示をする場合も、どちらも家庭裁判所での審判手続きを経て確定した際に相続廃除の効果が発生します。
相続廃除の効果とはつまり、相続人としての資格がなくなり、相続財産を受け取れなくなるということです。
遺言の場合は相続開始時にさかのぼって相続人ではなかったことになります。
ただし、こちらも相続欠格と同様、相続廃除者に子がいる場合は、その子が代わりに相続人となること(代襲相続)は可能です。
相続欠格者が反対する場合は裁判で解決
いくら相続欠格事由に該当する者がいたとしても、その当の本人が「自分は相続欠格者ではない!!」と反対する場合は基本的に裁判で争うことになります。
相続欠格を主張するかたは「相続権不存在確認訴訟」を起こすことにより、他方相続欠格を不当と主張するかたは「相続権確認請求訴訟」を起こすことにより裁判が開始されます。
どちらも相続廃除とは異なり、地方裁判所に請求します。
ひとつポイントとして挙げられるのは、「遺産分割調停」の審理の中で相続欠格事由を争うことはできず、相続欠格が相続問題の焦点となる場合でも別途訴訟を起こす必要があることです。
相続欠格が問題となる事例
財産を独り占めするために遺言書を破棄した相続人
Aには子B(長男)・C(次男)・D(三男)がおり、配偶者は離婚しているため、先々のことを考えて3人の子どものために自筆証書遺言を作成した。内容としては、相続財産は均等な分割ではなく、一番歳の若いDへ多めに分配するものだった。Aはその遺言書を長男であるBに預け、その内容もBだけには口頭で伝えていた。Bが10年ほど保管した末にAが事故で死亡。Bは遺言書を保管していたがDの取り分が多いことに納得できず、遺産分割協議前にもかかわらずその遺言書を破棄してしまった。 |
たとえ遺言書の内容に不満があったとしても、故意的に遺言書を捨てるといった行為は相続欠格事由のひとつですので、法的に相続人から外される原因となります。
故人(被相続人)の意思を尊重するためにも、まずは相続人間でよく話し合われることをおすすめします。
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相続人に不安がある場合は早めに行政書士などの専門家へ相談を
実際に相続が開始され遺産分割協議が進む中で、ひとりの相続人が遺言書を隠していた事実が発覚…などというケースも起こり得ます。
相続自体は開始されていても、相続前の事由が原因で該当の相続人が相続欠格者となり、さかのぼって相続人の資格を失う者が出てくる可能性もあります。
非行が原因で「この家族には絶対に財産を相続させたくない!」という被相続人ご本人の意思表示のお手伝いはもちろん、同じ相続人間でも「不安要素のある者がいて心配!」など相続に少しでも気掛かりな点がある場合は、ぜひ行政書士などの専門家に早めの相談をされてみてください。