遺留分の放棄とは?その概要と注意点を行政書士が解説!

inheritance 相続に関連する法制度
相続に関連する法制度
相談者様:40代男性
相談者様:40代男性

相続トラブルを避けたいと思い、ご相談に参りました。

父と母は何年も前に離婚しており、父はすでに再婚して子どももいるようです。

 

母と子一人で暮らしてきましたが、私も自立して暮らしておりますし、父の遺産を受け取る気はありません。

ただ、父の子であることには変わりありませんし、もし父が亡くなった場合には相続という話になりますよね?

 

そのようになった場合に、一切受け取らないということはできないのでしょうか?

 

長岡行政書士事務所:長岡
長岡行政書士事務所:長岡

今回のご相談は、お父様の遺産を一切受け取らない方法はないかというご相談です。

 

おっしゃる通り、お子様であることには変わりありませんのでご相談者様は相続権を有しています。

例えお父様が遺言によって一切渡さないと決めていたとしても、相談者様は遺留分として最低限保障された割合で遺産を受け取ることになってしまいます。

このような事態を避けるためには、遺留分の放棄をおすすめします。

 

今回は遺留分の放棄について概要と注意点をご紹介します。

 

この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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遺留分の放棄とは

”遺留分の放棄”とはなかなか聞きなれない言葉なのではないでしょうか?

そもそも”遺留分”という言葉すら聞きなれないのではないでしょうか。

まずは遺留分についてご説明した上で、遺留分の放棄についてご説明したいと思います。

遺留分とは

遺留分とは、一定の相続人、ここで対象となるのは被相続人の配偶者・子ども・親に対して遺言によっても奪うことのできない最低限もらえる遺産の取り分のことです。

つまり、兄弟姉妹以外の相続人に最低限保障された遺産のことです。

亡くなった方は、遺言を作成することによってご自身の財産の行方を自由に決めることができます。

ただし、残された家族の最低限の取り分を保障するものが遺留分であり、遺言書があったとしても遺留分が優先されます。

相続制度の目的は、残されたご家族の生活保障です。

例えご自身の築いた財産とはいえ、残された家族から全てを取り上げてしまうと生活していくことができません。

そのため、ご自身の財産を自由に処分する権利を保障しつつも、遺留分の制度によって残された家族の生活をも守りましょうという趣旨のもと遺留分制度が設定されています。

遺留分権を有している人は、仮にすでに遺産の全てが他の人に引き継がれていたとしても、遺留分の範囲で保障されている金額を取り戻すこともできます。

この取り戻すことのできる権利を、”遺留分侵害額請求権”といいます。

遺留分について詳しくは以下のリンクからご確認ください。

合わせて読みたい:遺留分を知りたい!|行政書士が請求方法や法定相続分との違いを分かりやすく解説

遺留分の放棄とは

遺留分の放棄とは、遺留分の権利を有している人がその遺留分の権利を自ら手放すことです。

遺留分を放棄した場合、放棄をした人は遺留分侵害額請求権すら放棄することになります。

遺留分の放棄とは、遺留分の権利者が遺留分の権利を自ら手放すことです。

遺留分放棄と相続放棄の違い

相続する権利を放棄するという意味で、遺留分の放棄と相続放棄と混同して覚えていらっしゃる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

実は、遺留分の放棄と相続放棄は全く違う制度です。

併せて読みたい:相続放棄と遺産分割協議書上の放棄は違う!よくある勘違いを行政書士が解説

遺留分

遺留分の放棄は、遺留分、つまり最低限保障された権利を放棄するものであり、相続人であることには変わりありません。

したがって、相続することは可能ですが、最低限の保障を失い、また最低限保障されている遺産を請求する権を失います。

遺言書がなければ法定相続分を受け取ることも可能ですし、遺言書で指定された財産や遺産分割協議に参加して財産を受け継ぐことも可能です。

また、遺留分の放棄は被相続人のお亡くなりになった後はもちろん、生前であっても手続きが可能です。

相続放棄

一方で、相続放棄とは、相続放棄はプラスの財産も含めて全ての財産を相続しないというものです。

相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとして扱われますから、遺産に対して一切の権利を失います。

