「亡くなった父のローンを返済したけれど、これって相続の時どうなるの?」
「故人の借金を立替えたら、遺産分割に影響する?」
「相続時の立替金って具体的にどんなもの?」
相続にはいろいろと複雑な部分があります。日常で行っていたことも、相続になると非常に厄介な問題になったりします。
たとえば亡くなった親の家賃や生活費を払っていたり、家や車のローンを立て替えたりしている人も多いと思います。
その立て替えたお金は、遺産分割においてどのように扱えばいいのでしょうか。今回はそんな、故人の債務を立て替えた場合について、横浜市で相続手続をサポートしている行政書士が詳しく解説します。
相続財産の定義
故人の借金を立替えたら相続でどのように扱うのか知るためには、まず「相続財産」とは何なのかを知らなくてはなりません。
相続といえばやはり一般的なイメージだと遺産を誰が受け取るのか、という感じだと思います。
しかし相続財産には、プラスの財産とマイナスの財産があります。そして相続では、この両方を引き継ぐのです。
プラスの財産
預貯金や有価証券、車などの動産、家や土地などの不動産、それらは財産的に価値があるものですのでプラスの財産となります。
マイナスの財産
借金や亡くなった人が何か事件を起こしてしまい、損害賠償をしなければならない時の損害賠償債務など、死亡時に故人が負っていた「お金が減っていく財産」は便宜的にマイナスの財産と呼ばれます。
なお、遺族である相続人には、故人の財産をしっかりと把握することは難しいため、これらマイナスの財産を拒否することができる「相続放棄」という手段が用意されています。
相続放棄をすれば、相続人が借金を返済する必要はありません。もし相続放棄をしなければ、マイナスの財産を受け継いでどうにかしてそれを返済していく形になります。
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また、マイナスの財産が多いと大変だと思いますが、税制の場面ではメリットもあります。
相続税は「プラスになった部分」にのみかかるため、マイナスの財産分は控除されます。
事業をやっている方などは、売上から諸経費を引いた金額に税金がかかることをイメージしてもらえればいいと思います。
「出ていくお金」には税金がかからないので、マイナスの財産があると、その分税金は安くなります。
これを債務控除と呼びます。
なぜこのような「相続財産の定義」についてお話したかというと、相続人が故人の借金を立替えていた場合、それは故人から見た場合は「債務」、つまりマイナスの財産として扱われるためです。
相続における立替金は「マイナスの遺産」
亡くなった親のローンを代わりに支払う、入院費用を肩代わりする、といった「本来本人が支払うべき費用を代わりに誰かが支払っている時のお金」が立替金と言えます。
それでは、たとえば亡くなった親のために子が立て替えた諸々の費用、つまり「立替金」は相続においてどのように扱われるのでしょうか。
「立替金」は、本来は亡くなった親が支払うべきお金です。それを子が立替えたということなので、親は子に対してお金を支払う義務(立替えてもらったお金を返す義務)が生じます。
相手が親族だとしても、銀行や消費者金融などの第三者だとしても、お金を支払う義務があるのならそれは基本的に、債務として相続されます。
つまり相続において、立替金は「マイナスの遺産」だということです。
立替金がマイナスの遺産となる要件
立替金がマイナスの財産として承継されるのなら、その分の金額だけ相続税が控除されることになります。つまり、子が親のために支払った費用が「立替金」となるか否かは、相続税に影響を与えることになるのです。
そのため、「立替金」として認められるためにはいくつかの要件をクリアしなければなりません。立替金という名目で、不当に相続税の控除をすることを防ぐためです。
主な要件について見ていきましょう。
- 立替の事実を証明する
- 立替えた人がわかるようにする
- 当該立替が扶養義務に該当しないこと
立替の事実を証明する
たとえば親の入院費用を支払った際に領収書を受け取るなどして、客観的にお金を立て替えたという事実を証明する必要があります。
立替えた人がわかるようにする
上の例をそのまま使うと入院費用を支払い、領収書を受け取った際に、宛先としてしっかりと立替えた人の名前が記されているなど、誰が支払ったのかが明確に証明できる状況にする必要があります。
当該立替が扶養義務に該当しないこと
扶養義務とは、家族同士がお互いに助け合って生きていくことを定めた義務です。
民法877条1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
