「遺産分割証明書なるものが突然送られてきた!この書面は何?」
「遺産分割協議を行なったけど遠方に住む相続人が多い。遺産分割協議書の良い作成方法はない?」
「相続人が多い場合、遺産分割協議書をまとめるのが大変。どうやって作成するのが良い?」
相続は、財産を所有している人が亡くなると同時に発生します。
しかし、”相続が開始した”とはいえ、財産が自動的に相続人等に振り分けられるわけではなく、”誰がどの財産を承継するか”という話し合い、これを遺産分割協議と言います。
そして遺産分割協議を経て、亡くなった方の相続財産はそれぞれの相続人の持ち物として振り分けられていきます。
そして、遺産分割協議をした際には、後に”言った言わない”などのトラブルを避けるためにも遺産分割協議書の作成をおすすめしています。
”遺産分割協議書”には、全員が署名捺印をすることで遺産分割協議の内容を証明する効力を持ちますが、全員の署名捺印となると場合によってはとても大変です。
そこで、同じように遺産分割協議の内容を証明するものとして”遺産分割証明書”というものがあるのをご存知ですか?
遺産分割証明書は遺産分割協議書と同様の効力を持つものですが、同一の書面に相続人全員の署名捺印を要しないという点で遺産分割協議書よりも手間をかけずに作成する事ができます。
今回は遺産分割証明書について、メリットやデメリットからどのような場合に利用すると便利なのか等、詳しくご説明します。
遺産分割証明書とは?
遺産分割証明書とは、「それぞれの相続人が、遺産分割協議が整ったことと、その内容を証明する」書類のことです。
遺産分割証明書には、遺産分割協議で話し合った内容を記載し、相続人が「この内容に間違いはありません」として署名捺印をし、その内容が正しいことを証明します。
この遺産分割証明書も、一般的によく使われる「遺産分割協議書」と同様に、不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続きなどで使用できます。
ただし遺産分割証明書は各相続人が署名捺印をした用紙をすべて揃えることによって、遺産分割協議書と同様の効力を発揮します。
つまり、遺産分割協議書は原本1枚が効力を持ちますが、遺産分割証明書は1枚1枚それぞれを揃えてワンセットで効力を持つということです。
また、遺産分割証明書には以下のような2つの方式が有ります。
- すべての財産を記載する方式
- 自分の取得した財産だけを記載する方式
(自分の取得した財産だけを記載というのは、例えばAとBが相続人としている場合に、AとBごとの2種類の遺産分割証明書を作成し、各相続人が1枚ずつ署名捺印するというものです)
どちらの方式でも構いませんが、すべての財産について記載する方式の場合、すべての相続人の遺産分割証明書が同じ書面になりますので間違いが起こりにくいと考えられています。
遺産分割証明書の記載項目
遺産分割証明書に必要な項目をご紹介します。
- 被相続人の情報
- 相続財産と分割内容
- 署名捺印をする相続人の情報
- 作成年月日
- 署名と実印
- 捨印
それぞれ詳しく見ていきましょう。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
被相続人の情報
被相続人について以下の情報を記載します。
- 氏名(戸籍どおりに記載)
- 最後の本籍地(戸籍どおりに記載)
- 最後の住所(住民票どおりに記載)
- 死亡年月日
いずれの項目も戸籍や住民票と間違いがないよう記載する必要がありますので注意してください。
相続財産と分割内容
相続財産を明記したうえで、どの相続人がどの財産を取得するのかを明確に記載します。
記載が曖昧な場合、名義変更などの手続きに使用できないリスクが有りますので注意してください。
署名捺印をする相続人の情報
遺産分割証明書に署名捺印をする相続人の情報を記載します。
住所を記載し、署名欄と捺印欄を設けておくと良いでしょう。
生年月日や被相続人との続柄を記載する場合もあります。
なお、遺産分割協議書と違い、遺産分割証明書には相続人全員の署名がないことから、相続人全員の住所と氏名を一覧にして、誰が相続人であるかを証明書に記載します。
作成年月日
作成年月日を記載する欄を設けます。
ここは各相続人が署名捺印をする際に、その用紙に署名捺印をした日付を記載してもらいましょう。
相続人によって日付が違っても問題ありません。
署名と実印
各相続人が、それぞれ署名捺印(実印)します。
捨印
遺産分割証明書が複数枚にわたる場合には捨印も忘れずに押印しましょう。
ただし、捨印がなくとも実務上手続きは可能です。
