「近年の相続法改正って色々あったけど難しくて分からない」
「相続法は一体どんな風に変わっていっているの?」
「相続法が改正する理由を知りたい!」
相続法はここ5年くらいで大きな変化を遂げています。
民法は基本的に、その時代に適したように変わっていくものですから、それだけ時代の変化が速く、社会が変わりつつあるということでしょう。
今回は大きな改正点である次の2つを主に、ある程度簡素に解説してまとめていきたいと思います。
- 平成30年7月(2018年7月)
- 令和5年4月(2023年4月)
2024年(令和6年)にも改正があるため、それについても最後に補足していきます。
大まかな改正の流れがわかれば、これからどういうことが起こるのだろう、と想像するための指針にもなりえます。
2018年(平成30年)7月の相続法改正
2018年(平成30年)の相続法改正には、不要な手続きをなるべくなくし、て相続を簡略化しようという方向性で進められました。
主なポイントは次のとおりです。
- 配偶者居住権
- 配偶者短期居住権
- 自筆証書遺言の一部要件緩和
- 遺産分割前の預貯金の仮払い制度
- 遺留分侵害額請求権は金銭給付に
- 特別寄与制度の創設
具体的にまとめていきます。
配偶者居住権が創設
2018年(平成30年)の相続法改正で特筆すべきポイントが、配偶者居住権の創設です。
配偶者居住権とは、その名のとおり「配偶者」が自宅に住み続けるための権利といえます。
たとえば、妻と夫が夫の家でずっと暮らしていました。ある時、夫が死亡したとします。
一般的にいって、妻が家賃を払っていることはあまりないので無償で夫の家に住んでいることが多いでしょう。
このような状態で、妻(夫)に家を遺す方法としては次の2つが挙げられます。
- 遺言書で不動産そのものを配偶者に相続させる
- 遺言書で不動産の配偶者居住権を設定する
不動産そのものを配偶者に相続させればいいようにも思えますが、実務的には「遺留分侵害額請求が発生するリスク」「金銭で受領する財産がなく生活費が確保できないリスク」などが存在していました。
しかし配偶者居住権であれば、「自宅に住む権利(=居住権)」を得ることになるため、上記のリスクを解消できるのです。
配偶者居住権は、次のようなときに設定できます。
- 夫の死亡時にその家に住んでいた
- 無償で使用していた
- 法的に配偶者であった(婚姻届けを提出していた)
なお、配偶者居住権を設定するときにも注意すべきことがあるため、遺言書を作成するときは行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。
横浜市の長岡行政書士事務所でも、配偶者居住権を設定するための遺言書作成をサポートしているので、お気軽にご相談ください。初回相談は無料です。
合わせて読みたい:妻(夫)に家を遺す方法|相続と配偶者居住権の比較と遺言書の書き方を行政書士が解説
配偶者短期居住権も存在する
「配偶者短期居住権」はずっと住み続ける権利ではなく、たとえば遺産分割が終わって夫の家が誰のものか決まるまで、そこに住むことができる権利です。
自筆証書遺言の一部要件緩和
従来までは自筆証書はすべて自分が実際に書く必要がありました。パソコンで作成すると無効になることもありました。
しかし、平成30年の改正相続法において、財産目録においてはパソコンで作ってもよいということになりました。
合わせて読みたい>>遺言書の財産目録の記載例を解説!形式や様式・必要なケースを行政書士が紹介
ただし、遺言書そのものはしっかりと要件を満たさなければ無効となってしまいます。横浜市の長岡行政書士事務所では、遺言書作成を全般的にサポートしているので、ぜひお気軽にご相談ください。
遺産分割前の預貯金の仮払い制度
故人がなくなった際に口座が凍結されることがあります。
その場合、その凍結を解除して預貯金を払い戻してもらうためには相続人全員でそれを行うか、遺産分割協議を終了させてその協議書等を持っていく必要がありました。
つまり、預金を払い戻してもらうのに手続き上時間がかかりました。
改正後は預貯金の仮払い制度が設立され、法定相続分の1/3まで(上限は150万円)ならば相続人個人で払い戻してもらえるようになりました。
相続税や葬儀代などの必要な支出を工面するためです。
関連記事:口座凍結のタイミングはいつ?相続発生後の死亡届と銀行凍結の関係について行政書士が解説!
遺留分侵害額請求権は金銭給付に
改正後は遺留分減殺請求ではなく、遺留分侵害額請求に名前も変わりました。遺留分とは「相続人としてもらいうけることのできる最低限の遺産の範囲」のことです。
4000万相当の土地が特定の相続人に遺されて、自分の遺留分が500万円だったとき、土地の一部を返してほしい、というのは大変です。
これをお金で請求するように統一することによって、手続きを簡略化したのです。
合わせて読みたい:遺留分とは何か?遺留分の割合と遺留分侵害請求について解説!
特別寄与制度の創設
特別寄与分といって、相続人ではないけれど、生前故人に特別に尽くした親族には遺産を一部与えることが認められるようになりました。
民法1050条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
ポイントは、①無償の奉仕であること ②親族であること です。
合わせて読みたい:寄与分の要件とは?親の介護を相続時に考慮する方法を行政書士が解説!
