遺産分割協議における債務の取り扱いとは?ポイントと注意点を行政書士が解説!

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相談者様:30代 男性

先日祖父が亡くなり、親族で遺産分割について話し合いをしたいと思っています。

祖父が遺言書を残しているため、どのように相続するかは概ね決まっていますが、先日負債があることが発覚しました。

 

負債についても遺産分割協議によって相続人間で割り振るという方法で良いのでしょうか?

長岡行政書士事務所:長岡
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今回のご相談は、負債についても遺産分割協議で決定しても良いのか?というご相談でした。

 

結論から申し上げますと、負債である債務も相続の対象とはなりますが、原則として債務は遺産分割協議の対象とはなりません。

相続人全員の同意があれば遺産分割協議の対象としても構いませんが、少々注意が必要です。

今回は遺産分割協議における債務の取り扱いについてご説明します。

債務も相続財産に含まれる

そもそも”相続”とは、ある人が亡くなった場合に、その人が財産として持っていた一切の権利義務が包括的に相続人に受け継がれるというものです。

相続の対象となるものは、一切の権利義務です。

”一切の権利義務”とは、土地や建物など、故人が所有していたものから、故人が生前に行っていた契約上の地位までも相続によって相続人等に対して承継されます。

したがって、家や建物などの物的な物から、何らかを請求する権利、あるいは借金や請求された場合に履行する義務に至るまで全てが相続の対象となります。

 

つまり、プラスの財産はもちろん相続の対象となり、マイナスの財産である債務までもが相続の対象となるということです。

遺産分割協議とは

遺産分割協議とは、相続人が複数いる場合に具体的に『誰がどの財産を貰うか』を決定することを指します。

相続の対象となるものは、故人の有していた一切の権利義務です。

したがって、相続財産には、不動産や金銭、預貯金、株式など様々なものが想定されます。

相続開始時における相続財産は、遺言書による指定がない限り相続人等の共有財産とされ、各相続人は全ての財産について相続分に応じた持分を有しています。

 

これらの財産を各相続人個人の財産として帰属させるために遺産分協議が必要となります。

 

遺産分割協議について、詳しくは以下のリンクからご確認ください。

合わせて読みたい:遺産分割協議とは~知ってきたいポイントと注意点を解説

債務は遺産分割協議の対象外

相続の対象となるのは、個人の有していた一切の権利義務であるため、プラスの財産はもちろんマイナスの財産までもが相続されるとご説明しました。

相続において一切の権利義務が対象となるのですから、『相続財産のうち誰が何を担うか』ということを決定する遺産分割協議でも一切の権利義務が話し合われるものであると思いますよね。

 

しかし、遺産分割協議においてマイナス財産である債務については原則として話し合いがなされません。

つまり、債務は遺産分割協議の対象外となるということです。

相続における債務の取り扱いについて、以下のような判例があります。

 最判昭34年6月19日  民集13巻6号757頁 

『債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである』

この判例において、”債務は遺産分割協議の対象ではない”ということが示されています。

つまり、債務については各相続人が何ら手続きを要することなく当然に法定相続分で相続することとなり、相続後はそれぞれが債権者に対して返済義務を負うことになります。

相続人間では債務の遺産分割協議も可能

原則として債務は遺産分協議の対象とはなりません。

しかし、あくまでも原則であって例外も存在します。

 