また、相続放棄は被相続人がお亡くなりになった後でなければ手続きすることができないという点も遺留分の放棄とは異なる点です。

遺留分を放棄するメリット

遺留分を放棄するメリットは、遺産分割の自由度が高まるという点です。

具体的には、被相続人が相続人に遺留分放棄を依頼するというケースでは、相続人が遺留分を放棄したことにより遺留分の心配がくなれば遺言書を作成する場面などでも一人に遺産を集中させるということも可能です。

一方で、相続人自ら遺留分の放棄をするというケースでは、例えば、仮にお父様が亡くなったとき、残されたお母様のことが心配だからできるだけ多くの遺産を渡せるようにしたいというような場合、相続人本人が遺留分の放棄をすることでより多くの遺産をお母様に集中させることが可能です。

※この場合は、お父様が遺言書を書いていれば遺留分放棄をした相続人は遺留分を請求できませんので、お母様に多くの財産を渡すことができます。

遺産分割は全ての遺産をきっちり平等に分けることが最適とは限りません。

事業や扶養のために一人に集中させる方が良い場合もあるでしょう。

そのような要望があったとしても、遺留分があると偏った内容の遺産分割が難しくなりますが、遺留分を放棄すれば遺産分割の自由度は高まります。

また、生前のうちに遺言書の作成など相続対策をしていたとしてもその内容が遺留分を侵害するものであった場合は遺留分がトラブルの元となる可能性もあります。

遺留分を放棄していれば、このようなトラブルを避けることができるという点もメリットということができます。

遺留分を放棄するデメリット

遺留分の放棄のデメリットは、代襲相続の場合も含めて遺留分の請求ができなくなるということが挙げられます。

遺留分は一度放棄すると原則として撤回することができません。

また、遺留分を放棄すると代襲相続が発生したとしても遺留分を受け取る権利は放棄されたままです。

つまり、被相続人よりも先にご自身が亡くなり、お子さんやお孫さんが相続権を得たというケースであっても、ご自身が遺留分は不要と思って放棄している場合、いくらお子さんたちが必要と考えていても受け取る権利は復活しません。

そのため、例え被相続人から放棄するよう迫られたとしてもご自身が納得しない限り放棄してはいけません。

遺留分の放棄をおすすめするケース

遺留分の放棄はメリットデメリットがあるため、全ての人におすすめできるものではありません。

遺留分の放棄をおすすめするケースは、相続トラブルをできるだけ回避したいケースや事業承継など、特定の人物に遺産を集中させたいときなどです。

具体的には、以下のようなケースでは遺留分の放棄を検討しても良いのではないでしょうか。

  • 相続で揉めてほしくない
  • 事業承継させたい
  • 遺産が必要ではない

相続で揉めてほしくない

離婚歴があり前妻との間に子どもがいる場合や婚外子がいる場合、相続トラブルに発展する可能性があります。

前妻の子であっても婚外子であってもご自身の子どもには変わりなく、相続権を持っています。

複雑な関係にある人同士が遺産分割協議や相続手続きを行う状況を回避するために、生前贈与する代わりに遺留分の放棄を求める、あるいはトラブルを避けるために遺留分の放棄をすることをおすすめします。

事業承継させたい

家族経営で事業を行っている人や、個人事業主の人は、子どもを跡取りとして会社の資産を継がせたり株式を譲渡するケースも想定されます。

このような場合、相続時に事業承継をすると相続財産に大きな差が生じてしまいます。

事業承継する人としない人の間に相続内容が偏ることでトラブルに発展する可能性もありますので、この場合もトラブルを回避するために遺留分の放棄をすることもおすすめしています。

