「私が死んだあと、大切なペットはどうなるのだろう?」
「自分の死後、ペットの面倒を見てもらう方法ってどんなものがあるの?」
「信託や負担付贈与でペットを任せる際の注意点は?」
ペットを飼っている方の中には、自分の死後、大切なペットを誰にどのように引き継げばいいのか分からずに困っている方もいるのではないでしょうか。
結論として、ペットに直接財産を相続させることはできません。しかし「信託」や「負担付贈与」などを活用することで、自分の死後もペットの面倒を見てもらうことが可能となります。
今回はそんな相続におけるペットの問題について、法律的な観点からお話したいと思います。
相続におけるペットの扱い
まずはじめに、相続におけるペットの扱いについて知っておきましょう。ポイントは次の3つです。
- ペットには相続させられない
- ペットそのものが相続財産となる
- 改正動物愛護管理法によって終生飼育が義務付けられている
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ペットには相続させられない
「愛するペットが住む家を確保してあげたい」「ペットの一生分の餌代を用意しておきたい」などの理由から、ペットに遺産を遺したいという方もいるかもしれません。
しかし結論として、ペットは遺産を受け取ることはできません。ペットには相続させられないということです。
ペットそのものが相続財産となる
あくまでも法律的にはペットは動産、つまり車や楽器などと同じように扱われています。
つまりペットそのものが相続財産となるということです。
家族同然の命ある生き物で、少し悲しい気がしますが、法律上区分するためにやむを得ないということでしょう。
ペットそのものが相続財産となる以上、自身の死後にペットの面倒を見てくれる人を見つけて、その方と「ペットの世話をする」という約束をしておくことが重要です。
改正動物愛護管理法によって終生飼育が義務付けられている
「ペットも動産の一種」であることは事実です。
しかし普通の動産とは異なり、飼い主にはペットが死ぬまで面倒を見る努力義務があります。
動物の愛護及び管理に関する法律 第7条4項 動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(以下「終生飼養」という。)に努めなければならない。
安易に飼育を始め、捨ててしまうというケースが増えたため、このような法律が定められました。
つまり、ペットを相続財産として受け取るとしても、それ相応の責任が生じるということです。
命をあずかるのですから、当たり前なのかもしれません。
たとえば相続によって「大切にしていたギターを譲る」といえば、相手に対して大きな負担は生じないでしょう。しかし「大切にしていたペットを譲る」ということは、相手に対して負担を与える可能性があることも留意しておくべきです。
ペットにまつわる相続対策は3種類
さきほども述べたようにペットは故人の持っていた動産の扱いになります。
この点をふまえると、死後にペットの面倒を見てもらうための法律的な対策としては、次の3点が挙げられます。
- 遺言書
- 負担付死因贈与
- ペット信託
それぞれ詳しく見ていきましょう。
遺言書
ペットにまつわる相続対策としてまず考えられるのが、遺言書の活用です。
遺言書にペットを相続させたり遺贈する旨を書いて、誰か信頼できる人に任せることができれば、安心できるでしょう。
遺言書にペットについて記載をすれば、自分が死亡した後にすぐ確認されることになります。
ペットが誰に遺されたか、ということが非常にわかりやすいです。
ペットの面倒を託すときには、「負担付遺贈」を用います。
負担付遺贈とは、遺言によって財産を受ける人(受遺者)に、義務(ペットの世話など)の負担などの条件をつけて財産を譲ることです。
合わせて読みたい:自分亡き後のペット問題は負担付遺贈の遺言書で対策!注意点や書き方を行政書士が解説
しかし遺言書に「ペットを譲る」と記載したとしても、相続放棄される可能性もあります。
相続放棄とは、相続財産を受け取ることによる負担が多い場合などに、「これほどに負担が多いのなら、いっそ受け取らない」と選択することです。
合わせて読みたい:相続放棄とは?遺産相続で負債がある場合の対処法を行政書士が解説!
