養子縁組とは、要するに誰かと家族になるということですので、非常に強い結びつきが生まれます。そのため養子縁組をすると、相続人になれるのです。
それでは、その一度成立した養子縁組を解消することはできるのでしょうか。解消できる場合、相続はどうなるのでしょうか。
今回も犬が転生して行政書士になったという異例の専門家がお話してくれるみたいです。楽しみですね。ということで、【昔話風】の世界にて養子縁組は解消できるのか?について解説していきます。
養子縁組と相続の関係
物語のまえに、養子縁組と相続の関係について解説します。
養子縁組とは、血の繋がりのない人同士が法律上の親子関係を作り出す制度のことです。無事に養子縁組が果たされれば、あらゆる局面で、養子は実子と同等の扱いを受けることになります。
たとえば普通養子縁組を結んだ養子の相続権は、血縁である実子と同様に発生します。そして普通養子縁組を結んだ子は、実の親の相続権も有することも特徴です。
一方、特別養子縁組では、実の親との親子関係は、養親との親子関係をつくる段階で「断絶」します。そのため養親の相続人になることは可能ですが、実親が亡くなった時の相続権は無くなります。
いずれにしろ、養子は養親の相続人となるのです。
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養子縁組は解消できる?
養子縁組を結んだ後に養親と養子、または他の利害関係者とトラブルに発展し、養子縁組の解消を検討するというケースもあります。実際に解消することはできるのでしょうか。それでは物語のスタートです。
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むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
2人の飼っていた愛犬、シロが「ここ掘れわんわん」と小判を探り当て、2人はすっかり大金持ち。
その姿を見ていた神様が、ご褒美にシロを人間にしてくれました。
おじいさんとおばあさんはシロの成長を見守りながら幸せに暮らし、やがて天国へと旅立っていきました。
遺されたシロは、おじいさんの遺言書がきっかけとなり、なんと行政書士になりました!
実家を事務所に改装し「シロ行政書士事務所」として、今日も村人たちの相談に乗っています。
シロ「いらっしゃい、おや?」
かぐやじい「久しぶりじゃのう、シロ。かぐや姫が月に帰ってからしばらくぶりじゃな」
シロ「これはこれは。かぐや姫さんが月に帰ってなお『もう一度地球に帰って来てくれ』と強く願い続けるあまり、頭の血管が2~3本切れたことに逆にブチ切れて、月面旅行会社を立ち上げ、今度は自分から姫を連れ戻しに行こうとしていたものの、月面に酸素がないことを初めて知って「やべー」ってSNSに上げたら、ちょっとした炎上状態になっている、かぐや姫のおじいさんじゃないですか」
かぐやじい「…読者ファースト丸出しの世界観と棒読み説明をありがとうよ」
シロ「どうしたんです。おばあさんまでご一緒で?」
かぐやばあ「それがな。実は家業である月面旅行会社じゃが、わしらもいい歳だからな。養子をもらって継いでもらおうとしたんじゃ。でも、この養子がロクでもないヤツでのう」
かぐやじい「ああ、自分に継いでほしかったら、「龍の頸の玉」「仏の御石の鉢」「蓬莱の玉の枝」「火鼠の皮衣」「燕の子安貝」を持ってこい…などと言うんじゃ」
シロ「それ、そのまんまかぐやちゃんじゃん。しかも普通無理だし」
かぐやじい「だから養子縁組を解消したいと思うんじゃが、どうしたらいいのかのう?」
シロ「養子縁組の解消自体は可能だと言えます」
かぐやじい「よかったよかった」
養子縁組解消のために「離縁」という制度がある
養子縁組の解消自体は可能ですが、勝手に解消できてしまったら権利・義務の関係が非常に厄介なことになってしまいます。そのため、養子縁組を解消する方法は明確に定められています。
そして養子縁組解消のための制度が「離縁」です。
シロ「ただ、勝手に解消できるわけじゃ無論ありませんぜ」
かぐやじい「ええ、めんどくさいのう」
シロ「いや、養子だって家族だし、いきなりお前と家族やめる、とか言われてそれが通ってしまっても嫌じゃない?」