つまり、例外的に債務であっても遺産分協議によって決定することは可能です。

相続人全員の合意がある場合には、相続人間で相続分に応じた債務の相続とは異なる割合で”相続の負担者”または負担割合を決定することが可能です。

債務を遺産分協議によって決定する場合には以下の点に注意が必要です。

  • 遺産分割協議をする場合、債務引受の効力が発生する
  • 債権者の同意がない場合、相続分に応じた弁済が必要

以下で詳しくご説明します。

遺産分割協議をする場合、債務引受の効力が発生する

相続人全員の合意があり、債務は遺産分割協議をした場合には、『遺産分割協議』ではなく『債務引受』が成立したものとみなされます。

”債務引受”とは、債務者の債務を債務者に代わってあるいは、債務者と併存して第三者が債務を履行するといった内容の契約のことです。

債務引受契約は意思表示のみで行うことができます。

そのため、”遺産分割協議”、”債務引受契約”といった話し合いの形式にこだわる必要もありません。

当事者全員の合意があるのであれば当事者間において、法的な効力を生じさせることができます。

債権者の同意がない場合、相続分に応じた弁済が必要

債務は遺産分割協議によって債務引受の契約とすることは可能です。

しかし、この債務引受はあくまでも相続人間の契約であるため、その契約に同意していない債権者に対しては何ら法的な効力を生じさせることはできません。

 

そもそも、契約は当事者と当事者が双方に合意をすることで契約成立となります。

したがって、一方の人たちの間、つまり相続人間で合意があったからといってもう一方の債権者の合意がなければ、債権者に対して何ら法的な効力は及ばないのです。

 

つまり、債権者の合意がある場合には、債務者にも債務引受の効力が及ぶため債務引受をした相続人以外の相続人は債務を免れます。

しかし、債務者の合意がないままに債務を遺産分割協議によって決定した場合には、他の相続人らも法定相続分の弁済義務を負うことになります。

*債権者の合意があるとき
債務の遺産分割(債務引受)が債権者に対しても法的効力を有し、遺産分割協議後は債務者として定められた相続人が債務を負担することになる。
*債権者の合意がないとき
債権者に対しては債務の遺産分割協議(債務引受)の効力を主張できません。
各相続人は債権者から弁済の請求を受けた場合、自己の相続分に応じた債務を弁済しなければなりません。

ただし、相続人間では遺産分割協議(債務引受)の内容は有効です。
そのため、債権者へ弁済をした相続人は遺産分割協議によって債務を引き継ぐこととなった相続人に対し、自らが弁済した金額を請求することができます

相続される債務の範囲

遺産相続により各相続人が承継する債務は、相続開始時、つまり被相続人が亡くなった時までに発生した被相続人の債務です。

例えば、被相続人がお金を借りていた場合などが”債務”として想像しやすいかと思います。

 

債務なんて自分には関係ないと思われる方も多いかもしれませんが、生前の保険料病院費用カードの未払いなども生前に有していた債務にあたります。

誰しもが債務に関係がありそうな気がしてしまいますね。

これらの債務も各相続人が相続分に応じて承継します。

以下では相続人に承継される債務の範囲についてご紹介します。

連帯債務

そもそも連帯債務とは、債務の目的がその性質上分けることができる場合(例:お金)、各自がこれを負担してそのうちの一人が履行すれば全ての債務者の債務が消滅するというものです。

連帯債務者は、債権者に対して各自が債務全額についての返済義務を負うことになります。

 

連帯債務については、通常の金銭債務と同様に債務の目的がその性質上分けることができる場合は、各相続人はその法定相続割合で、本来の連帯債務者ともに連帯債務者となると判例で示されています。

 

この意味を以下の例でご説明します。

*連帯債務を相続した場合の例

<A(被相続人)とBが連帯債務者としてCから1,000万円を借りていた場合。>

そもそも、連帯債務者なのでAもBも1,000万円をそれぞれ弁済する義務を負っています。

Aが亡くなり、XとYが相続人となった場合を例に考えます。

 

この場合、Bは生存しているためBの弁済額は1,000万円の義務を負ったままです。

XYの弁済義務について、判例に示されている”各相続人はその法定相続の割合で本来の連帯債務者とともに連帯債務者となる”・・・ということです。

この判例の趣旨に当てはめると、XYの法定相続分が2分の1ずつであった場合、Aがそもそも弁済義務を負っていた1,000万円×2分の1、したがって、XYは各々500万円ずつの連帯債務を負います。

