相続手続きを進める中で、「一部の遺産だけを先に分割したい」「預金だけでも早く動かしたい」といったお悩みが少なくありません。
実はこういった場合、遺産の一部だけ先行して、遺産分割協議書としてまとめることも可能です。
しかし実務的に、一部の遺産だけを先行して遺産分割協議書は作る場合に注意しなければならないポイントが存在します。
そこでこの記事では、横浜市で相続手続をサポートしている行政書士の視点から、一部の遺産だけ先行して遺産分割協議書にまとめる際に知っておきたいポイントを紹介します。(もちろん遺産分割協議書の作成を当事務所にご依頼いただくことも可能です)
一部の遺産だけを先行して遺産分割協議するメリット
一部の遺産だけを先行して遺産分割協議するメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- 急ぎの資金確保が可能(例:葬儀費用、相続税の支払い)
- 合意が得られている遺産の一部に素早く対応をして先に分割をし、合意がまだ得られていない遺産に合意形成の時間を費やせる
遺産分割は、不動産の評価や分け方、特別受益・寄与分などをめぐって長期化することも珍しくありません。そして協議がまとまらなければ、遺産を使うことはできません。
しかし、当面の生活費や、相続税の納税資金などがすぐに必要なこともあります。こうしたとき、争いのない預貯金だけを先に分割してしまえば、全体の決着を待たずに必要な資金を確保することが可能なのです。
※なお、「払戻し制度」を活用すれば、一つの金融機関から、下記の式で求められる金額までおろすことも可能です。(上限150万円)
相続人が単独で払戻しができる金額=相続開始時の被相続人の預貯金額 × ⅓ × 払い戻しを希望する相続人の法定相続分
この金額で、当面の間やりくりできる場合、無理に一部の遺産だけを先行して遺産分割協議する必要はありません。
関連記事:亡くなった人の預金はおろせる?相続時の預貯金払戻し制度について行政書士が解説!
※相続税の納税資金を確保するために一部分割をする場合、相続税の特例との関係にも注意が必要です。
相続税には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった、税負担を大きく軽くできる制度があります。しかし、これらの特例は、原則として相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに分割が済んでいる財産にしか適用できません。
関連記事:相続時の「小規模宅地等の特例」とは?土地の評価額が最大80%減額される制度を税理士が解説
一部の遺産だけを先行して遺産分割協議するデメリット
一部の遺産だけを先行して遺産分割協議することにはメリットもある一方、次のようなデメリットがある点は留意しておくべきでしょう。
- 協議を何度も行う手間がある
- 全体のバランスを取りにくくなる
- 一部分割として合意した内容を後から変更することは原則できない
まず、協議を何度も行う手間があります。先に分ける分と、残りの分とで、遺産分割協議を複数回行うのは、楽なことではありません。
また、全体のバランスを取りにくくなる点にも注意が必要です。遺産の全体を見渡して「誰が何を、どれだけ受け取るか」を公平に調整できれば望ましいですが、一部を先に分けてしまうと、後から残りの財産を分ける際に、「先に分けた分まで含めて考えると不公平だ」といった不満が生じたり、残った財産だけでは調整しきれなくなったりすることがあります。
そして、一部分割として合意した内容を後から変更することは、原則としてできません。いったん相続人全員で成立させた遺産分割は、たとえ一部分割であっても、あとから「やっぱり分け方を変えたい」と一方的にやり直すことはできないのが原則です。
相続人全員が改めて合意すればやり直せる余地はありますが、その場合でも、先に取得した財産を分け直すことが贈与や譲渡とみなされ、贈与税や不動産取得税などの思わぬ税負担が生じるおそれがあるため、注意しなければならないのです。
税負担の注意点については、下記の記事も参考にしてみてください。
関連記事:遺産分割協議はやり直せる?解除の条件や期限、注意点を行政書士が解説!