確かにペットは可愛いものかもしれません
しかし、故人が老後独り暮らしになってからペットを購入したとしたら、あまりペットのことを知らない相続人は愛着が薄く、ペットの面倒をみるのが大変という理由で相続放棄をする可能性もあります。
結局誰もペットを受け取るつもりがないのなら、多くの場合、保健所でそのペットをあずかることになります。
「ペットのために遺言書で書いたから一安心」というわけでもないのです。
そのため遺言書による負担付遺贈でペットを託す場合は、世話をお願いする相手の了承を得ておくことはもちろん、遺言内容を実行してくれる遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
関連記事:遺言執行者としての手続きとは?遺言者が死亡したらやるべきこと
負担付死因贈与
他の財産と違い、ペットはそれ相応の責任のある相続財産であり、だからこそ譲り渡す人、受け取る人、の双方でしっかりと話し合いをした方がいいでしょう。
そしてそれを書面にして契約することで、安心してペットを預けることができます。このペットの面倒を見ることを約束する時に使う契約が「負担付死因贈与契約」です。
「負担付死因贈与契約」は、一定の義務を果たすことを条件として財産を贈与する契約です。
ペット以外の例を挙げると、家を贈与するけどそのローンは支払ってほしい、というような当事者間の契約が代表例です。
そして負担付死因贈与契約の場合は、それが契約者の死亡をきっかけに起こる、ということになります。
自分が死んだらこの家をあげるけど、ローンは支払ってくださいね、という感じです。
さきほど遺言書でペットを誰かに譲ると、相続放棄される可能性がある、という話をしました。
遺言書で行われる相続や遺贈という法律行為は、それを作った人の意思によってのみ成立する法律行為です。法的な要件を満たしていれば一方的な意思表示で成立します。つまりそれだと、受け取る人、遺す人、の間の合意は必要ではなく、契約ではありません。
そのため、放棄をする、という選択肢が受け取る人たちには残されているのです。
しかし負担付死因贈与は契約であるため、その内容を相互に調整できます。
ペットの飼い主が変わる際、そのお世話や環境など、様々な要因が絡んできます。
したがって、一方的に「あなたに任せる」とするよりは、負担付死因贈与契約などの契約を当事者間で結んで、しっかりと書面に残しておいた方が安心です。
ペットの世話を約束する負担付死因贈与契約の中で、次のような主要なポイントはすべて整えておくとよいでしょう。
- 主に誰がペットの世話をするか
- 餌や病院代など、ペットの費用はどうするか
- その費用のために遺す財産
- 契約解除の条件
もちろん手間はかかりますが、この方がペットの面倒をしっかりと請け負ってくれることでしょう。
横浜市の長岡行政書士事務所では、ペットの面倒を見ることを前提とした負担付死因贈与契約の作成サポートにも対応しています。(ただし実務的には、負担付遺贈を利用するケースが多いです)
負担付信託贈与の注意点としては、死後に「ペットの世話」が確実に行われているかチェックしづらい点が挙げられます。
通常の契約では、しっかりと契約内容が履行されているかどうかは、契約締結者同士でチェックをするのが一般的です。
しかし死因贈与の場合は、一方が死亡しているため通常の契約と違ってチェックができません。
ペット信託
遺言書に書いたり、負担付死因贈与のほかに、ペット信託という手段が最近では使われるようになっています。
ペット信託は、その名の通りペットに関する信託契約です。これは万が一の時のため、ペットのためのお金を信頼できる人に預けておき、適正な飼い主に飼育してもらう仕組みになります。
それぞれの不安な点をカバーしてくれるのがこのペット信託という制度です。
そもそも信託契約とは、「何のための財産か」という目的を定めて、財産等の管理を信頼できる人に任せるものです。たとえば、投資をやっている方なんかは投資信託を想像してもらってもいいでしょう。
遺言書は相手に拒否される可能性があり、負担付死因贈与は相手が約束を守らないときにチェックできないという不安がありましたが、それぞれの不安な点をカバーしてくれるのがこのペット信託という制度です。
ペット信託を結ぶときは、「委託者」「受託者」「新たな飼い主」を定めます。さらに「信託監督人」を設定することも可能です。
委託者とは、財産の管理をまかせる人です。ペット信託の場合、元々の飼い主のことになります。
受託者とは、財産の管理をまかせられる人です。ペット信託の場合、元々の飼い主から財産を預けられた信頼できる第三者(多くの場合、家族や友人です)になります。
そして新たな飼い主とはそのままの意味で、ペットを飼育してくれる人(たとえばペットを飼育してくれる施設など)です。
この三者でペット信託契約を結ぶことになります。
そして契約がしっかりと行われているかをチェックする人が「信託監督人」です。
この信託監督人がいることで、たとえ委託者(元々の飼い主)が亡くなったとしても、ペットの世話がしっかり行われているか、ペットのために財産が使われているかをチェックできるのです。
このようにペット信託は優れた制度だといえますが、飼育費用などペットのための資金を事前に準備することは簡単ではないでしょう。また、信頼できる受託者を見つけることも難しいかもしれません、
ペット信託サービスをしている団体もありますが、それにも費用がかかることがあります。
また信託監督人にも費用がかかるため、高額になりやすいことは想定しておきましょう。
また、「信託」というものを扱っている専門家が非常に少ないことも事実です。
これは信託の制度自体が民法の遺言制度と違い、昔からある制度ではないこともありますし、一番は制度自体の設計が難しいことから専門家が敬遠している一つと言えると思います。
ペットの相続問題も行政書士に相談できる
家族同然にずっと暮らしてきたペット。そのペットがずっと幸せでいてほしいものですよね。
その幸せを確実にするには、やはり生前に相続対策しておくことが重要です。
遺言書、負担付死因贈与、ペット信託、それぞれのメリットとデメリットを把握し、より自分に合った方法にするのが大切でしょう。実務的には、遺言書による負担付遺贈によってペットを託すケースが多いです。
どの方法を選ぶのがベストなのか判断するためには、確かな知識や経験が必要になります。もしペットの相続についてお悩みなら、ぜひ横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。それぞれの方の希望にあわせて、最適な方法をご提案いたします。初回相談は無料です。