「病気で遺言書を自筆できないと、遺言書を残せない?」
「事故で手に麻痺が残っているが、遺言書を書く方法はないのだろうか」
「字に自信がない、遺言書を誰かに書いて欲しいが、一体どうすればいい?」
病気や事故などを理由に遺言書に署名ができない場合、遺言書は残せないのでしょうか。結論から言うと、自筆で署名が出来なくても遺言書を残す方法はあります。そこで、この記事では安心できる遺言書作りについて、署名できない方向けに行政書士が解説します。
遺言書には自筆が必須?署名が必要なケースとは
近年関心を持つ方が増えている遺言書ですが、年齢や病気などを理由に「署名」ができないと悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
では、大切なご自身の財産のゆくえを決める遺言書には「自筆」は必須でしょうか。この章で詳しく解説します。
合わせて読みたい:自筆証書遺言とは?5つの要件やメリット・デメリットを行政書士が分かりやすく解説!
自筆証書遺言は「自筆」が必要
自筆が必要な遺言書とは、「自筆証書遺言」です。遺言書には主に3つの種類があります。
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言
この中で自筆が必須な遺言書は自筆証書遺言のみです。公正証書遺言は公証人が作成でき、秘密証書遺言はパソコンやワープロなどでの作成が可能です。自筆証書遺言であっても財産目録はパソコンで作ることができますが、署名・押印が必要です。
誰かが手を貸した自筆証書遺言はどうなる?
自筆証書遺言がいつでも気軽に作ることができ、作成に費用もかかりません。身近で手軽な遺言書のため魅力的ですが、上記で述べたように自筆が欠かせません。では、もしも自筆遺言証書に誰かが手を貸して記載をしたらどうなるでしょうか。結論から言うと、原則として「添え手」による自筆証書遺言でも無効です。
最高裁の判例(昭和62年10月8日判例時報1258号64頁)では、添え手が許される要件について以下の①~③のようにまとめています。
①遺言者が証書作成時に「自書能力」を有している
②他人の添え手が単に始筆、改行、字の間配り、行間を整えるために遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、筆記を容易にする支えに借りているのみ
③添え手に他人の意思が介入していない
①~③を踏まえると、「自分で書ける方に、ほんのわずかなサポートをする程度」に留まります。この判例では、②が認められておらず遺言書も無効となっています。添え手をしながら自筆証書遺言を残すことは極めて難しいため、できる限り別の方法で残すことがおすすめです。
合わせて読みたい:「自筆遺言証書」で自筆と言えるかの判断について解説|添え手・財産目録・ワープロなど
自筆ができなくても遺言書は作れます!その方法とは
自分で書けないのなら遺言書は諦めよう…そう思っている方には、冒頭に述べたように別の方法での遺言書をご提案できます。自筆ではなくても、安全に遺言書を残せる方法があります。詳しくは以下です。
公正証書遺言なら安心
公正証書遺言とは、遺言書を公正証書にしたものを意味します。公正証書とは法的な行為を行った際に、その事実を公文書にするものです。遺言書以外にも、金銭消費貸借契約や離婚時などにも広く活用されています。
公正証書遺言は遺言書を公正証書にするため、自筆証書遺言より安全性が高いものです。また、文字が書けないとしても公証人が作成してくれるので、自筆証書遺言が作れない方でも安心です。
合わせて読みたい:公正証書遺言とは?要件や注意点・メリット・デメリットを行政書士が分かりやすく解説!
公正証書遺言の作り方とは
公正証書遺言の作り方とは、具体的にどのようなものでしょうか。主な流れは以下です。
1.公証人と打ち合わせをし、記載内容について案を作成する
2.遺言者と証人2名が公証役場へ行く もしくは 公証人に出張を依頼する
3.確定している記載内容について、遺言者が口述を行ってから公証人が作成を行い、遺言者と証人に読み聞かせた上で原本を完成させる
2にあるとおり、公正証書遺言は公証人に出張を依頼することも可能です。ご自宅や病院などに来てもらって作成をすることもできます。
合わせて読みたい:公正証書遺言の作成に必要な書類は?作成の流れを行政書士が解説!
