遺言書には、公証役場で作成する「公正証書遺言」と、自分で書く「自筆証書遺言」という種類があります。
遺言書は作成枚数に制限などがないため、相続手続において、公正証書遺言と自筆証書遺言の2通を見つけることもあります。
公正証書遺言と自筆証書遺言だと、なんとなく公正証書遺言の方がしっかりしていて効力が強いように感じませんか。遺言書の種類によって、効力の違いはあるのでしょうか。
今回はそんな疑問を、またまた猫ちゃんが【文学風】に解説してくれるようですよ。
遺言書の種類による優先の違いはない
公正証書遺言は、安全性が高い遺言書として知られています。
しかし、もし別に自筆証書遺言も同時に存在した場合には、どちらが優先されるのでしょうか。
結論として、遺言書の種類による優先の違いはありません。
それでは物語に沿って、詳しく見ていきましょう。
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吾輩は猫である。
名前はまだないが、そろそろちゃんとした名前が欲しいお年頃ではある。
なにせ、わが主ときたら、最近再びハマっているファンタジー映画から吾輩の名前を付けようとしている。
ある日はハリー、ある日はロン、ある日はハーマイオニーときたもんだ。
どうしても吾輩をホグワーツ魔法魔術学校の生徒にしたいらしい。
まあ、どうして吾輩がここで語っているかというと、わが主が原因だ。
以前、わが主の人間(女性)が、薄暗いところでニャーニャー泣いていた。
どうやら主の父親の遺言やら相続やらの問題で、わが主もほとほと困っていたようなので、行政書士の長岡とやらのもとに出向かせたのだ。
すると、長岡とやらの仕事っぷりに崇敬の念すら抱いたわが主が、「行政書士に、私はなる!」と言い出す始末。
相談者を見つけては足しげく事務所へ通う日々なのである。
今日もわが主は、あの映画に出てきた百味ビーンズを作ったとか言って、長岡とやらにおすそ分けしに出掛けていった。
そんな、わが主のマイブームのせいか、今日はさすがの吾輩も腰を抜かすような出来事が起きた。
わが主が勉強用にと預かっていた、わが主の祖父の遺言書がしゃべりだしたのである!
公正証書遺言は公証役場で保存されるため、自筆証書遺言よりも優先されると勘違いされやすいもの。でも、遺言の種類によって優先度が異なるわけではありません。
公正「だからさ、俺のほうが偉いって。だって名前からして立派じゃん」
自筆「いいや、僕は遺言者自ら書いてるんだ。お手製だよ。僕のほうが偉いにきまってる」
いきなり頭が痛い内輪もめがはじまってしまった。
公正「ねえねえ、君はどう思うの?」
我輩か? 仕方ない。以前長岡とやらに教えてもらった知識ではあるが、教えてやろうか。そもそも、遺言書の種類による優先の違いはない。
自筆「え? そうなの?」
遺言の優先度は作成年月日で決まる
遺言書の優先度は種類ではなく、その遺言書が「いつ作られたか」が大切です。
そう、吾輩は知っている! 優先は遺言書の種類によってではなく、作成年月日によって決まるのだ。
公正「じゃ、どっちが先輩か後輩かってことだね。遺言の世界は縦社会なんだよ!」
遺言の世界にも先輩後輩があるみたいですが、原則として遺言者の意思表示が重んじられます。
新しい遺言の方が最新の意思表示であり、つまりは真意に近いと言えます。そのため、遺言の世界ではフレッシュな方が強いのです。
さて、今回の例でいうと、公正証書遺言と自筆証書遺言、どちらが先に作成されたのでしょうか?