遺産分割証明書でできる相続手続き
遺産分割証明書は、以下のような相続財産を取得する手続きに利用することができます。
- 不動産の所有権移転登記
- 自動車や船舶の名義変更
- 預貯金の払い戻し
- 株式の有価証券の名義変更
- 相続税の申告
なお、遺産分割証明書を利用して相続手続きを行う際には印鑑証明が必要となります。そして印鑑証明書の有効期限が定められている手続きもあります。スムーズに手続きを進めるためにも、事前に届先に確認なさることをおすすめします。
なお、遺言書通りに財産を取得する場合には遺産分割証明書は不要であることが多いです。その場合、相続手続きを行う際は遺言書が必要となります。
遺産分割協議書と遺産分割証明書の違い
遺産分割協議で決まった内容を証明する文書には、”遺産分割証明書”のほかに”遺産分割協議書”があります。
遺産分割協議書とは、遺産分割協議で決まった内容を記載し、すべての相続人が「遺産分割協議で決まった内容に間違いありません」と証明する書面です。
合わせて読みたい:遺産分割協議書の作り方とは〜実際の書き方を詳しく行政書士が解説〜
一般的に相続手続きといえば、遺産分割協議書を思い浮かべる方が多いかもしれません。
すでにご説明した通り、遺産分割証明書に似たものとして遺産分割協議書が存在します。
”遺産分割証明書”と”遺産分割協議書”について、整理すると次のようになります。
- 遺産分割証明書 ⇨ 相続人が署名捺印し、遺産分割協議の内容を証明する書面
- 遺産分割協議書 ⇨ 相続人が署名捺印し、遺産分割協議の内容を証明する書面
同じ内容の書面ですね・・・?
では、なぜ、”遺産分割証明書”と”遺産分割協議書”と2種類に分かれている必要があるのでしょうか?
”遺産分割証明書”と”遺産分割協議書”の違いとしては、次の3点が挙げられます。
比較項目 | 遺産分割証明書 | 遺産分割協議書 |
署名捺印の方法 | 個々の用紙に個々の相続人が署名捺印 | 相続人全員が署名捺印 |
作成枚数 | 相続人の数だけ作成 | 原本1部 |
作成日 | それぞれの相続人が署名捺印をした日(バラバラの日になる) | 合意した日(1日に統一される) |
それぞれ詳しく解説します。
同じ用紙に署名捺印するか別の用紙に署名捺印するか
遺産分割協議書と遺産分割証明書はの大きな違いが『署名捺印をする人』です。
遺産分割協議書を作成する場合、相続人全員が署名捺印する必要があります。
全員が署名捺印をすることによって『全員が合意した』という事実が証明する事ができるからです。
一方、遺産分割証明書の場合、署名捺印する相続人は一人です。
遺産分割協議の結果を記載した個々の用紙に個々の相続人が署名捺印をします。
遺産分割証明書によって証明できるのは「署名捺印した一人の認識」のみであるためです。
つまり、遺産分割証明書は1人の署名捺印だけでも効力を有する書面ですが、遺産分割協議書は相続人全員の署名捺印がなければ効力を有しません。
作成数
遺産分割協議書は、原本1部を作成します。
そして、1部しかない遺産分割協議書を相続人各自が保管したい場合、遺産分割協議書の写しを保管することになります。(実務上、原本を書く相続人の枚数分作成する事が多く、その場合はその複数枚がそれぞれ効力を発揮することができます。)
一方で、遺産分割証明書は、個々の用紙にそれぞれの相続人が署名捺印することから相続人の数だけ作成されます。
作成日が統一されているか
遺産分割協議書は、1枚の用紙であるため、その日付を記載する欄も1箇所しかありません。
そのため、おのずと作成日は統一されることになります。
この日付は、遺産分割協議がまとまった日を記載するのが通例です。
(仮に原本を複数枚作成したとしても、作成日は一緒です)
一方、遺産分割証明書には、個々の相続人が署名捺印をする用紙に日付の記載欄が有ります。
この日付の欄には、それぞれの相続人が署名捺印をした日を記載します。
この別々の日付の中から最も遅い日が遺産分割協議の成立日となります。
つまり、遺産分割協議書では遺産分割協議の成立日は1日だけ、一方、遺産分割証明書では複数の日付に渡って遺産分割協議の成立日が存在することになります。
遺産分割証明書のメリット
遺産分割証明書を利用するメリットは、大きく以下のような3つのメリットが挙げられます。
- 作成が簡単で全員の署名捺印が不要
- 遠方に居住していても作成しやすい
- 紛失や毀損のリスクを下げる事ができる
では、遺産分割証明書のメリットを以下で詳しく見ていきましょう。
作成が簡単で全員の署名捺印が不要
遺産分割証明書は、各相続人が1枚の用紙に、それぞれが一人で署名捺印することで作成することができます。