緊急の場合には特別方式の遺言も検討できる
安全性が高い公正証書遺言を選択したいところですが、やむを得ない事情で遺言書作成が間に合わないこともあります。緊急時には特別方式の遺言も検討できるため、この章で解説します。
特別方式の遺言とは
特別方式の遺言とは、遺言者に死期が迫っている際の遺言方法です。主に以下のように分類されています。
普通方式遺言 | 自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言 |
特別方式遺言 | 危急時遺言 隔絶地遺言等 |
特別方式遺言には危急時遺言、隔絶地遺言等が挙げられます。
危急時遺言
病気などで死期が迫っている状態の方が遺言する方法です。3人以上の立ち会いが必要で、自筆でも証人による代筆でも作成できます。
書きとった内容は証人・遺言者に確認を行った上で、すべて証人が署名・押印し完了です。遺言者が署名する必要がありません。作成後は20日以内に家庭裁判所で作成の確認手続きを行う必要があります。船の遭難時などでは2人以上の証人を要します。
合わせて読みたい:危急時遺言(緊急時の遺言)作成の流れとは?特別方式の遺言書について行政書士が解説!
隔絶地遺言
隔絶地遺言は伝染病などを理由に隔絶されている状態の人が、遺言書を作成する方法です。乗船時に作成することも可能です。
・伝染病による隔絶地遺言
警察官1名と証人1名以上の立ち会いが必要です。普通遺言方式で遺言できるようになってから6か月を経過すると、無効になります。
・在船時遺言
船の上での遺言書は、一般の人を証人にすることが難しいため、船長もしくは事務員1名、さらには証人2名以上が立ち会う必要があります。遺言書は本人が作成し、こちらも普通方式遺言ができる状態になってから6か月経過すると無効になります。
特別方式の遺言の注意点
特別方式の遺言は、簡潔に言えば「とても珍しいケース」です。法律家の中でも受けていない専門家も多いため注意が必要です。
死期が迫っていたり、隔離されていたりする状況で作成するため極めて緊急性が高い遺言書です。本当に伝えたいことがあったとしても、亡くなる直前に遺言しようとすると意識も朦朧としており、相当難しいものです。「死期が迫ってから遺言したい」と思っていても、上手くいかない可能性もあるためできる限り別の方法をご検討ください。
合わせて読みたい:緊急事態に遺言書を残す方法とは|特別方式の遺言書について行政書士が解説
遺言書は早めの検討を|早期に作るメリットとは
遺言書には署名の有無による違いだけではなく、緊急性が高い特別方式の遺言もあることがわかりました。しかし、特別方式の遺言は難易度が高く、できれば早くから普通方式遺言の検討を進めたいものです。そこで、この章では遺言書を早めに検討するメリットを紹介します。
慌てずゆっくり遺言内容を検討できる
普通方式遺言は、ゆとりを持って書く内容を検討できます。また、自筆遺言証書を作っていた方でも安全性が高い公正証書遺言に作り直すことも可能です。
引っ越しや高齢化などで遺言書の紛失リスクが懸念される場合は、早めに安全性が高い公正証書遺言に作り直すこともおすすめです。
専門家に相談しながら安全に作成できる
時間にゆとりを持って遺言書作りに臨む場合、法律の専門家に相談しながら安全性の高い遺言書を作ることができます。たとえば、病気を理由に自筆で遺言書を作れないと悩んでいる方は行政書士にご相談ください。伝えたい遺言内容に法的アドバイスを交えながら作成完了までおまかせいただけます。
遺言内容にもアドバイスをしながら、安心できる遺言書作りをサポートできます。
合わせて読みたい:行政書士の遺言執行報酬相場とは?遺産総額に応じた料金体系例を説明!
遺言書作りは行政書士がアシスト|横浜市の長岡行政書士事務所
この記事では病気などで署名ができない場合でも、作成できる遺言書について解説しました。遺言書にはさまざまな形式がありますが、安全性が高い公正証書遺言は署名ができなくても作成でます。
もしも現在文字を書くことが難しくても、遺言書の作成に関心がある場合は、お気軽に横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。