遺言執行者がいる場合でも遺産分割協議はできるのか?手続きを行政書士が解説!

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相談者様:<br>50代女性
相談者様:
50代女性

先日父が亡くなりました。

相続人は母と長女である私、次女の妹の3人です。

 
父の遺品を整理していたところ遺言書が見つかり、母には預貯金と実家の土地と建物を、私と妹の相続分として田舎の山林を指定する旨と、叔父を遺言執行者に指定する旨の記載がありました。

しかし、2人で相続となると後々手放したくなった場合などに手間がかかるのではないかと思い、妹と話し合って私一人で相続した方が良いということになりました。

 

叔父には遺言執行者に就任する意思がありますし、遺言書による指定がある以上、相続人である私たちは遺言書通りに相続をする以外に方法はないのでしょうか?

 

長岡行政書士事務所:長岡
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今回のご相談は、お父様が亡くなって遺言書が発見され、遺言執行者の指定がある中でも遺言書の内容と異なる遺産分割協議は可能なのか?といったご相談です。

 

結論から申し上げますと、基本的には”遺言によって遺産分割が禁止されていないこと”や、”相続人全員+遺言執行者の同意”があるような場合であれば遺言執行者がいる場合であっても遺言書と異なる遺産分割協議が可能です。

 

今回は、遺言執行者が指定されている場合であっても遺産分割協議ができるのか?また、その場合の遺産分割協議に関する手続きを解説していきます。

 

遺言書がある場合の大原則

相続について規定されている民法には、『私的自治の原則』という原則があります。

私的自治の原則とは、個人は他者からの干渉を受けることなく、自らの意思に基づいて自らの生活関係を形成することができ、国家も個人の意思で形成された生活関係を尊重し、保護しなければならないとの原則です。

 

つまり、私的自治の原則に立つ民法のもとでは、遺言者の意思を表明したものである遺言書がある場合、原則として遺言書が優先されます。

 

遺言書がある場合、原則として法律の規定よりも遺言書が優先される

ある人が亡くなった場合、その人の相続については法律に規定があります。

しかし、有効な遺言書がある場合には、法律の規定よりも遺言書の内容が優先されます。

 

遺言書は、遺言者の最終の意思表示による財産処分などに関する法律行為です。

民法の基本原則である『私的自治の原則』から、遺言者の最終意思である遺言を国家ルールである法律ですらも制限することはできません。

つまり、遺言書は遺言者本人の最終意思表示であるため、死後においてもその最終意思を尊重して私的自治を死後にまで及ぼすものとして遺言書を優先すると考えられています。

ただし、何でも個人の意思が尊重されるというわけではありません。

本来”相続制度”の目的は、財産承継者を定めることにもありますが、遺言者の死後に残された家族の生活保障という目的もあります。

家族の生活保障のために、個人の意思を尊重しつつ、相続人に一定の財産を確保する、”遺留分”という制度によって制限される場合もあるので注意が必要です。

 

遺留分について、詳しくは以下のリンクからご確認ください。

合わせて読みたい:遺留分とは?具体例や侵害された遺留分請求方法をわかりやすく解説!

 

遺言書がある場合に遺産分割協議を検討するケース

では、遺言書があるときで、遺産分割協議が検討される場合とはどのようなケースでしょうか。

主に以下のようなケースで検討されます。

  • 遺言書に全ての遺産について記載がある場合
  • 遺言書に一部の遺産についてのみ記載されている場合

 

遺産分割が必要なケースと必要ではないケースを見ていきましょう。

合わせて読みたい:遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説

全ての遺産について記載がある場合は遺産分割協議が不要

遺言書の中に遺産の全部が記載している場合は、他に分割する財産がないため、遺産分割協議は不要です。

 

その人の持っている財産を漏れなく全て遺言書に記載することは難しいです。

しかし、『その他の財産』と記載してある場合などは遺産の全てをカバーする遺言書であると考えられています。

 

