『成年後見制度を利用すれば亡くなった後のことまでお願いできる?』
『成年後見人ができないことはあるの?』
『成年後見人の応急処分義務ってなに?』
成年後見制度は、認知症や精神的な障害によって判断能力が低下した方を対象に支援をするというもので、対象となる方の日常生活や医療、介護、福祉の面でサポートなど、ニーズに応じて支援を行うことができます。
しかし、後見人であっても法的に認められたできることには限界があります。
後見制度を利用するにあたって、後見人に何ができるのか、何ができないのかをしっかり理解しておかなければ後々後悔することになる、あるいはトラブルに発展する可能性もあります。
今回は成年後見人が負う権利や義務、さらに被後見人の死後の手続きについて、成年後見人の任務にスポットを当ててご紹介します。
成年後見制度とは
成年後見制度の対象者は成年被後見人です。
成年被後見人とは、認知症や精神上の障害によって判断がない、あるいは判断力が低下していると考えられる人のことを指します。
一方、成年後見人とは、成年被後見人であると判断された方の生活をサポートし、ご本人に代わって財産管理や契約行為、法的手続きを行う人のことです。
そして、成年後見制度は成年被後見人であると判断された方に成年後見人をつけることによって判断能力が不十分と判断された人が不利益を被らないように支援する制度です。
判断能力が低下していると判断されていたとしても成年後見制度を利用することで、従来の生活を送れるように、また、ご本人の残存能力を活用しつつ自己決定の尊重をするという考えのもとに開始された制度が成年後見制度です。
成年後見制度について、詳しくは以下のリンクからご確認ください。
参考書籍:図解ポケット 成年後見制度がよくわかる本
合わせて読みたい:相続でよく聞く成年後見制度とは?行政書士が制度の種類と具体例を解説!
成年後見人の権限と義務
成年後見人には、被後見人の利益を保護するために、様々な権限が与えられています。
また、同時に権限とは表裏一体である厳しい義務も課せられています。
成年後見人に与えられる権限
まず、成年後見制度と言っても、①法定後見制度、②任意後見制度の2種類があります。
①法定後見人に与えられる権限
まず、法定後見制度は、本人の判断能力が低下した場合に、親族などが家庭裁判に申し立てを行い、本人の利益を保護する制度です。
法定後見制度には、本人の判断能力に応じて、(a)後見、(b)補佐、(c)補助の3つのタイプがあり、本人をサポートする人をそれぞれ(a)後見人、(b)保佐人、(c)補助人といいます。
後見人等には、タイプごとにそれぞれ『取消権』『同意権』『代理権』が与えられます。
・取消権とは
取消権とは、一定の法律行為を後から取り消す権限のことをいいます。
後見人等は、被後見人の法律行為の不利益になる場合、これを取り消すことができます。
《権利が与えられる人》 後見人、保佐人、補助人
・代理権とは
代理権とは、一定の法律行為を代理する権限のことをいいます。
後見人等が被後見人を代理すると、その法律行為は被後見人が行ったものとみなされます。
後見人等は、包括的な代理権を与えられていますが、身分行為(結婚や相続等)など一定の法律行為は代理できません。
《権利が与えられる人》 後見人、保佐人、補助人
・同意権とは
同意権とは、被後見人の法律行為をあらかじめ了承する権限です。
同意見は保佐人と補助人に与えられていて、後見人には与えられていません。
保佐人や補助人は、本人の法律行為の前に、その法律行為の必要性や本人の意思を考慮して同意を与えるか判断します。
被保佐人や被補助人は後見人とは違い、本人に判断能力がもう少しあります。
そのため、より本人の意思決定を尊重する必要があるからです。
《権利が与えられる人》 保佐人、補助人
②任意後見人に与えられる権限
まず、任意後見制度は、ご本人と受任者との間で任意後見制度を結び、将来本人の判断能力が低下したときに備えるための制度です。
そして、任意後見人に与えられる権限は、任意後見契約によって定められた、本人の生活、身上監護、財産管理に関する後見事務について与えられる代理権のみです。