一部の遺産だけを対象とした遺産分割協議書で注意すべきポイント
民法上、遺産分割は相続人全員の合意に基づいて行うものであり、遺産全体を一括して処理しなければならないという義務はありません。
しかし、やはりすべての遺産を記載する遺産分割協議書と比べると、一部の遺産だけを対象とした遺産分割協議書を作る際には注意すべきポイントが多々あります。
- 相続人全員の合意があること
- 協議の対象を明確にすること
- 他の遺産について未分割であることを明記すること
- 将来的な分割を妨げない内容にすること
- 分割協議書のタイトルや前文で「一部協議」である旨を明示すること
- 一部協議後の処理計画を共有すること
- 税務上のリスクに注意すること
それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
相続人全員の合意があること
一部の遺産についてだけ協議する場合でも、法定相続人全員の同意が必要です。誰か一人でも同意しなければ、その協議は無効となります。
関連記事:遺産分割協議の参加方法は?全員集合の必要性・注意点を行政書士が解説!

協議の対象を明確にすること
「この協議書は〇〇銀行の普通預金口座に関してのみ合意する」といったように、対象財産を明確に限定することが肝心です。
曖昧な表現では、後日他の相続人から異議が出るリスクがあります。
他の遺産について未分割であることを明記すること
残された遺産(残余財産)については後日協議を行うことを明記し、「本協議書は遺産全体の一部についてのものである」旨を記載しておきます。
この記載がないと、協議書の文面によっては「すべて分割された」と誤解されるおそれがあります。
将来的な分割を妨げない内容にすること
遺産の大部分を占める不動産や株式、貸金債権などが未分割である場合、それらの分割が円滑に行えるような表現にとどめておくことが望まれます。
「本協議書に定めのない遺産については、相続人全員で別途協議の上、分割する」などの文言を入れるのが一般的です。
なお、後から遺産分割協議書を作る際は、次の点にも注意してください。
- 既に分割済の財産を含めないよう注意
- 第1回目の協議書と矛盾がないよう整理
- 署名・押印は再度、全相続人から取得
分割協議書のタイトルや前文で「一部協議」である旨を明示
「遺産分割協議書(預貯金に関する一部協議)」など、タイトルに補足を入れることで、将来のトラブル防止につながります。
一部協議後の処理計画を共有すること
一部協議後、いつどのように残りの遺産分割を行うか、相続人間で一定の共通認識を持っておくと、後日の混乱や対立を防ぐことができます。
一部の遺産に限定した遺産分割協議書の文例書き方
それでは、ここまで紹介した点をふまえ、一部の遺産に限定した遺産分割協議書の文例を紹介します。
【例:預貯金のみを対象とする遺産分割協議書の場合】
第〇条 本協議書は、被相続人〇〇の遺産のうち、以下の預貯金に関してのみ分割協議を行うものである。
第〇条 その他の遺産については、後日、別途協議の上、分割することとする。
一部の遺産だけを記載した遺産分割協議書についてよくある質問
- Q預貯金だけ先に分割しても、あとで揉めたりしませんか?
- A
協議書に「他の遺産は未分割」と明記すれば、基本的には問題ありません。ただし内容は明確に記載しましょう。
- Q二度に分けて協議書を作ると、印鑑証明書は2回必要ですか?
- A
はい。別々の協議書であれば、それぞれに相続人全員の署名押印および印鑑証明書が必要です。
- Q一部分割で不動産の名義変更(登記)ができますか?
- A
可能です。不動産について相続人全員で協議をし、遺産分割協議書を作成すれば登記ができます。この場合、他の財産が未分割であることを明記しておくことが望ましいです。
一部の遺産だけを記載した遺産分割協議書の作成は行政書士に相談!
一部遺産だけを先に分割する場合、文言の不備や記載漏れによって将来の相続人間トラブルに発展する可能性もあります。
一部分割をする際は、「後々の分割の方針」や「相続人全員の公平性」について一緒に考えてリスクを想定しなければなりません。専門的な知識と経験を有する行政書士に相談することでこれらのリスクを限りなく減らすことが可能になります。
横浜市の長岡行政書士事務所では、一部の遺産だけを記載した遺産分割協議書の作成相談も承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。


