70代女性
主人を20年前に亡くし、一人娘も遠くに住んでいるため、長年一人暮らしをしております。
娘にももう家族がおりますし、あまり迷惑をかけたくないのです。
私も少しずつ終活をしておりますが、私の死後はどうしても手間をかけてしまうのではないかと心配です。
何か家族に迷惑をかけない方法はないのでしょうか?
今回は、ご自身がお亡くなりになった後ご家族に迷惑をかけない方法はないかというご相談です。
どんなに終活を行なっていても完璧に片付けるということは無理です。
このような場合、死後事務委任契約という方法をご提案させていただきます。
ご本人の死後様々な事務を委任することができるのでご家族の負担を大きく減らせるのではないかと思います。
今回は死後事務委任契約とは何か、また死後事務委任契約の法的な根拠から手続きまでご紹介します。
死後事務委任契約の概要
死後事務委任契約とは、死後に行わなければならない事務手続きや整理を生前のうちに第三者に依頼する契約のことです。
委任内容は非常に幅広く、死亡後の関係者への連絡から役所に対する連絡、病院や公共料金の支払いに至るまで煩雑な手続きを一括して死後事務と呼んでいます。
ご家族に迷惑をかけたくないという方やお一人でお住まいの方、これらの手続きを誰かに委任しておくことで安心して老後の生活を過ごすことができるのではないでしょうか。
死後事務委任契約は終活の一つとして有効な手段ということができます。
死後事務委任契約が必要な人
死後事務委任契約をおすすめするケースとして、以下のようなケースが挙げられます。
- お一人でお住まいであり、頼れる人がいない場合
- 高齢の家族には頼めない場合や家族と絶縁している場合など、頼める相手がいない場合
- 家族や親族に負担をかけたくない場合
- 内縁関係や事実婚の場合
- 家族と希望が異なる場合
お一人でお住まいの場合や家族が高齢のため事務手続きを頼みづらいとき、自治体が協力してくれる場合もありますが、自治体で行なってくれることは限られています。
また、相続人でなければできない事務手続きもあります。
事実婚や内縁関係にある場合、法定相続人とは認められないため、あらかじめ死後事務委任契約を結んでおくとスムーズに手続きができるでしょう。
さらに、本人は樹木葬にしてほしいなど埋葬に関する希望があったとしてもご家族の意向で異なる埋葬方法になるというケースもございます。
人によって事情は様々ではありますが、いずれにしてもご自身の死後の事務手続き等にご希望がある場合には死後事務委任契約がおすすめです。
死後事務委任契約で出来ること
死後事務委任契約は、ご希望に沿って非常に幅広い内容を契約することが可能です。
具体的には以下のような内容の契約ができます。
- 依頼者が亡くなった後のお葬式
- お墓の管理
- 行政への届出
- 住居の明渡し
- 親族や関係者への連絡
- 医療費や施設利用費の精算
- 残されたペットの引き継ぎ先への引き渡し
- SNSのアカウント削除やwebサービスの解約、デジタルデータの処分などデジタル遺品に関するお手続
以上のように多岐に渡りご希望に合わせて細かく依頼することができます。
死後事務委任契約で出来ないこと
死後事務委任契約では、幅広く委任することが可能ですが、以下のような場合にはできない手続きもございます。
- 相続や身分関係に関する事項
- 生前に発生する手続き
・相続や身分関係に関する事項
相続や身分関係に関する事項というのは、相続分の指定(例:例えば、長男には2分の1、次男には3分の1の割合で相続分を指定するなど)や、遺産分割方法の指定といった相続に関する事項、あるいは、認知や遺言執行者の指定など身分関係に関する事項については遺言書に記載した場合に法的拘束力を有するものです。
相続や身分関係に関する事項は遺言書で対応する必要があります。
合わせて読みたい:公正証書遺言の方が優先される?実際の効果と確実性を行政書士が解説!
・生前に発生する手続き
死後事務委任契約は、依頼者の死後に行う内容を委任するものです。
そのため、生前の財産管理や身の回りのことを依頼することはできません。
合わせて読みたい:相続でよく聞く成年後見制度とは?行政書士が制度の種類と具体例を解説!
遺言執行との違い
死後事務委任契約と同様に亡くなった人のために行うものとして遺言執行があります。
合わせて読みたい:遺言執行者は何をやる?遺言執行手続きの進め方や注意点を行政書士が解説!
