被相続人(故人)が借金などの負債を有しているケースは珍しくありません。
そして相続においては、このような負債は引き継がず、資産だけを引き継ぐようなことはできないこととされています。
このような負債がある場合に選択肢となるのが、「限定承認」です。
限定承認をすれば、引き継いだ資産の範囲内でのみ、借金などの負債を引き継ぐことになります。
では限定承認をした場合、相続税・所得税などの税金にもなにか影響があるのでしょうか。 今回は限定承認と税金の関係や注意点について解説していきたいと思います。
限定承認とは
まず限定承認の概要から説明していきます。
相続が開始した場合、相続人は次の三つのうちのいずれかを選択できます。
単純承認 | 相続人が被相続人(亡くなった方)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ |
相続放棄 | 相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない |
限定承認 | 相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ |
今回のテーマである限定承認は、被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合などに活用します。
限定承認が受理された場合、限定承認者(相続人が複数のときは申述の受理と同時に選任された相続財産清算人)は、相続財産の清算手続を行わなければなりません。期間内(限定承認者の場合は5日以内、相続財産清算人の場合は選任後10日以内)に、限定承認をしたこと及び債権の請求をすべき旨の公告(官報掲載)の手続をしてください。
その後は法律にしたがって、弁済や換価などの清算手続を行っていくことになります。
出典:裁判所ホームページ
限定承認後に退職手当金が支給された場合の債務控除
それでは、限定承認が相続税計算に与える事例についてみていきましょう。
限定承認後に被相続人の退職金が支給された場合の、相続税計算上の債務控除について紹介します。
被相続人の「消極財産(債務)の価額」が「積極財産(資産)の価額」を上回っていたため、相続人は限定承認したとします。
そして限定承認の後に、被相続人の関係会社から退職手当金が支給されました。
この場合、相続税の課税価格の計算上、退職手当金の額から債務を控除することができるのでしょうか。
答えは、「債務控除できません」
限定承認を行った場合、積極財産の価額を超えて債務を弁済する義務を負わないこととされています。そのため本来の相続財産の価額を超える部分の金額については、債務控除をすることはできません。
出典:国税庁ホームページ
限定承認した相続財産から生じる家賃の所得税
つづいて、限定承認と所得税との関係に関する質疑応答事例を紹介します。
相続人であるA及びBは、民法第922条《限定承認》に規定する限定承認をすることとしました。ところで、相続財産の中には貸家が含まれており、毎月家賃収入が生じています。
この収入は相続人であるA及びBに対する所得として課税されるのでしょうか?
答えは、「相続人であるA及びBに対する所得として課税されます」
限定承認とは、被相続人の残した債務等を相続財産の限度で支払うことを条件とし、相続を承認する相続人の意思表示による相続形態をいいます。
いわば条件付の相続にすぎないわけです。
つまり、その相続財産から生じる果実に対する課税関係については、単純承認の場合と異なる取扱いをする必要は認められません。
なお、相続財産から生じる所得は、それぞれの相続人の相続持分に応じて課税されます。
出典:国税庁ホームページ
限定承認を申し立てる方法
なお、相続人が、「相続放棄」や「限定承認」をするためには、家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。限定承認の申し立てについては、下記を参考にしてください。
申述人 | 相続人全員が共同して行う |
申述期間 | 自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内 |
申述先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
申述に必要な費用 | 収入印紙800円分 連絡用の郵便切手(申立てする家庭裁判所のホームページなどで確認) |
申述に必要な書類 | 申述書 標準的な申立添付書類 |
さらに細かな条件がある項目について、それぞれ解説します。
申述人
限定承認の申述は共同相続人全員で行わなければならないので、相続人が複数いる場合、一部の人だけで行うことはできません。
なお、相続放棄をした人は、相続人ではなかったものとみなされるので、それ以外の共同相続人全員で申述することになります。
申述期間
なお、相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に相続財産の状況を調査してもなお、相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合には、相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てにより、家庭裁判所はその期間を伸ばすことができます。
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申述に必要な書類
書類についてはケースによって必要となるものが異なります。
共通で必要な書類
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・申述人全員の戸籍謄本
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
申述人が被相続人の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合
被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る(例:相続人祖母の場合,父母と祖父))がいる場合は、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
申述人が被相続人の配偶者のみの場合,又は被相続人の(配偶者と)兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合
・被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・代襲者としてのおいめいで死亡している方がいる場合、そのおい又はめいの死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
※同じ書類は1通で足ります。
※同一の被相続人についての相続の承認・放棄の期間伸長事件又は相続放棄申述受理事件が先行している場合、その事件で提出済みのものは不要です。
※戸籍等の謄本は、戸籍等の全部事項証明書という名称で呼ばれる場合があります。
※もし申述前に入手が不可能な戸籍等がある場合は、その戸籍等は、申述後に追加提出することでも差し支えありません。
※審理のために必要な場合は、追加書類の提出をお願いされることがあります。
限定承認の関わる税務手続きは税理士へ相談
限定承認をした場合でも、相続税・所得税の申告が必要となるケースがあります。
そしてこの記事で紹介したとおり、そのようなケースの税務計算は単純ではありません。
もし限定承認しており、なおかつ税務手続きが必要な場合、もしくは税務手続きが必要かどうか分からない場合には、一度税理士に相談することをおすすめします。