『その他の財産』や『その他一切の財産』というような文言がある遺言書には遺産分割協議は不要であると考えられます。

 

一部の遺産についてのみ遺言書に記載がある場合は遺産分割協議が必要

一部の遺産のみについて遺言書が書かれている場合、残った部分については遺産分割協議が必要となります。

  • 妻に住むところを残してあげたい。だから土地・建物だけは指定しておきたい
  • 自身の会社の株券だけは後継の長男に指定しておきたい

 

このように財産のうち一部のみを指定している場合には、指定がない部分について遺産分割協議が必要となります。

この際、相続人の一人が遺言書で何かをもらっている場合には、”特別受益”を受けているという扱いをしたうえで遺産分割協議をすることになります。

 

特別受益について、詳しくは以下のリンクからご確認ください。

合わせて読みたい:特別受益とは?生前に親から多額の援助を受けた場合は相続に影響するため注意

 

遺言書と異なる遺産分割協議も可能

遺言書は遺言者の最終意思表示であるため、原則として遺言書の内容が優先されます。

しかし、遺言書の記載通りに分割することで相続人らにとって不都合を生じる場合はないとは言い切れません。

 

そこで、以下のような条件が揃った場合には、遺言書と異なる遺産分割協議が可能と考えられています。

  • 遺言書によって、遺産分割協議による相続を禁止していない場合
  • 相続人と受遺者の全員が同意している場合

これらの条件について以下で詳しく説明します。

 

遺言書によって遺産分割協議による相続を禁止していない場合

遺言書が存在するにもかかわらず遺産分割協議ができる場合について、以下のように法律に定めがあります。

民法 第907条

共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

 

つまり、遺言者本人が遺産分割協議ををすることを禁止した場合を除いて相続人は遺産分割協議をすることができます。

相続人と受遺者の全員が合意している場合

相続人や相続人以外の受遺者の全員が遺言の内容に納得しておらず、さらに遺言書とは異なる遺産分方法に全員が合意した場合、遺産分割協議による相続が認められます。

ここで注意が必要なのは、相続人全員の合意と併せて、相続人以外の受遺者の合意も必要という点です。

相続人以外の受遺者とは、相続人以外の第三者で、遺言者の財産を遺贈(※1された人のことです。

 合わせて読みたい:受遺者(じゅいしゃ)とは?2つの種類を行政書士が分かりやすく解説!

 

遺言書の効力は遺言者の死亡と同時に発生します。

したがって、”受遺者に遺贈する”という遺言がある場合には、遺言者の死亡と同時に受遺者にも財産を受け取る権利が発生します。

 

相続人の意思だけで一方的に受遺者の権利を奪うことは許されません。

そのため、遺言の内容と異なる遺産分協議を行う場合には受遺者の同意も必要と考えられています。

 

受遺者がいる場合には、相続人だけが合意したのでは足りないことに注意してください。

 

遺言執行者がいる場合には配慮が必要

遺言によって遺言執行者を指定している場合があります。

”遺言執行者”とは、遺言者の死後に遺言書の内容を実現する手続きを行うために選任された人のことです。

 

遺言執行者には、相続財産の管理その他の遺言の執行に必要な一切の行為をする権利や義務があり、その権限内でした行為は相続人に対して直接にその効力を生じることから、遺言執行者は遺言者と相続人の代理人であるということができます。

相続人等全員が同意しているからといって、遺言執行者の権利や義務が免除されるわけではありません。

 

したがって、遺言執行者がいる際に遺言と異なる遺産分割協議を行う場合には、遺言執行者の同意も必要となります。

 

遺言執行者の同意がない場合は見解が分かれている

相続人全員と受遺者の同意はあるものの、遺言執行者の同意がない場合については見解が分かれています。

 

遺言執行者は、遺言の内容の実現に努めるべき地位にあります。

遺言の内容の実現を妨げる場合、その妨げている事由を排除することも任務です。

したがって、遺言執行者の同意がない場合の遺言と異なる遺産分割協議は無効であると考える説があります。

 