そのため、取消権・同意見はありません。
任意後見人の権限が制限されている理由は、本人の自己決定権を尊重するという任意後見制度の理念からきています。
任意後見人に取消権・同意見がないことは本人が自由に法律行為を行なえるというメリットがあります。
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成年後見人に課せられる義務
成年後見人は被成年後見人の生活に関わるため、以下のような厳しい義務が課せられています。
- 善管注意義務
- 身上配慮義務
・善管注意義務
善管注意義務とは、被後見人の財産管理業務を委任された人の能力、職業、社会的地位などから考えて一般的に期待される注意義務のことです。
通常の注意義務に比べて要求される注意義務の程度はかなり高くなります。
例えば、後見人に就いたとして、私達みたいな専門職が後見人として活動をするときと専門職以外の方が後見人として活動する場合、求められる注意義務は異なりますし、もちろん今回の場合は前者の方に高い注意義務が求められます。
そして、成年後見人が後見事務を遂行するにあって、善管注意義務を怠ったために被後見人に不測の損害を与えた場合には、被後見人に対して損害賠償を負う可能性があります。
また、事情によっては成年後見人を解任される場合もあります。
・身上配慮義務
身上配慮義務とは、成年後見人が、被成年後見人の財産管理や身上保護を行うに当たって、被後見人の意思を尊重し、被後見人の心身の状態や生活状況に配慮する義務のことです。
成年後見人は、代理権・同意権・取消権を使い、被後見人の利益を保護しますが、これらの権限の行為は、時には被後見人の自己決定権に対する制約や否定になることもあります。
成年後見人は、権限を行使する際に、被後見人の自己決定権の尊重と現在どれくらいの判断力を有しているかを考慮しなければなりません。
被後見人の死亡で後見事務は終了する
被後見人が亡くなると、その時点で成年後見人としての事務は終了します。
そのため、成年後見人の権利や義務も消滅します。
ただし、後見自体が終了したからと言って、成年後見人は直ちに一切の業務から解放されるわけではありません。
成年後見人の死後における成年後見人の代表的な業務をご紹介します。
死亡届の提出
成年後見人は、死亡した成年被後見人について死亡届を提出します。
提出先は、本籍地・死亡地・住所地のいずれかの市区町村の役所窓口です。
なお、死亡届の提出は同居の親族等が行っても構いません。
家庭裁判所への報告・終了登記の申請
成年後見人は、成年被後見人が死亡した事実を家庭裁判所へ報告します。
また、成年後見開始の審判があるとその旨の登記がなされていますので、法務局に対して、成年後見終了の登記を申請します。
管理計算義務
成年後見人は、成年被後見人の死亡から2ヶ月以内に管理の計算をし、その結果を家庭裁判所に報告しなければなりません。
管理の計算とは、具体的には後見人在職中の収入および支出を明確にした管理計算書と任務終了時の残余財産額を確定させた財産目録を作成することを言います。
相続人への財産引渡し義務
成年後見人は、成年被後見人の死亡後、成年被後見人の財産を承継した相続人に対して、速やかに財産を引き渡す必要があります。
なお、相続人が複数いる場合には、相続人全員に対して財産を引き渡す必要があります。
そのため、仮に、特定の者を相続人の代表者とした上で、その者に全財産を引き渡す場合には、その者を相続人の代表者として全財産を引き渡すことについて、予め他の相続人全員から同意書を取得しておくと安心です。
応急処分義務
成年被後見人の死亡により後見が終了しても、”急迫の事情がある場合”には、成年後見人は遺体の引き取りや葬儀の手続き等の死後の事務をしなければならない場合があります。
これを応急処分義務と言います。
ただし、いかなる場合に”急迫の事情がある場合”と該当するかについては、形式的な基準があるわけではありません。