自筆「それは…公正証書遺言のほうだけど」
公正「ああ、僕のほうが1年先輩だ」
ふむ、確か公正証書遺言を書いたけど、1年後に自筆証書遺言を書いたのだったな。
公正「そうさ。おい自筆、後輩なんだから菓子パンとコーラ買って来いよ」
待て待て。この場合は、日付が新しいほうが優先されるから、この場合、自筆証書遺言の方が優先されることになるんだが。
自筆「ふふん、やっぱり俺じゃねえか。おい、公正、ちっと肩揉んでくれよ」
内容に矛盾がなければ複数の遺言書が有効になることもある
…お前らはまったく。確かに優先とはなるが、それぞれの遺言書に書かれている内容はどんなんだ?
新しい遺言で前の遺言の内容と矛盾するような箇所がある場合、それは前の遺言を撤回したものとみなされます。
逆に言えば、内容に特に矛盾がないときは、新しい意思表示として両方とも有効になりえます。
自筆「内容?」
例えば、古い日付の遺言書に「すべての不動産を長男へ」と記載してあり、新しい遺言書に「すべての預貯金を長女へ」と記載されていたとしよう。
公正「内容が違っているね」
この場合、双方の遺言内容が重複していないから、いずれも有効とみなすわけだ。
公正「なるほど、じゃ、どちらも有効ってわけなんだね」
同じ内容で、かつ不備がなければ確かに後から作成された自筆証書遺言が優先される。しかし内容が違うなら、どちらが偉い…じゃなくて、優先されるわけではないと、横浜市の行政書士の長岡とやらが言っていたぞ。
自筆「…そうか。俺たち間違ってたよ。内容が違うなら、個性ってわけだよな」
…まあ、当たらずとも遠からずだな。大事なのは、それぞれのメリットとデメリットをふまえたうえで、遺言者が一番最適な方法で遺言を残すことであろう。
遺言書を複数見つけたときの注意点
それでは最後に、遺言書を複数見つけたときの注意点について見ていきましょう。
- 日付だけではなく遺言能力の有無も確認する
- 公正証書遺言の証人についても確認する
日付だけではなく遺言能力の有無も確認する
自分のしている行為がわかって、自分の意思で遺言を作成することを遺言能力と言います。
そして歳を取ってから遺言書を作成した場合、認知症などによって遺言能力が欠けていることがあります。
もし遺言能力がない状態で作成されていた場合、たとえ日付が最新だとしても、その遺言書は無効となってしまいます。
たとえ公正証書遺言で作成していたとしても、遺言者が認知症を患っていたなどの理由で効力が争われたケースが実際にあるようでな。
公正証書遺言の証人についても確認する
公正証書遺言は、その公的な性格を担保するため2人の証人を必要とします。そうすることで、より客観性と確実性がある書類となります。しかし、能力上の問題があったり利害関係が絡んでいたりするため、証人にふさわしくない人もいます。
公正「…公正証書遺言は証人が2名以上必要だが、この人たちは証人になれないんだ。もし証人になっていたら無効になる」
- 未成年者
- 推定相続人
- 受遺者、受遺者の配偶者および直系血族
- 公証人の配偶者、4親等以内の親族、書記、使用人
合わせて読みたい:公正証書遺言の証人は誰に依頼する?なれない人・なれる人を行政書士が解説!
もし公正証書遺言と自筆証書遺言の2通を見つけ、公正証書遺言のほうが日付が新しいとしても、不適格な方が証人になっていた場合は無効となることを知っておきましょう。
遺言書を複数見つけた場合も行政書士に相談できる
公正証書遺言と自筆証書遺言の2通を見つけたとしたら、とりあえずこちらはきっちり覚えておきましょう。
『遺言は種類ではなく作成日により優先度が変わる』
『遺言が効力を持つには、必要な要件をおさえることが大切』
実際に遺言書を複数見つけた場合、どのように相続手続を進めていったらいいのか分からないこともあるでしょう。このような場合は、ぜひ横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。
手続そのものをお任せいただけるため、ご負担なく相続を進められます。
初回相談は無料なので、まずは電話やLINEで来所予約をご連絡ください。