遺言は、財産の承継についてのご希望を表明したものです。
遺言執行者はこの遺言に基づいて遺言者の意思に沿った『財産の承継』を行います。
そのため、財産の承継以外の手続きを行うことはできません。
一方で、死後事務委任契約では財産の承継以外のことを行う、という違いがあります。
死後事務委任契約のメリットとデメリット
死後事務委任契約は、幅広く委任することができるため細かいご希望を叶えることができるのですが、一方でデメリットも存在します。
ここでは死後事務委任契約のメリットデメリットをご紹介します。
メリット
死後事務委任契約には、生前にご自身の死後のことに関して希望を伝えることができるというメリットがあります。
家族や親族がいる場合でも、余計な負担や迷惑をかけずに済みます。
また、おひとりでお住まいの場合であっても死後事務委任契約で手続きなどを信頼できる相手に依頼しておくことで安心して老後を過ごすことができるというのが最大のメリットではないでしょうか。
デメリット
一方で、死後事務委任契約はご自身で手続きを進めることが非常に大変です。
死後事務委任契約は専門性の高い内容が多く、専門家への依頼を検討するなど費用が発生するという面ではデメリットということができるでしょう。
死後事務委任契約の法的根拠
死後事務委任契約は、委任者と受任者との間の合意に基づく委任契約です。
ここで委任契約に関する条文をご紹介します。
民法 第653条【委任の終了事由】
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
この条文には、受任者が亡くなった場合はもちろん、委任者が亡くなった場合にも契約は終了すると定められています。
死後事務委任契約は委任者の死後の事務手続きを依頼するものですから、この条文から考えると委任契約は無効となってしまいます。
一気に安心できなくなってしまいますね。
しかし、大丈夫です!
この点について、最高裁は委任者の死亡によって委任契約が終了しないケースもあると判断しています(最判平成4.9.22 平4(オ)第67号)。
この判例が死後事務委任契約のことを指しています。
この判決により、死後事務委任契約を結んでいても法的にも問題なく委任者の死後も契約が守られると解されています。
死後事務委任契約の手続き方法
死後事務委任契約の手続きの流れは以下の通りです。
死後事務委任契約で依頼したい内容を確認
まずはご本人から死後事務委任契約で依頼したい内容を確認することからスタートします。
死後事務委任契約でできることの範囲や委任内容を検討し、できないことは遺言などを検討することも必要です。
どんな事項を依頼したいか、まずはご自身が何を不安に思っているか、何を実現させたいかを書き出してみるのはいかがでしょうか?
内容が決まっていなくても、受任者に相談しながらゴールを決めていくことも良いのではないかと思います。
契約書の作成
死後事務委任契約の締結にあたっては、口頭などではなく依頼者の生前の意思を明確に残すために契約書の作成をすることが望ましいです。
死後事務委任契約を公正証書化する
契約書は公正証書化することで後日のトラブル防止につながるため理想的です。
また、士業などの専門家に依頼する場合には公正証書にすることが一般的です。
合わせて読みたい:公正証書遺言の公証人とは?スムーズに公正証書遺言を作る方法を行政書士が解説
公正証書にする場合、次のいずれかが必要となりますので、ご準備ください。
- 実印+印鑑証明証(発行後3ヶ月以内のもの
- 認印+顔写真付きのマイナンバーカード
- 認印+自動車運転免許証
- 認印+顔写真付きの住民基本台帳カード
また、上記の必要書類と合わせて手数料として1万1000円がかかります。
詳細については、持ち込む公証役場にお問い合わせいただくことでより安心かと思います。
死後事務委任契約ならご自身の死後の希望を実現できる
死後事務委任契約では幅広い依頼を行うことができるため、よりご自身の死後のご希望に沿った内容を実現できます。
自由度も高く、家族に迷惑をかけたくないなど、家族に頼みづらい内容も指定することも可能です。
死亡事務委任契約と遺言書など、組み合わせることで周囲の人の手を煩わせることもなく、またお一人でお住まいの場合であっても安心して暮らせるのではないでしょうか。
ご自身の死後の手続きについてお困りの際はぜひ長岡行政書士事務所へご相談ください。
ご依頼者様が安心して老後を過ごすお手伝いをさせていただければと思います。