「長年連れ添った二人だから、遺言も二人で書きたいんだけど・・・」
「夫婦で書く遺言は無効になるって聞いたんだけど、いったいなんでなの?」
「妻に私も、何かあった時の為にお互いに遺産を残す旨を書いておきたいんです」
病める時も、健やかなる時も、からスタートした二人。
最後の事も一緒に考えたいと思う夫婦も多いのではないでしょうか。
二人で遺産の事を考えていく中で、あの時はどうだった、あの人にはお世話になった・・・と思い出が次々と湧いてくることでしょう。
ただ、気をつけないと夫婦二人で書いた遺言は無効になってしまいます。
このコラムでは夫婦で書く遺言がなぜ無効になるのかという理由と、その対策を解説いたします。
2人で一枚の紙に遺言を書けない
遺言を書く時、どうせ二人で築いてきた資産だしお互いに隠すこともないからと、夫婦二人で一枚の紙に遺言を書いた方が合理的だよねと考える方もいるかもしれません。
でもこれ、ダメなんです!
共同遺言の禁止
法律の言葉で二人以上の人が同一の遺言を遺すことを「共同遺言」といい、共同遺言は禁止されています。
該当する法律の条文を見てみましょう。
第975条 共同遺言の禁止
遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。
この条文をみると、夫婦に限らずそもそも遺言は複数人で書いてはいけないということがわかります。
これはいったいなぜでしょう。
先程の例のように、本人達が共に築いた財産であるから・・・と納得していれば別にいいような気もしますが。
遺言は自由な意思に基づいていないといけない!
さて、ここで遺言の撤回に関する条文を見てみましょう。
第1022条 遺言の撤回
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
この通り、遺言は書いた人がいつでも撤回することができます。
作成するのも撤回するのも自由意志に基づいて、ということですね。
あわせて読みたい>>>財産処分によって遺言は撤回される?生前処分による遺言の一部撤回について行政書士が解説
しかし複数人で遺言を書くと、撤回するときに1人で撤回できるのかという問題が生じてしまいます。
また、二人で遺言を書いたとすると後から書いた人が前の人の遺言内容を見てしまうので、本当に本人の自由な意思に基づいて遺言を書くことができなくなってしまう可能性があります。
更に可能性として、もう一方の人間に強制されて書いた遺言ではないかと疑われたりすることもあり、完全な自由意志で書いた事が担保できません。
これら理由により、法律では共同遺言を禁止しています。
無効になる共同遺言のパターン3種
では、具体的に無効になる共同遺言のパターンを見ていきましょう。
実は共同遺言にも3種類あります。
- 単純共同遺言
- 双方共同遺言
- 相関的共同遺言
これより、例と共に各共同遺言のパターンを見ていきましょう。
単純共同遺言
一枚の紙に複数人で遺言を書くパターンです。
例えば、夫Aと妻Bで一枚の紙に遺言を書き、Aは自分たちの資産のうち不動産について書き、Bは預金について書く、といった具合です。
AとBで同じ資産に関して書いているわけではないので内容はお互いに独立していますが、遺言としては無効であると判断されています。
双方的共同遺言
一枚の紙に複数人が遺言を書き、お互いに遺贈しあうという内容のパターンです。
夫婦だと、先に死亡した方が残った方に遺産を相続させる、というような内容が考えられます。
こちらも共同遺言なので無効となります。
相関的共同遺言
一枚の紙に複数人が遺言を書き、互いに相手の遺言を条件とするような内容のパターンです。
夫婦だとすると、先に夫Aの遺言が何らかの理由で失効したら、妻Bの遺言も失効する、といった内容が考えられます。
こちらも共同遺言として無効です。
これらどのパターンでも「一枚の紙に書いている」という事が共通しています。
では、たとえ夫婦二人で考えても別々の紙に書けば遺言としてはOKだと言えるのでしょうか。
色々なパターンが考えられるので、これより具体例を用いて検討してみましょう。