かぐやじい「わしは家族なんて要らない孤高の存在だからのう」
シロ(なんで養子縁組なんてしたんだ…)
シロ「なるほど。わかりました。では、養子縁組の解消方法を説明しましょうね」
養子縁組を解消する方法としては、離縁という制度を使うのが一般的です。離縁には、協議離縁、調停離縁、審判離縁、裁判離縁、死後離縁という5つの種類があります。
離縁の手続きがうまく進まなければ進まないほど、裁判所に頼らざるをえなくなっていきます。そうなると費用も時間もかかるようになりますので、できれば話し合いでうまくまとめたいですね。
かぐやじい「なるほどのう。死後離縁はちょっと毛色が違うが、まず協議から入って、手に負えない場合は調停、審判、裁判へと順に続いていくんじゃな」
シロ「そういうことです。できるだけ早い段階で協議がまとまるに越したことはないですが、当事者同士だと感情的にもなりやすいですからね。まずは以下の5種類の方法の特徴をを、ざっと見てみましょうか」
- 協議離縁
- 調停離縁
- 審判離縁
- 裁判離縁
- 死後離縁
協議離縁
協議で離縁をすることができます。その際、以下のポイントに沿って進めていくことになります。勝手に決めるわけにもいきませんので、こちらは最終的に証人が必要になります。
- 養親と養子の間で話し合いを行う
- 同意に至れば協議離縁届に双方サイン
- 役所に提出
※成年に達している証人が2名必要
調停離縁
調停とは裁判所を介して、話し合いを進めていくことです。一般的には協議がうまくいかなかったとき、家庭裁判所に助けてもらうといった印象です。
- 話し合いが不調に終わった場合は家庭裁判所に離縁調停を申し立てる
- 第三者である調停委員が間に入って話し合いを進める
- 調停が成立した場合は調停調書が作成される
- 10日以内に離縁届を添えて家庭裁判所に提出する
審判離縁
先ほどの調停よりもさらに裁判所の関与が強いのがこちらの審判になります。もはや離縁の判断すらも裁判所が行うといったことになります。裁判所が決めるということで、きちんとした理由がある場合に離縁となります。
- 家庭裁判所の裁判官が職権による審判を行う
- 離縁に相当の理由があるとなれば、離縁が認められる
- 審判が成立すると自宅宛に審判書が届く
- そのまま2週間経過すると審判が確定する
- 2週間以内に意義の申し立てをすると審判はその効力を失う
- 審判が確定した場合は審判書と確定証明書、離縁届を役所に提出する
合わせて読みたい:相続でもめたらどうなるの?遺産分割協議から遺産分割審判まで解説!
裁判離縁
先ほどまでは家庭裁判所を介したり、お願いしたりするといったイメージですが、こちらは裁判という制度を利用して離縁することになります。
- 調停で離縁が認められなかった
- 相当の理由が見つからないので審判離縁にもならなかった
- 上記の場合は裁判を行う
※民法814条により法律上の離縁事由のうちどれか一つが必要となる
死後離縁
養親、養子のどちらかが亡くなったときも、申し立てにより離縁が成立します。
- 養親や養子が死亡した
- 上記の場合、生存している養親または養子が一方的に家庭裁判所に申し立てれば離縁が成立
※片方が死亡しているので合意は必要ではない
※亡くなった配偶者の血族との婚姻関係を終わらせる死後離婚とは違う制度
裁判で離縁をするために必要なこと(離縁事由)
裁判で離縁するためには、法律上の離縁事由が必要になります。具体的な事由や具体例、その後の影響などを見ていきましょう。
かぐやばあ「裁判離縁の離縁事由ってのはどんなものなんじゃ?」
かぐやじい「そりゃ、離縁するのが自由ってことじゃないのかい?」
シロ「字が違いますね。離縁事由とは、要するに離縁が認められるために必要なことです。いくつか条件があるので紹介しますね。」
離縁に正当な理由があるか
離縁したいというその主張に、正当な理由があるかというのが大切です。単なるわがままではだめだということです。
シロ「まず、養子縁組の当事者はは、このような事由をもとに「離縁したいです!」と訴え出ることができます」
- 養親又または養子から、悪意で遺棄されたとき
- 養親又または養子の生死が3年以上明らかでないとき
- その他に縁組を継続し難い重大な事由があるとき
縁組を継続しがたい重大な事由とは?