 

つまり、この場合には、Bは1,000万円、XYはAの連帯債務(1,000万円)を相続した結果、各々法定相続分に応じた500万円ずつをAと共に連帯債務としてCに弁済する義務を承継します。

保証債務

保証債務とは、本来債務を負っている債務者に代わって債務を履行しなければならない債務のことです。例えば、保証人などがこの保証債務にあたります。

 

保証債務は、本来の債務者が弁済を履行している限りは請求されないのが原則です。

しかし、連帯保証債務の場合は債権者に対して本来の債務者と連帯して弁済する義務を負います。

 

もっとも、保証債務も”債務”ですから、相続人に承継されます。

保証債務の相続分の範囲は、連帯債務と同様に相続分の割合に応じて相続し、連帯保証債務の場合は本来の債務者と連帯して弁済する義務を負います。

不可分債務

不可分債務とは、債務の目的がその性質上分けることができない債務のことを言います。

例えば、1台の車を引き渡す債務や、不動産の所有権移転登記に協力する債務などが不可分債務にあたります。

 

不可分債務については相続分に応じた分割・・・はできません。

そのため、債権者は各相続人に対して債務全部の履行を求めることができます。

 

したがって、各相続人の債務を承継する範囲は債務の全てとなります。

しかし、弁済をした相続人は他の相続人が本来支払う部分を立て替えて支払ったに過ぎませんから、各相続人が相続した範囲について支払いを求めることができます。

葬儀費用

葬儀費用については相続開始後に生じる費用です。

相続の対象となる債務はあくまでも”被相続人の死亡時までに生じた債務”ですから、葬儀費用は相続の対象となりません。

 

葬儀費用の負担者について、喪主負担説、相続人負担説、相続財産負担説など様々な考えがありますが、判例では特段の事情がない限り喪主負担説を採用しているように思われます。

なお、葬儀費用の弁済方法については相続人全員の同意があれば、喪主負担・相続財産負担など、いずれの方法であっても問題ありません。

 

いずれにしても、葬儀費用の負担者について争いにならないようにしておくためには、被相続人が遺言書で葬儀費用の負担者や、遺産で負担する旨を記載しておくことがトラブル回避となるのではないかと思います。

合わせて読みたい:葬祭費は誰の負担?遺言書に書くべき葬儀費用について行政書士が解説

債務の遺産分協議書における記載例

債務の遺産分割協議をした場合の遺産分割協議書の記載例をご紹介します。

後になって合意をしていなかったなどと言い出す人がいるとトラブルになってしまいます。

トラブルにならないためにも、書面に残しておくことは大切です。

記載例

遺産分割協議書

※他の条項は省略
被相続人の債務のうち次の債務は、被相続人〇〇〇〇が負担する。
令和〇年〇月〇日付金銭消費貸借契約に基づく借入金
債権者   〇〇〇〇銀行
残債務金  〇〇万円
ただし、令和〇年〇月〇日現在の残高
返済期限  令和〇年〇月〇日
利息    年〇%

相続財産に債務が発覚した場合は、事前事後の対策が大事

相続人間では債務の遺産分割協議は可能です。

しかし相続人全員の合意があったとしても相続人間でも内部的な合意に過ぎず、債権者との関係では、何の意味もない合意事項です。

そのため、債権者の承諾を事前に確認しなければなかなか相続人の思惑通りにいかないリスクがあります。

一方相続人間の関係も、遺産分割協議を行なったとしても後から相続人同士で”承諾した””していない”で揉める可能性も生じます。

 

債務を遺産分割協議の対象とすることは、事前事後に十分な対策が必要となる問題です。

相続財産に債務を発見し、少しでもご不安がある場合には専門家である行政書士へご相談ください。

 

<参考文献>

神余博史/著 自由国民社 『国家試験受験のためのよくわかる民法』

潮見佳男/著 有斐閣 『民法(全) 第3版』

 

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この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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