そのため、個別・具体的な状況を鑑みて、判断せざるを得ないのが現状です。
成年後見人は死後手続きはできない
成年被後見人の死後、成年後見人は終了に伴う事後手続きを行い、原則としてそこで任務は終了です。
つまり、成年後見制度を利用しているからといって死後手続きを成年後見人にがやることはできず、相続人が行うのが原則です。
本人が死亡後でも後見人がやらざるを得ないケースもあった
成年後見人の後見業務は被後見人の死亡時までとされており、死後事務手続きは後見業務の範囲外と考えられているからです。
しかし、現実問題として本人が亡くなった後に葬儀を行うなど、死後の手続きを行うことができる親族等がいない場合には、さすがに知らんぷりするわけにはいきません。
そのため、後見人等が葬儀の手配や埋葬等の手続きを行うほかないケースもあります。
後見人が死後の事務をやることでトラブルになることもある
ただ、成年後見制度は”ご本人の保護”と”自己決定権の尊重”が主たるテーマです。
被後見人がお亡くなりになってしまうとご本人の意思を確認する術はなく、成年後見制度の趣旨に反することになるため、原則としてできないと考えられています。
後見人等が死後事務を行うにあたっては、本人の意向がわからないことや職務権限が与えられていないことなどもあり、後々トラブルに発展しかねません。
例えやむをえず死後手続きを行う場合であっても、トラブルに発展しないように慎重な対応が求められるため、負担も大きくなってしまいます。
法改正で後見人も一定の死後手続きが可能となる
本人死亡後の死後手続きをせざるを得ない状況でありながらトラブルに発展するケースなどもあり、このような状況を鑑みて、平成28年に法改正が行われた結果、成年後見人は下記の死後手続きを行うことができるようになりました。
成年後見人ができる死後手続き
- 相続財産の保存に必要な行為(被後見人の自宅の屋根の修繕など)
- 被後見人の借金の返済や入院費用、公共料金等の支払い
- 被後見人の火葬や埋葬に関する契約
- 遺体の引き取り
従来は死後手続きは成年後見人の任務外であるとされてきましたが、法改正により上記の死後手続きが行えるようになりました。
しかし、成年後見人であれば無条件にできるというわけではなく、以下の要件を満たす必要があります。
成年後見人が死後手続きを行うための要件
- 成年後見人がその事務を行う必要がある
- 被後見人の相続人が相続財産を管理できない状況にある
- 成年後見人が死後事務を行うことが被後見人の相続人の意思に反していない
上記のような要件が必要となるため、後見任務終了後に当然にできるわけではありません。
成年後見人がついているから安心!と考えているとトラブルに発展しかねないので注意が必要です。
死後手続きまで望む場合は死後事務委任契約がおすすめ
死後の手続きまで必要とする場合には、死後事務委任契約を結ぶことをおすすめします。
死後事務委任契約では、死後事務全般を自由に委任することが可能です。
死後事務委任契約について、詳しくは下記のリンクからご確認ください。
合わせて読みたい:死後事務委任契約とは?法的な根拠から手続き方法まで行政書士が解説!
任意後見や死後事務委任契約で将来の不安を無くそう
成年後見制度は、被後見人を守ると同時に、被後見人の意思を尊重するための制度です。
そのため、一定の事由を除き、成年後見人の意思が確認できない死後の手続きまでカバーすることはできません。
成年後見人を依頼する側も依頼される側も、正しい知識がなければ権限がないことにまで手を出してしまい、大きなトラブルに発展しかねません。
それぞれの人を正しく守るためには、正しい知識を身につける他ありません。
一方で、死後の手続きも依頼したい場合は原則として死後事務委任契約が必要となりますし、任意後見契約を事前に結んでおくことで、自身が元気なうちから亡くなった後のことまで依頼できるので安心です。
横浜市の長岡行政書士事務所は任意後見契約や死後事務委任契約に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。