「どんな時に養子の解消って起きるんだろう」
「そもそも一度結んだ養子縁組って解消できるのですか」
「養子縁組を解消するとどんな影響がでるの」
養子縁組とは、血の繋がりのない人同士が法律上の親子関係を作り出す制度です。
民法の第727条に養子縁組に関する規定があり、養子は養子縁組が成立したその日から実子と同等の扱いとなります。
養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
民法727条
養子は実子と同等の扱いを受けるということは、相続においても養子だからと言って取り分(=相続分)が少なくなったりすることはありません。
仮に600万円の遺産があり相続人が実子と養子だけであれば、それぞれ300万円ずつの相続となります。
さて、縁あって養子縁組になったわけですが、後に養親と養子、または他の利害関係者とトラブルに発展し、養子縁組を解消できないかと模索される場面が存在します。
代表的な例としては、家業を継いでもらおうと子の配偶者に婿養子になってもらったものの、子の婚姻関係が破綻し離婚してしまったので養子縁組も解消したい、というケースです。
このように養親・養子の関係を継続させるのが難しい場合は、どうしたらいいのでしょう。
今回はこの養子縁組の解消について横浜市の行政書士が解説いたします。
養子縁組解消のために離縁という制度がある
実際に養子縁組を解消する方法として「離縁」という制度があります。
5つのタイプがありますので、それぞれ説明していきます。
協議離縁|タイプ1
養子縁組を解消するためには養親と養子の間で話し合いを行い、同意に至れば協議離縁届にお互いにサインをし役所に提出することで養子縁組を解消することができます。
また、その際には成年に達している証人が2人必要となります。
調停離縁|タイプ2
話し合いが不調に終わった場合は家庭裁判所に離縁調停を申し立てることができます。
当事者同士だと感情的になってしまったり客観的な視点が不足して合意に至らないような時でも、第三者である調停委員が間に入って話し合いを進めてくれます。
調停が成立した場合は調停調書が作成されるので、10日以内に離縁届を添えて家庭裁判所に提出する必要があります。
審判離縁|タイプ3
家庭裁判所の裁判官が離縁に相当の理由があると認めれば、職権による審判により離縁が認められることがあります。
審判が成立すると自宅宛に審判書が届きそのまま2週間経過すると審判が確定しますが、その期間内に意義の申し立てをすると審判はその効力を失います。
審判が確定した場合は審判書と確定証明書、離縁届を役所に提出すれば手続きは完了です。
裁判離縁|タイプ4
調停で離縁が認められず、また相当の理由が見つからないので審判離縁にもならない場合は裁判によって離縁するしかありません。
ただし、裁判で離縁が認められるには、民法814条により法律上の離縁事由のうちどれか一つが必要となります。
詳しくは下記で解説いたします。
死後離縁|タイプ5
上記タイプ1~4は双方が生存していることが前提ですが、この死後離縁は養親や養子が死亡したあとに養子縁組を解消する手続きです。
片方が死亡しているので合意は必要ではなく、生存している養親又は養子が一方的に家庭裁判所に申し立てれば離縁が成立します。
亡くなった配偶者の血族との婚姻関係を終わらせる「死後離婚」とは違うので注意してください。
あわせて読みたい>>>死後離婚とは何かを解説! 遺産相続や遺族年金の影響、 義父母との関係について
死後離縁をしても成立するまでは相続を受けることができたり、また養親・養子の親族の扶養義務が消滅したりというメリットがありますが、一度死後離縁してしまうと撤回できなかったりするデメリットも存在するので慎重に判断する必要があります。
裁判上の離縁事由とは?
前述した通り、裁判で離縁するためには法律上の離縁事由が必要となります。
下記に見ていきたいと思います。
離縁の訴えを提起できる具体的事由
縁組の当事者の一方は,次に掲げる場合に限り,離縁の訴えを提起することができる。
- 他の一方から悪意で遺棄されたとき。
- 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき。
- その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。
実際は3の「縁組を継続しがたい重大な事由」が問題となる事がほとんどです。
縁組を継続しがたい重大な事由の具体例
これに当てはまるか否かという具体的な基準があるわけではないので事情を総合的に考慮して判断することになりますが、実際に重大な事由として認められるパターンとしては下記4つが挙げられます。
A.暴行・虐待・重大な侮辱
例)養子が養親に暴言や暴行を繰り返した
B.絶縁・長期の別居
例)養親と養子が10年以上交流がない
C.家業の承継や金銭等をめぐる養親子の不和・対立
例)養子には家業を維持する気がなく、これ以上話し合いを重ねても希望がない
D.縁組当事者の一方の夫婦関係の破綻
例)子の配偶者に家業を継いでもらうために婿養子にしたが、子と配偶者の夫婦関係が破綻してしまった
特にDの例のような子の夫婦関係が破綻し離婚した場合には、裁判所は養親との離縁も認める事例が多いです。
ベースとなる婚姻が消滅したのにまだ養子縁組が残っているのはねじれ状態である、という事由です。
しかしながら、離婚の原因が養親の子や養親の側にあったり、離婚後に一定期間養親・養子の関係が良好だったりした場合は離婚しても離縁は認めないというケースも存在します。
離縁をするとどう影響がでるの?
では、離縁をすると戸籍上はどのような影響が出てくるのでしょうか。
離縁後の戸籍上の影響
離縁により養子の姓は基本的に養子縁組前の姓に戻ります。
ただし、養子縁組から7年が経過していれば、離縁から3か月以内の届出によって養子であった時の姓を名乗り続けることが可能です。
戸籍も養子は養親の戸籍から抜けることになり、元の戸籍に戻るか新しい養子のみの戸籍を編成するかを選択する必要があります。
養親の戸籍にも「X月X日養子縁組解消」と養子が抜けたことが明記されます。
離縁後の相続の影響
また、相続の観点からお話ししますと、養子縁組成立から親子と同一の関係が築けるところ、当然ながら養親が死亡すれば養子も相続人となり、実子とも公平に相続することが出来ます。
ところが、離縁が成立すると養親子の関係は解消されますから、当然に養親子間で相続関係は無くなります。
そういったこともあり、離縁をする際はこれらの影響も考えながら検討するのがベストだと思います。
養子縁組時も離縁の場合も専門家にご相談ください
このように、養子縁組を解消することは離縁という手続きを行う事で可能となりますが、常に離縁が認められるわけではなく、また当事者間で合意にに至らなかったりすると話し合いに大変な労力を伴ないます。
また、権利義務関係も影響を受けるので、できれば養子縁組をする時点で専門家に相談して考えうる影響について検討をしておくべきだと言えます。
法律の観点からアドバイスが必要な際は、是非経験豊富な長岡行政書士事務所にご相談ください。