「父が亡くなって遺産をどうするかの話し合いがしたいのですが、兄と連絡がとれません」
「連絡がつかない人抜きで遺産の分割を決めてもいいのでしょうか」
「不在者財産管理人には私でもなれますか」
・・・
財産を残して亡くなった方(=被相続人)が遺言を書いていなかった場合は、法律で決められた相続人が全員集まって遺産をどう分けるかについて話し合いを持ち(=遺産分割協議)、遺産の分け方につき合意に至らないといけません。
では、相続人の中で連絡が取れない人がいる場合はどうなるのでしょうか。
連絡がとれないのだからしょうがないと、残りの相続人たちだけで決めてもいいのでしょうか。
本日は行方不明の相続人がいる場合はどうすべきかの解説を行います。
相続人全員ではないと遺産分割協議が進められない
まずは遺産分割協議に関する規定である民法907条1項を見てみましょう。
第907条1項
共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
ここで言う「共同相続人」とは、相続財産を共同所有している相続人の事を指します。
被相続人が亡くなると財産はいったん相続人たちの共同所有ということになり、話し合いにより財産を分けていくことになります。
遺産分割協議に参加しない相続人がいるとその人の財産まで他の相続人で分けてしまうことになるので、相続人の全員参加が必須なのです。
合わせて読みたい:遺産分割協議書の作り方とは~実際の書き方を詳しく行政書士が解説
不在者財産管理人という制度がある
とはいえ、不在者は見つからないから不在者なのであり、参加してもらえないから遺産分割協議が進められないとなると他の相続人が困ってしまいます。
不在者財産管理人の役割
そのような事態を避けるために使うことができるのが、不在者財産管理人制度です。
これより不在者財産管理人制度について説明していきます。
不在者財産管理人による「管理」とは、財産を保存し、あるいは財産の性質を変えない範囲で利用・改良することです。
積極的に投資等を用いて財産を増やすことは役割ではありません。
不在の間に財産を守るという役割です。
どれだけの財産があるのかを明確にするために財産目録を作成する必要があり、その後は家庭裁判所の求めに応じて定期的に財産の状況を報告する必要があります。
そして、遺産分割協議への参加は本来の不在者財産管理人の業務範囲を超えることになるため、家庭裁判所に申し立てて「権限外行為許可」を得る必要があります。
不在者財産管理人の選任の仕方
不在者財産管理人は誰でもなれるわけではありません。
家庭裁判所に申し立てて選んでもらう必要があります。
申し立てをすることができるのは不在者の利害関係人に限られます。
具体的には、不在者の配偶者や債権者ですが、不在者がいることで遺産分割協議ができない他の相続人も利害関係者として申し立てをすることができます。
申し立ての為の必要書類としては
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本と戸籍附票
- 不在者財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
- 不在であることを証明する資料
- 不在者の財産に関する資料
- 戸籍謄本等の不在者と申立人の関係を示す資料
不在であることを証明する資料には、警察が発行する行方不明者届受理証明書や宛先人不明で返送された郵便物を使うことができます。
不在者財産管理人に関する注意点
不在者財産管理人はあくまで不在者の財産を守るために行動します。
申し立てをした他の相続人の利益になる事をしてくれるわけではありません。
不在者財産管理人選任までに時間がかかる
また、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立ててから実際に選任され、遺言分割協議に参加できるようになるまで時間がかかります。
相続には期限があり、相続を知った日から10カ月以内に相続税の申告・納付を終わらせる必要がありますが、期限を守ることができないと延滞税が課されたり、税金の軽減制度が利用できなかったりとデメリットが発生します。
相続が始まってから不在者財産管理人の申し立てをすると、時間的にだいぶ厳しくなると認識すべきです。
不在者財産管理人には報酬が発生する
最後の注意点として、不在者財産管理人には報酬を要求する権利があり、報酬は不在者の財産から支払われることが挙げられます。
報酬額には家庭裁判所の判断が入るので法外な額にはなりませんが、不在者が帰ってきた時は目減りした財産に関し不満を感じる可能性があります。
相続人に不在者がいる場合は専門家に相談
行方不明の相続人がいる場合は不在者財産管理人を申し立てることにより遺産分割協議を進めることができますが、様々な判断や手続きをしなければいけません。
例えばですが、
- 不在者財産管理人の申し立てか、失踪宣告にすべきか。
- どうやって不在であることを証明するのか。
- 相続を期日までに終わらせるには何から手を付けて行くべきか
等々です。
ただでさえ相続は手続が多いのに、不在者がいる場合の対応まですることは大きな負担です。
しかしながら、遺言を生前に書いて準備しておけば、家族に不在者がいても負担を軽減しトラブルを回避することが可能になります。
相続に慣れた人はなかなかいません。
ぜひ専門家のアドバイスやサポートを得て、円滑な相続を目指してください。
長岡行政書士事務所は相続の経験が豊富にあり、相談者様には印鑑一つで済む負担の少ない相続を目指しています。
不安やわからない点がある場合は、ぜひ当事務所へお気軽にご相談ください。