遺産が必要ではない

すでに生前贈与などを受け取っており、生活に余裕がある相続人の中には遺産を必要としない、あるいはご両親の一方が先にお亡くなりになった後に残されたもう一方の親御さんの生活のために残してあげたいなど、様々な事情があると思います。

そのような場合、遺留分を放棄することで多くの財産を残してあげたい相手に遺産を残してあげることが可能となります。

遺留分放棄をする手続方法

遺留分を放棄する方法は被相続人が生きているときと死後で異なります。

以下でそれぞれ見ていきます。

被相続人の生存中に遺留分の放棄をする方法

被相続人が生きている間に遺留分を放棄するには、家庭裁判所で『遺留分の放棄の許可』を受ける必要があります。

生前は被相続人が遺留分権利者へ遺留分の放棄を迫るなど不当な干渉が行われる可能性もありますので、厳密な手続きが必要となっています。

*遺留分放棄の許可申立ての方法

被相続人の住所地を管轄する家庭裁判へ遺留分権利者本人が申し立てを行います。

以下が必要書類となります。

  • 家事審判申立書
  • 不動産の目録
  • 現金・預貯金・株式などの財産目録
  • 被相続人予定者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)

なお、費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。

郵便切手については家庭裁判により異なりますので、ご利用なさる家庭裁判へお問い合わせください。

また、申立てを行ったからと言って許可が得られるわけではありません。

以下のような要件を満たす場合に認められるケースが多いようです。

*認められやすいケース

  • 本人の意思に基づいたものである
  • 放棄の理由に合理性・必要性がある
  • 同等の代償がある

同等の代償とは、遺留分放棄の申立人が過去に遺留分相当分の贈与を受け取っている場合などを指します。

このようにその他の手段によって生活保障がされているような場合には、遺留分の放棄の許可を得やすいようです。

被相続人が亡くなった後に遺留分の放棄をする方法

被相続人がお亡くなりになった後に遺留分の放棄をする場合には、家庭裁判の許可や手続きは必要ありません

遺留分権利者が『遺留分を放棄します』という旨の意思表示を行うことのみで可能ですが、後々のトラブルのためには書面で残すことをおすすめします。

遺留分を放棄させる方法

遺留分を本人の意思に反して放棄させることはできません。

遺留分は残された配偶者や子供、両親に対して認められる重要な権利であり、無理やり放棄できないような制度設計となっています。

それでも遺留分を放棄させたいのであれば、生前贈与する代わりに遺留分の放棄を受け入れてもらうというのも一つの手段ではないでしょうか。

生前贈与をすることで、遺留分を放棄する人も納得しやすいですし、家庭裁判の申し立ての際にも許可を得やすくなるのではないでしょうか。

遺留分の放棄をする場合の注意点

遺留分を放棄すると原則として撤回することはできません。

合理的な理由がない限り取り消しができないので、熟慮してから遺留分の放棄を申請しましょう。

また、遺留分を放棄したとしても相続人であることには代わりありません。

被相続人に借金などの負債があれば、その負債を引き継ぐことになります。

そのため遺留分を放棄した人は遺留分も受け取ることもできないにもかかわらず、借金のみ背負うことになります。

遺留分の放棄を進める場合には、生前に借金などの負債をきちんと整理しておく必要があります。

遺留分の放棄は専門家に相談をする

遺留分は一度放棄してしまうと原則として権利を復活させることはできません。

そのため、遺留分を放棄するかどうかは被相続人や他の相続人と相談して決めることが重要です。

金銭の話し合いはトラブルに発展しやすい問題です。

大きなトラブルを回避するためにも、また遺留分の放棄に関する悩みを解決できるよう専門家へのご相談をおすすめします。

相続でお困りの方は、横浜市の長岡行政書士事務所までお気軽にご相談ください。

今、悩まれている方はお問い合わせください

長岡行政書士事務所

まずは初回0円相談でお悩み解決!

ご予約・お問い合わせはこちら

平日9:00~21:00(土日祝日予約制)

この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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