シロ「実は養子縁組の離縁では、3番目の『縁組を継続しがたい重大な事由』が問題になるケースが多いんですよ」
解消事由のなかには、少し解釈が難しい部分もあります。イメージとして把握してもらうために、いくつか例を出したいと思います。
かぐやじい「ふーむ。確かにこの一文だけじゃと、よくわからんのう」
シロ「例を出すと、このあたりのレベル感ってことですね」
- 養子が養親に暴言や暴行を繰り返したり、侮辱的な言動を浴びせる
- 養親と養子が10年以上交流がなく、長い別居状態にある
- 養子に家業を継ぐ気がなく、話し合いを重ねても希望がない
- 子の配偶者に家業を継いでもらうために婿養子にしたが、子と配偶者の夫婦関係が破綻してしまった
シロ「特に4番目のような、子の夫婦関係が破綻して離婚した場合には、裁判所は養親との離縁も認める事例が多いみたいです。でも、離婚の原因が養親の子や養親の側にあったり、離婚後に一定期間養親・養子の関係が良好だったりした場合は離婚しても離縁は認めないというケースもあります」
かぐやじい「ふうむ、ケースバイケースというわけか」
養子縁組を離縁することで発生する影響
実際に離縁したらどういうことになるのでしょうか。名字などもいきなり変えないといけないのでしょうか。
かぐやばあ「うち…見事に3番目よね。実際、離縁すると何がどうなっていくんだい?」
シロ「ポイントは次の3つですね。」
- 養子の姓
- 戸籍
- 相続
養子の姓
シロ「まず離縁によって、養子の姓が基本的に養子縁組前の姓に戻りますね。でも、養子縁組から7年経過していれば、離縁から3か月以内の届出によって養子であった時の姓を名乗り続けることが可能です」
かぐやじい「うちの場合は3年だから、うちの名前を名乗れないってわけか」
戸籍
シロ「戸籍でも、養子は養親の戸籍から抜けることになります。養子側は元の戸籍に戻るか新しい養子のみの戸籍を編成するかを選択する必要が出てきます」
かぐやばあ「なるほどねえ」
相続
シロ「相続のほうでは、養子縁組が成立しているのであれば、当然、養親が死亡すれば養子も相続人になりますよね。でも離縁が成立すると養親子の関係は解消されますから、当然、相続関係はなくなります」
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養子縁組や相続のことでお悩みの時は行政書士にご相談を
かぐやじい「では、まず協議から始めていくことが重要なんじゃな。でもわしらだけでは心細いので、シロや、力を貸してくれんか?」
シロ「いいですよ。「龍の頸の玉」「仏の御石の鉢」「蓬莱の玉の枝」「火鼠の皮衣」「燕の子安貝」をいただければ」
かぐやばあ「ああっ、じいさんが白目をむいて口から泡を…」
シロ「じょ、冗談ですよ~」
協議で済むのならいいのですが、養子縁組を解消するのも時としてまぼろしの宝物を見つけてくるくらいに難しいこともあります。
裁判まで行ってしまうと労力もお金もかかりますので、なんとかそれまでのプロセスで話をまとめたいものですね。
養子縁組や相続のことでお困りの方は、横浜市の長岡行政書士事務所にいつでもお気軽にご相談ください。