たとえば亡くなった親に経済力がなく、経済力のある子が入院費用を支払っていたのなら、この扶養義務に該当する可能性があります。
扶養義務のために支払ったお金は、相続財産とはなりません。だから相続税の算定額から控除されないことになります。
相続手続で立替金が問題になりやすい具体例
それではより具体的に考えるため、実際に立替金が問題になりやすい場面を見てみましょう。
立替金の種類 | 遺産(マイナスの財産)となるか | 相続税の算定額 |
生活費 | 〇 | その分だけ控除 |
ローンや借金 | 〇 | その分だけ控除 |
お葬式費用 | 〇 | その分だけ控除 |
専門家の費用 | × | 控除されない |
亡くなった人の生活費の立替
両親が高齢になると収入が減るので、子が親の分の生活費を支払うことがよくあると思います。家賃を払ってあげたり、食費を払ってあげたりして、両親の生活を支えているような場合です。
そのような場合、先ほど述べた扶養義務に該当するかと思われますが、亡くなった人の遺した財産が結果的にプラスであるならば、扶養義務には該当しません。
「財産はしっかりあるけれど子供が支払ってくれたお金」としてその生活費は、マイナスの財産としてカウントされます。
相続税の算定額がその分だけ減ることになります。
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亡くなった人のローンや借金の立替
両親がいよいよ亡くなりそうになったので、そのローンや借金を子が自分のお金で清算したような場合です。
今まで書いてきたように、子供への借金もマイナスの財産としてカウントされますので、相続税がかかる金額から控除されます。
お葬式の費用の立替
こちらは正確には亡くなった方の債務ではありませんが、一般的にお葬式の費用は喪主となった方が立替えて支払うパターンが多いと思います。
厳密な意味での相続財産ではありませんが相続開始後発生する必要なお金であるため、お葬式の費用は立替えた分、相続税の算定額からは控除されます。
合わせて読みたい:葬儀費用も遺産分割協議書へ記載できる!文例や遺産分割時の扱いについて行政書士が解説
相続や税務申告にかかる専門家の費用の立替
遺産分割協議書の作成や遺言執行を行政書士にお願いしたり、相続税の税務申告を税理士にお願いししたりすることもあると思います。
これらはお葬式の費用と違って、故人が遺したマイナスの財産と評価はされない傾向にあります。
死後に発生した任意の費用として、相続人や関係者が支払う費用とされています。
遺産分割時に立替金が精算されることもある
さて、ここまで立替金が相続税に与える影響について見てきましたが、立替金が相続人の取り分に影響することもあります。
たとえば相続人がA・Bの二人で、3,000万円の遺産を平等に分けるとします。
ここで、相続人Aが葬儀費用として200万円を立て替えていたとしたらどうなるでしょう。
3,000万円を平等に遺産分割するとなれば、本来はA・Bがそれぞれ1500万円ずつ受け取ります。しかしAには200万円の立替金があるため、Aは1,600万円、Bは1,400万円の遺産を受け取れば、Aの立替金を精算できたことになります。
(Aには200万円の立替金があるため、Bより200万円多く遺産を受け取るわけです)
立替金の関係する相続手続も行政書士に相談できる
こうして立替金について説明していくとやはり、「どんな費用であれば相続時に立替金として扱ってもらえるのか」、ということを的確に把握するのは非常に大変な問題だと思います。
たとえば喪主となった長男がお葬式の費用を支払ったのに、自分が立替えたことを特に申告もせず、その分だけ相続税が増えてしまうということもあります。また、遺産分割において他の相続人との間で精算が行われず、不平等な結果になってしまうこともあるかもしれません。
自分が亡くなった方の債務を立替える際、債務控除するためには領収書やその宛名はもちろんのこと、家族同士の扶養義務ということを考えなければなりませんでした。
ある程度の指標として、利益を受けている側に経済力があるかないか、というものがありますが、それもより具体的にケースごとに考えていく必要があります。
このように立替金の関わる相続についてお困りの方は、ぜひ横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。相続の進め方については行政書士がサポートいたしますし、具体的な相続税計算については提携している税理士をご紹介いたします。
初回相談は無料ですので、まずは来所予約をお待ちしております。メール・電話・LINEなど、どの方法でご連絡いただいても構いません。