「長いこと音信不通だった兄が孤独死していたと連絡があったんです」
「私以外の相続人と話をつけないと遺産ってもらえないの?」
「せっかく見つけた相続人が失踪していたなんて」
インターネットを使えば相続の知識、すなわち相続の順番や語句の意味などをすぐ調べることができますが、それだけだとなかなか頭に入ってこないということもありますよね。
実際に起きケースとともに相続を学ぶと、より理解が進むのではないでしょうか。
今日のコラムは孤独死が起きて相続人に連絡をとったらその相続人も失踪していて遺産分割を完了した、というケースす。
孤独死の対応だけでも何か大変な感じがしますが、その上失踪とは!
長岡先生がどう対処したのか、興味深いですね。
・・・・・
長岡先生、本日はお忙しい中お時間いただき、誠にありがとうございます。
いえ、こちらこそ、いつもありがとうございます。
早速ですが、本日はどのようなお話を伺うことができるのでしょうか?
そうですね・・・最近は孤独死が社会問題になっていますので、孤独死が起きて更に相続人が失踪してしまっていた件などはいかがでしょうか?
孤独死に失踪?! 問題が重なって複雑そうですね・・・
そうですね。ただ、一見複雑でも一つ一つ解きほぐしていくことで解決に近づくことができます。
また、日頃からお世話になっているO弁護士さんと協働できたのも心強かったです。
弁護士と一緒に働いたりもするのですか?
はい、士業では垣根を越えて協働することは多々ありますし、むしろそのネットワークをどれだけ持っているかでご依頼者様へのサービスの質が決まるという部分もありますからね。
互いに専門分野を持ち寄ってサポートしあうということですね。
孤独死が起きて自分が相続人になった?!
さて、今回のご依頼はお兄様が孤独死した70代の女性からでした。
長いことお兄様が音信不通だったのですが、ある日いきなり警察から連絡がありお兄様の孤独死を知って弊所にご相談いただきました。
弊所とご近所さんだったのと、別件ですでにご相談いただいたことがあったのである程度「地元の馴染みの法律屋さん」になっていたので素早いご相談につながりましたね。
高齢の方には地元で法律に関する相談ができる存在はありがたいですよね。素早いご相談、とおっしゃいましたが、スピードみたいなものが重要になってくるのでしょうか。
はい、その点は後々説明させてください。さて、相談いただいた時、ご相談者様はだいぶ気が動転してらっしゃいましたね。音信不通だったといえお兄様の訃報ですし、まさかたった一人で亡くなられたとは思わなかったようです。
また、警察からの連絡というのもなにか犯罪に巻き込まれていたのではと大いに不安を感じる要因となってしまったようです。
お気持ちはお察ししますね。でも、妹とはいえなぜご相談者さんのところに連絡がいったのでしょうか。
亡くなられたお兄様は普段から周りと交流がなく、孤独死の発見も郵便受けに溜まった新聞を不審に思った管理人さんが警察に通報してくれたことがきっかけでした。
警察の方で事件性がないことを確認したあと遺品をチェックしていて、たまたま妹さんの電話番号を書き留めてあったメモ帳を見つけたらしいです。
そうだったのですね。それでは、警察は妹さんが相続人ということで連絡を?
いえいえ、そこをよく勘違いされる方が多いのですが、警察では誰が相続人かまでを特定して連絡してきているのではないのです。そして、相続人でないのであれば部屋の特殊清掃とか原状回復といった費用を負担する必要はありません。
それは知りませんでした・・・
そして、孤独死だからといって特別な法律が適用されるわけではないんです。通常の手続に則って相続を進めることになります。
通常の相続手続とはどのような意味でしょうか?