一方で、遺言によって相続人や受遺者が取得した権利を相続人全員と受遺者の合意によって事後的に変動させたと考えて、遺言執行者の同意がない遺言と異なる内容の遺産分割を有効であるとする説があります。

 

以上のように、見解が分かれていることからすると、遺言執行者の同意を得ておくと安心でしょう。

 

遺言書と異なる遺産分割協議ができない場合がある

遺言によって遺産分割協議が禁止されていない場合や相続人全員の合意がある場合であっても、遺言と異なる遺産分割協議ができない場合があります。

 

相続させる旨の遺言と異なる遺産分割の合意をした場合

まず、相続させる旨の遺言とは、『〇〇に相続させる』と記載された遺言のことです。

 

この”相続させる旨の遺言”は、特段の事情がない限り遺産分割方法の指定と解されており、受益相続人(※2)は何らの行為を要せず、被相続人の死亡時に即時に当該財産の権利を取得します。

 

※2 受益相続人とは・・・

相続させる旨の遺言”によって利益を受ける相続人のことを指します。

 

その場合、受益相続人が相続放棄の申立てをしなければ当該財産の権利移転の効力を否定することはできず、当該財産については遺言に基づいた権利移転をせざるを得ません。

そのため、”〇〇に相続させる”という記載の遺言書は遺産分割協議の余地はなく、遺言書が優先されるとされています。

 

したがって、”相続させる旨の遺言”で指定されている財産については、遺産分割協議をすることはできないと解されています。

 

それでも当該財産の権利を移転させたい場合、”まずは遺言の内容に従った権利移転、その後、贈与などの合意によってさらに移転登記”という手続きを行う必要があります。

合わせて読みたい:http://今更聞けない!特定財産承継遺言とは何か?旧法と現行法の違いも解説!

遺言書の内容と異なる遺産分割協議の書式

相続人全員が合意し、遺言書の内容と異なる遺産分割協議を行なった場合、その旨を確認するために遺産分割協議書の冒頭に記載することをお勧めします。

 


遺産分割協議書(冒頭部分のみ)


被相続人    〇〇 〇〇(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生まれ)
死亡日     令和5年〇〇月〇〇日
本籍地     神奈川県横浜市〇〇区〇〇-〇〇
最終の住所地  神奈川県横浜市〇〇区〇〇-〇〇


被相続人〇〇(以下「被相続人」という。)の遺産相続につき、被相続人の妻 〇〇 〇〇(以下「甲」という。)、被相続人の長男 〇〇 〇〇(以下「乙」という。)の相続人全員が遺産分割協議を行い、本日、下記の通りに遺産分割の協議が成立した。

なお、被相続人は令和5年〇〇月〇〇日付けの自筆証書遺言を作成しているが、遺言作成時より被相続人の遺産の状況が異なっており、相続人の状況も変化している。
そのため、被相続人の意思を尊重しつつ、相続人全員の合意をもとにこの遺産分割協議書を作成した。

 

遺言書の内容と異なる遺産分割協議は専門家への相談がおすすめ

遺言書がある場合、ご本人の意思ですから尊重したいと思いますが、相続人等にとっては一方の人が当該財産をもらうよりも、もう一方の人がもらうほうが当事者としては有意義であったり、遺言書通りに相続することで相続人等の争いが生じてしまったりする場合には、遺言書が存在しても遺産分割協議をする意義があると思います。

条件次第では遺言があっても遺産分割協議は可能です。

しかし、遺言執行者がいる場合には、相続人だけの問題ではなくなってしまいます。

そのような場合、さまざまなことに気を配る必要が生じ、ただでさえ相続の手続きは大変だと感じる方が多い中でもさらに負担が増えることになってしまいます。

 

相続に関してご心配事がある場合には、専門家である行政書士へご相談ください。

<参考文献>常岡史子/著 新世社 『ライブラリ 今日の法学=8 家族法』

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この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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