共同遺言になるかどうかの具体例を解説
以下、共同遺言で実際に起きたケースです。
共同遺言と言ってもすべてが無効となる訳ではありませんので、具体的に見ていきましょう。
同一の紙に書いてあるけど実質一方の財産に関してのみ
(東京高裁昭和57年8月27日判決)
一枚の紙に夫婦共同名義で遺言が書かれていたケースです。
一枚の紙に書かれていたというだけでもう共同遺言になり無効なのかと思ってしまう方もいるかと思いますが、このケースでは妻がまったく遺言の作成に関与していませんでした。
つまり、夫が勝手に妻の名義も使って夫婦名義で遺言を書いたのです。
また、遺言の内容も夫の資産に関してのみであり、実質的には夫のみの単独の遺言として扱っても問題なしとの判決が下りました。
ひと綴りになっているが、ページによって名義が違う
(最判平成5年10月19日)
例えば全部で10枚遺言書がホチキスなどで一つに留められていて、1-5枚目までが夫の遺産、6-10枚目までが妻の遺産、というふうに枚数によって分かれているケースです。
この場合は切り離すことができるので共同遺言にあたらず、それぞれ夫、妻の遺言として有効となります。
「切り離すことができれば有効」なので、例えば一つの封筒に夫の遺言書と妻の遺言書が入っていて封筒に封がされていても、共同遺言には当たりません。
共同遺言で一方の遺言に形式違反がある
(最判昭和56年9月11日判決)
では最後に、一枚の紙に書かれた共同遺言でも一方の遺言に形式の不備があった場合を考えてみましょう。
共同遺言に当たりそうな場合でも、それが当然に無効になるのではなく内容により判断をするとお話しいたしました。
今回は夫Aと妻Bで一枚の紙に遺言を書きましたが、妻Bが書いた内容に不備があったとします。
遺言には形式が厳しく決められており、不確かな内容、例えば「私の預金の大部分を子にまかせる」と書くと、
- 複数の金融機関に預金口座があった場合どの預金の事を指すのか
- 大部分とは具体的にどのくらいの割合なのか
- 子が複数いた場合、遺産を相続させるのは長男なのか、次男なのか
- まかせる、とは処分をしてもらうという意味か、預金を譲る、という意味なのか
ざっとみただけでもこれだけの不明点があり、この一文をもって妻Bの遺言は無効となります。
それでは、同じ紙に書いていたにしろ妻Bの部分が無効になったので夫Aの遺言のみが有効となり、共同遺言で無効になる事が回避できたと考えてもいいのでしょうか。
判例ではこの場合でも共同遺言に該当し、夫Aの部分も無効になると判断しています。
(先ほどの東京高裁昭和57年8月27日判決では、夫のみの単独の遺言として夫の自由意志はあったということでした。※妻側はそもそも夫が勝手に妻名義を書いたため無効)
結果として、妻Bの部分のみの無効があっても、(夫Aの遺言は有効でも)夫Aと一緒に書いた以上、夫Aが本当に自由意志に基づいて書いたかがわからないからです。
(実際には妻が氏名を自署していない方式違背がありました)
夫婦で遺言書の作成は行政書士に相談
これまで学んだ通り夫婦が一枚の紙に遺言を書くと常に無効になるわけではないですが、無効になってしまう不確かさが残り、相続人にとって負担になる可能性があります。
良かれと思って書いた遺言が子供たちの負担になってしまったら、本末転倒ですよね。
やはり万全を期すためにも、夫と妻で別々の遺言を書くべきです。
ただ、自分で書く遺言書(=自筆証書遺言)は要式の不備等で無効になるリスクもあり、できれば専門家のサポートを得て遺言書を書いたり、より強力な信用力のある公証人による遺言(=公正証書遺言)を採用したほうがいいと言えます、
長岡行政書士事務所は相続・遺言業務に対する経験が豊富にあり、印鑑を押していただくだけの負担のない相続を目指しております。
あわせて読みたい>>>自筆証書遺言とは|効力やその他の遺言書との違いを行政書士が解説!
少しでも不安やわからないことがある場合は、是非、横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。