はい、遺言があればその内容にそって遺産を分割する、遺言がなければ相続人を法に則って特定し、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。
なるほど。孤独死だからと言って遺言がないとは限りませんものね。身寄りはないけど遺産は志を同じくするボランティア団体に寄付する、とかの遺言でもいいわけですから。
そうですね。遺言がない場合の法に則った相続人のことを法定相続人といいますが、誰が法定相続人になるのかというルールに関しては弊所の別コラムもご参照いただければと思います。
あわせて読みたい>>>遺産相続時の分け方とは?相続の優先順位や遺産の分け方を行政書士が解説!
また、意外と知られていないこととして遺産にはプラスの遺産とマイナスの遺産があるんです。
マイナスの遺産・・・借金とかでしょうか?
その通りです。借金以外にも未払金とか保証債務とかが挙げられます。だから、実際に相続をしてみたら借金を背負ってしまった、というケースもあるので、慎重に相続を受けるかどうかを考える必要があります。
ん、ちょっとまってください。相続すべきかどうかなんて自分で判断できるのですか?
はい、相続には3種類あり、プラスもマイナスもすべて相続する単純承認、プラスもマイナスも一切放棄する相続放棄、そして受け継ぐプラスの遺産の範囲内でのみマイナスの遺産も引き受けるという限定承認があります。
限定承認が一番お得なようにも見えますが、自分以外の他の相続人全員で家庭裁判所に申し立てないといけなかったりとハードルが高いのです。
先ほど相続にはスピードが大事、と言ったのは、相続放棄には「相続開始を知った日から3か月」という期限があるからです。
相続放棄をしないでいると単純承認したとみなされ、最悪のケースでは相続を受けたら借金を抱えてしまったという事態にもなりかねません。
また、部屋の特殊清掃などの費用も負担する必要があります。
うーん、特に孤独死では遺産の内容などが不明なことが多いでしょうからね。すぐに長岡先生のところにすぐ相談に来てくれたのはラッキーだったと言えるかもしれません・。
あわせて読みたい>>>孤独死が発生した場合の相続の流れと相続人に起きうるリスクを行政書士が解説!
相続人調査で相続人が失踪していたことが判明
長岡:さて、このケースですが、ご相談者様は単純承認することにしました。特殊清掃が必要というわけでもなく、またプラスの財産も残されており葬儀を整えてもまだ手元に残る見込みが立ったからです。
また、音信不通だったとはいえ血のつながった兄なので、残されたものを引き継ぎたいというお気持ちも強かったようです。
次のステップとして、遺言がなかったのでその他の相続人がいないかどうかを調査いたしました。
孤独死ということで、相続人を見つけるのは大変だったのではないですか?
そうですね、孤独死の場合は通常より大変ではありますが、亡くなった方の生まれてから死亡するまでの全ての戸籍を取り寄せて関係する人を調査することで、法に則った相続人の存在を確認することができます。
全ての戸籍をとりよせて精査していくのですね。私は戸籍の見方も自信ないです・・・
確かに地道な労力が求められる作業ですが、相続人をしっかり確定させることはとても大切なので、このステップを飛ばすわけにはいきません。
先ほど申しあげた通り、遺言がないと遺産分割協議で遺産の分割の仕方を決める必要がありますが、この遺産分割協議は相続人全員参加で全員の合意が必要なのです。
ひとりでも相続人が欠けていたりすると、せっかくの合意が無効になりやり直しになってしまいますからね。
あわせて読みたい>>>遺産分割協議とは|目的や条件・注意点を行政書士が解説!
さて、この相続人調査の過程で複数の相続人が見つかったのですが、その中の一人が住民票上の住所を訪ねてもいないことが判明しました。
つまり、失踪していたのです。
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でも、失踪しているならその人の分は遺産分割協議に参加しないでよい、というわけにはいかないのでしょうか。
残念ながらそうはいきません。遺産分割協議は全員参加が原則ですから。
そこで、前述のO弁護士に相談しながら対策を考え、以下のように進めることにしました。
失踪者がいる場合は不在者財産管理人選任の申立
まずは不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうよう、申し立てを行うことにしました。
この「不在者財産管理人」とは、連絡が取れず自分の住居に帰ってくる見込みのない不在者に代わって財産を管理する人のことです。
不在者の財産を管理するだけでなく、家庭裁判所の許可が下りれば失踪している相続人の代わりに遺産分割協議に参加することが可能になります。
失踪宣告という言葉なら知っているのですが、それとは違うのでしょうか。
失踪宣言は行方不明になってから7年経過したら亡くなったものとして扱う、という制度です。
不在者財産管理人はあくまでも不在の間に本人になり代わって財産を管理するという趣旨なので、別制度です。
あわせて読みたい>>>不在者財産管理人とは?行方不明の相続人がいる場合の手続き方法を行政書士が解説!
