50代 女性
先日、父が亡くなりました。家族は母と兄と私です。
母と兄と共に父の遺産を相続する手続きを行なったのですが、生前父が兄を相続廃除していたことが発覚しました。
そうすると、兄には相続権はありませんよね?
すでに遺産分割を行なってしまった場合、もう手遅れなのでしょうか?
権利のない兄から遺産を取り戻す方法はないのでしょうか。
今回のご相談は、相続廃除されていたお兄様が遺産を相続してしまったが、取り戻す手段はないのか?というご相談です。
お兄様はすでに故人の意思によって相続廃除されているわけですから、相続権はありません。
このように、相続する権利のない方が相続してしまった場合に本来相続権を持つ方を救済する手段として、相続回復請求権という手段がございます。
今回は、相続権がない方が相続してしまった場合に相続権を回復させる権利、相続回復請求権についてお話しします。
相続回復請求権とは?
相続回復請求権とは、正当な相続権を持たない者が『私が相続した!』と主張して相続財産を占有しているとき、正当な相続人の相続財産を侵害している場合に、その侵害を排除して相続財産の回復をすることができる権利です。
相続回復請求権は、個々の財産を取り戻す権利ではなく、包括的に遺産全体の返還を請求することができる権利です。
相続回復請求権を行使できる要件
相続回復請求権はいつでも誰でも行使することができるものではなく、この権利を行使するためには以下の3つの条件を満たすことが必要です。
- 請求人が相続権を有している相続人であること
- 相続権が侵害されていること
- 相続回復請求権が時効を迎えていないこと
相続回復請求権の3つ条件を以下で詳しく見ていきます。
請求人が相続権を有している相続人であること
相続回復請求権を行使するための1つ目の条件は、相続回復請求権を行使することができる権利を有していることが必要です。
相続回復請求権を行使することができる権利を有している人とは、相続権を有する人(=真正相続人)です。
典型的には、遺言書によって相続分の指定を受けた人、および法定相続人を有する親族、つまり配偶者・子ども・直系尊属(※1)・兄弟姉妹などが『真正相続人』に当たります。
※1 直系尊属とは・・・
自分より前の世代に属する親族のこと。例えば、父・母祖父母が挙げられます。
その他、相続分の譲受人、包括受遺者、遺言者等も真正相続人に準ずるとして相続回復請求権を行使することが可能です。
相続権が侵害されていること
相続回復請求権を行使する2つ目の条件は、『表見相続人』もしくは『共同相続人』によって相続権が侵害されている必要があります。
・表見相続人とは
表見相続人とは、実際には相続権がないのに相続財産を処分したり、占有したりしている人をいいます。
具体例は、以下のような人が挙げられます。
- 相続欠格者(※2)
- 相続廃除された人(※3)
- 親子ではないのに出生届を出された人
- 婚姻が無効となった配偶者
- 養子縁組が無効となった養子
- 無関係な第三者
※1 相続欠格者とは・・・
相続について、本来であれば相続人となることができる者が、法律に定められた不正な行為を行なったために、法律上当然に相続の資格を失った者のこと。
相続欠格について、詳しくは以下のリンクからご確認ください。
合わせて読みたい:相続欠格とは?法定相続人の地位を奪われてしまうことがある?