相続法改正(平成30年7月)のまとめ
このように改正点をまとめていくと、この時の改正が一体何を意図していたかがそれとなくわかるように思います。
約40年ぶりの改正ということもあり、今までの相続法では対応できない問題を解決し、また手続きをより簡略化して相続を効率的にしようということでしょう。
自筆証書の一部パソコン作成、というのは確かにおよそ40年前だと考えられないことだと思います。
実際、家族の質も段々と多様化してきて、相続人がほとんど故人の面倒を見ずに他の親族がその人のお世話をする、という場面も珍しくはありません。
より実態に合った形に相続法は変化したといえるでしょう。
2023年(令和5年)4月の相続法改正
さらに最近では2023年の4月にまた相続法が変わりました。その主な改正点をまたいくつか列挙していきます。
- 遺産分割協議の一部に期限が定められた
- 遺産共有時の共有物分割請求
- 遺産共有時の相続財産管理制度
とくに注目すべきキーワードは ①相続開始から10年経過 ②相続財産の管理 です。
では、以下見ていきましょう。
遺産分割協議の一部に期限が定められた
相続分にもいくつか種類があります。
主なものは、法律で決められている法定相続分、遺言書の指定などで決められた指定相続分の二種類でしょう。
それとは別に、故人に対して自分が献身的に尽くした、他の相続人が生前故人から多額の財産をもらっていた、などの理由で相続分の変更を主張することを具体的相続分といいます。特別受益・寄与分などが代表例です。
このような具体的な相続分は、相続開始から10年経つと主張できなくなりました。
つまり、相続開始から10年経過すると、法定相続分か指定相続分で相続は決まってしまうことになります。
いつまで経っても遺産分割が終わらない、という状況を改善するためのものでしょう。
合わせて読みたい>>遺産分割協議に期限はない!ただし10か月以内の手続きが望ましい理由を行政書士が解説!
遺産共有時の共有物分割請求
共有には通常共有と遺産共有があります。
通常共有は一般的な、誰かとシェアしている状態です。
遺産共有は父の土地を一時的に相続人で共有するような、遺産における共有状態です。
たとえば兄弟で土地を買って共有し(通常共有)、兄が死亡し遺産分割が終わるまで相続人で土地を共有している状態(遺産共有)になったとします。
すると、弟と兄の相続人間で通常共有と遺産共有の混合が生じます。
この場合従来では、遺産分割で遺産共有が終わり、土地が誰のものか確定しなければ土地を分割することはできませんでした。
改正後は10年経つと相続人の同意を得て、共有物の分割ができるようになりました。
つまり弟視点だと、兄の死亡後10年経過すれば相続内容やその進み具合に関係なく、自分の共有分は自由に処分できるようにしたのです。
遺産共有時の相続財産管理制度
相続が発生してから遺産分割が終わるまで、遺産が誰のものであるか具体的にはあやふやな状態になっていまいます。
つまり誰が故人の財産に責任を負うのか、はっきりしないのです。
その場合、故人にお金を貸していた人、塀が崩れた際の故人の家の隣人、など一部の利害関係人が不利益を被ることにもなりかねません。
そこで、遺産分割が終わるまでの財産管理人を一時的に設けることができるようになりました。
財産の責任の所在が、あいまいにならないようにしたのです。
相続法改正(令和5年4月)のまとめ
相続が放置されると、具体的に所有権者が誰かわからない状態がいつまでも続きます。
家などの不動産が放置されて空き家になっているケースが増えてきています。
空き家が増えると、その空き家から伸びた木が果実を道路に落とす、など周辺に被害を及ぼすおそれもあります。
今回の改正はそういった遺産の放置をどうにかしようとしているものでしょう。
2024年(令和6年)の相続法改正
実は令和5年の改正と関連して、令和6年4月からも相続法は変わります。土地や家などの不動産には相続した旨の登記が義務づけられました。
相続すら進まず、放置された家や土地がたくさんあります。これもそういった不動産をどうにかしなければ、という観点から生まれた改正でしょう。
合わせて読みたい:相続不動産の相続登記期限はいつまで?法改正による相続登記義務化について解説!
相続手続きに悩んだら横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください
平成30年、令和5年、この二つの改正に共通するものは、個人というものが尊重されていく過程で、その反面、核家族が増えたり地域のつながりが減ったりして、大きく変化する社会構造にどうやって法律が向き合っていくか、ということだと思います。
そして令和5年の改正の方が空き家問題や、相続人の不在または相続人がいても相続が進まない、など、より厳しい状況をなんとかしていようといる印象があります。
社会の変化は速くなり、これからも法律が変わることもあるでしょう。その度に違った手続きが必要になることでしょう。
横浜市の長岡行政書士事務所は遺言書作成、遺産分割協議書作成など相続に関わる手続きをサポートしており、司法書士・弁護士・税理士など他士業の先生とも提携し、手続きが複雑でもワンストップで相続が終了するように、万全の体制を作っています。
相続手続きに悩んでいる方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で対応しています。