さて、実務の話に戻りますが、まず住民票上の住所に対して手紙を送るところから始めました。敢えて送って「宛所に尋ねあたらず」と返送してもらうことで、住民票上の住所で生活していない事の証明を取ったのです。
そしてこれは私も少しびっくりしたのですが、ハローワーク経由でこの失踪者がどこの会社で働いているかが判明しました。
ハローワークですか?いったいなぜ急にハローワークが・・・
ええ、びっくりですよね。どうも家庭裁判所は不在者財産管理人の申し立てを受けると、関係各所に照会をかけてくれるようです。
で、この失踪者はハローワーク経由で仕事を探して就労していたので、どこの会社で働いているかが判明したのです。ただ、これだけだとどの会社で働いているかがわかるだけなので、もうワンステップ踏み込む必要があります。
遺産分割調停の調査嘱託を使って失踪者の居所を確認
相続人間で話し合っても折り合いがつかない場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることができます。
調停の為には正確な遺産の額や誰が何を所有してどこにあるのかといった情報が相続人の間に公平に共有されている必要がありますが、相続人によっては遺産をこっそり隠したり使い込んでしまう場合があり、その証拠を集めるのは容易ではありません。
そのような時、家庭裁判所は必要な調査を適当と認める者に嘱託し、または調査を依頼することで証拠を集めてくれます。
これを調査嘱託、と言います。
今回のケースでは、この調査嘱託を利用して勤務先に失踪者本人の居所(=調停の書類の送達先)を照会することにしました。
この失踪者の居所がわからないと遺産分割協議が進められなくて、他の相続人にとって不利益になるから、ということでしょうか。
そのご理解の通りです。また、この調査嘱託は強制力はないのですが、裁判所の名のもとに行うので協力が得られやすいのです。
裁判所が従業員の居所を聞いてきたのに協力しないで断るのも、なんか変ですよね。
今回のケースでは勤務先の会社がこの失踪者の居所を報告してくれたのですが、なんと従業員寮に住んでいました。住民票を移さないままにしていたようです。
その後、従業員寮を送付先として遺産分割調停を進め、無事遺産分割調停を成立させることができました。
失踪者の相続人がいる場合は早めに専門家に相談を!
相続の進め方ひとつとっても、いろいろな法律や制度の「使い方」があるのですね。
そうですね。このケースでは、早めに相談をもらえたので孤独死にどう対処するかの相談と、相続人が失踪したときの対応も素早く行うことができました。
ご本人だけで進めてしまうと、
- 孤独死の連絡を受けて相続を承認したら清掃費や借金を払う羽目になった
- 相続人調査をしないまま進めてしまいあとから相続人が見つかりすべてやり直しになった
- 相続人が失踪して途方に暮れていたら相続の期間を過ぎて延滞税が発生してしまった
といったトラブルに発展する可能性があります。
法律に明るい専門化の方々のサポートをうまく利用すべきだということがよくわかりました。
本気のご相談にはとことんお話を伺うのが弊所のモットーです。 是非皆さまのサポートをさせていただき、喜んでいただければ私としても嬉しいです。
また、やはり生前に相続人が失踪しているようなことが分かれば遺言書を作成しておく、ということも必要ですよね。本日はありがとうございました。
相続手続でお困りの方は横浜市の長岡行政書士事務所までお気軽にご連絡ください。