※2 相続廃除された人とは・・・
被相続人本人が財産を相続させたくないことも当然と思われるような事柄(被相続人に対する虐待等)がある場合に、被相続人の意思に基づいて相続権を失った者のこと。
相続廃除について、詳しくは以下のリンクからご確認ください。
合わせて読みたい:相続廃除とは?特定の相続人に相続させない方法を行政書士が解説
・共同相続人とは
遺産相続が開始したのち、複数の相続人が遺産を共同で相続している状態を共同相続、そして、共同で相続している人たちを共同相続人と言います。
共同相続は、遺産を個々の人が所有しているわけではなく、あくまでも全員で共有して持っているのです。
そのため、共有財産であるにもかかわらず勝手に自分のものであるとして不当に処分したり占有しているような場合にも相続回復請求権を行使することができます。
相続回復請求権が時効を迎えていないこと
相続回復請求権を行使することができる3つ目の条件は、相続回復請求権の時効が成立していないことです。
相続回復請求権の時効は、相続権の侵害を知ってから5年以内と定められています。
また、相続の侵害に気が付かなかったとしても、相続そのものから20年が経過してしまっている場合には時効が成立するため注意が必要です。
相続回復請求権を行使することのきる具体例
相続回復請求権を行使することができる具体例をご紹介します。
相続廃除された人が財産を相続したケース
相続回復請求権を行使することができる対象には、表見相続人が挙げられますが、遺産の分配を行なったのちに、相続人のひとりが相続廃除を受けていたことが後からわかったというような場合です。
今回のご相談者様のような以下のご家族を 例にお話しします。
- 父(被相続人)
- 妻(配偶者)
- 兄(相続廃除)
- 弟
亡くなった父が長男を生前に相続廃除の請求をしていたというようなケースが挙げられます。
長男が相続廃除を受けていなかった場合、法定相続分から相続人の相続財産は妻が全体の2分の1、子どもである長男と次男がそれぞれ4分の1が法定相続分となります。
長男が相続廃除を受けていることに気が付かず相続してしまった場合、長男には相続する権利はないため、妻や次男には相続回復請求権を行使する権利を有します。
他の相続人の同意なく特定の相続人が財産を不当に相続したケース
共同相続人の一人が不当に相続財産を占有しているケースが挙げられます。
しかし、共同相続人に対して相続回復請求権を行使することができるのは、侵害をした相続人が、当該侵害部分が他の相続人の持分であることを知っているとき、またはその侵害部分について相続による持分があると信頼に値する合理的な事由が必要であると考えられています。
相続回復請求権を行使する方法
もし相続権を侵害されてしまったらどのような手段で救済を求めることができるのでしょうか?
この章では実際の相続回復請求権を行使する方法を見ていきましょう。
相手方と話し合う
まずは、権利を侵害している相手方と直接話し合って返還を求めることが手軽な方法でしょう。
どう言っても訴訟なんて身近な存在ではないですよね。
権利の救済のためとはいえ訴訟を起こす側としても大事なのではないでしょうか。
相続回復請求権を行使する条件の一つに時効があったと思いますが、時効が近いからといって慌てて訴訟手続きを行う必要もありません。
裁判外で請求することでも時効は止まります。
まずは話し合いを行うことでも時効が止まるため、訴訟は最終手段でも良いのではないでしょうか。
時効が近づいているような場合、まずは内容証明郵便を使って相続回復請求権に基づく請求書を送りましょう。
話し合いによって合意ができれば『合意書』を作成して、遺産を返還してもらうことができます。
訴訟を起こす
話し合っても合意ができない場合は、訴訟を起こすほか仕方ありません。
裁判の管轄地は、被告(相手方)の住所地の地方裁判所です。
訴訟を起こせば、時効は止まります。
訴訟で相続権の侵害を立証できれば裁判所が遺産の返還命令を出してくれます。
また、相手方が返還に応じない場合にも、強制執行によって取り戻すことができるため確実な手段ということができます。
相続でお困りの方は是非行政書士にご相談ください
自身が相続人となっているのに相続権が無い他の第三者によって権利を侵害された場合であっても、『相続回復請求権』を行使して遺産を取り戻すことができます。
取り戻す方法はご紹介した通り、話し合いで回復することもできます。
しかし、この権利はあまり一般的に知られているものでなく、請求時に相手方とトラブルになるケースもあります。
また、お話ししたように行使する場面が限定されていることもあるため、相続回復請求権が行使できるケースなのか、判断が難しい場合もあります。
侵害されている?と思った場合には、スムーズに、かつ安心して手続きを行うために、早めに専門家へのご相談をおすすめします。
相続のことならお気軽に横浜市の長岡行政書士事務所までご連絡ください。