遺産分割協議書が”全員の署名捺印”をすることで有効な書面となることを比べると、遺産分割証明書のほうが作成が容易であるという点がメリットと言えます。
遠方に居住していても作成しやすい
遺産分割協議書では相続人全員の署名捺印が必要です。そのため相続人同士が遠方に居住していると、全員が1通の遺産分割協議書に署名捺印をするのは大変でしょう。
全員が1通の遺産分割協議書に署名捺印するために郵送で送りあえば、当然時間がかかります。
また、対応が遅い相続人がいる場合なかなか完成しません。
一方、遺産分割証明書はそれぞれの相続人が、それぞれに作成します。
そのため素早く書類を揃えることができ、遺産分割協議書を作成するよりも手続きをスピーディに進められるのです。
紛失や毀損のリスクを下げることができる
1枚の用紙に相続人全員の署名捺印を揃えていく遺産分割協議書の場合、せっかく途中まで署名捺印が集まったとしても、途中で一部の相続人が該当の遺産分割協議書を紛失してしまったり、毀損してしまった場合、改めて他の相続人からも署名捺印をもらい直さなければなりません。
一方、遺産分割証明書の場合は、相続人一人ずつ用紙が分かれているため、仮に一部の相続人が用紙を紛失したり毀損してしまった場合であっても他の相続人の署名捺印に影響はしないため安心です。
遺産分割証明書のデメリット
ここまでは、遺産分割証明書のメリットをご説明しました。
相続手続きなんて面倒なことばかりな中で、簡単に作成できるなんてラッキー!と思われたかもしれませんが、もちろんいいことばかりではありません・・・
残念ながら、遺産分割証明書にも以下のような欠点があります。
- 十分な話し合いができないまま押印を求められる
- 相続人の数だけ書面が必要となるためかさばる
- 他の相続人の押印状況が見えにくい
十分な話し合いができないまま押印を求められる
本来、遺産分割協議書も遺産分割証明書も、あらかじめ遺産分割協議を行い、その結果を書面にまとめたものであるはずです。
しかし、遺産分割証明書の場合、十分な話し合いのないまま突然書類が送られてくるなどして、署名捺印を求められるという状況もあるそうです。
納得ができない場合には署名捺印をしてしまわないよう注意しましょう。
もっとも、押しに弱い人などは遺産分割協議書の場合であっても押し切られて署名捺印をしてしまうという状況もなきにしもあらずではないかと思います。
いずれにしても、ご自身が納得いくまで考える必要がありますので注意してください。
相続人の数だけ書面が必要となるためかさばる
遺産分割証明書は各々1枚ずつ署名捺印をし、すべて揃って有効に成立します。
そのため、相続人数が多い場合には、その人数分だけの遺産分割証明書が必要となり、書類がかさばってしまうというデメリットが有ります。
他の相続人の押印状況が見えにくい
遺産分割協議の場合、自分よりも先に書類がまわってきた相続人の署名捺印がある状況で書類が手元にきます。
そのため、他の相続人が署名捺印したことや進捗状況が見えやすくなります。
一方、遺産分割証明書の場合、各々が別の書面にサインをするため、他の相続人の捺印状況をうかがい知ることができません。
しかし、状況がわからないというのはデメリットでもありますが、ご自身の動きを知られたくない場合など状況次第ではメリットとも言えるでしょう。
遺産分割協議書と遺産分割証明書の使い分け
以上で見てきたように、遺産分割協議書と遺産分割証明書は同じような働きを持つ書面でありながら違う点がいくつかあります。
では、どのように使い分けるのが良いのでしょうか?
もちろん、それぞれご自身に合った方法を選ぶのが一番ですが、選択基準の一つとして、相続人の住んでいる場所を基準にどちらの書面かを決定することをおすすめします。
遺産分割協議書が向いているケース
すでに述べたように、遺産分割協議書の場合には、1枚の書類に相続人全員の署名捺印が必要となります。
たとえば相続人全員が横浜市周辺に住んでいるなど、相続人が集まって話し合える場合などは、遺産分割協議書を作成したほうが早いでしょう。
さらに、遺産分割協議書の原本を相続人の人数分作成すれば、不動産や金融機関などで同時に手続きが可能となります。
そのため手続き箇所が多い場合は遺産分割協議書の作成も有効です。
遺産分割証明書が向いているケース
相続人が横浜市だけではなく、遠方にもいるとしたら、1人が署名捺印を終えたら次の相続人へ、さらにその次の相続人へと郵送し続けなければなりません。これでは時間がかかる上に、途中で紛失するリスクも想定されます。
そんなときには遺産分割証明書を使用した方が早い上に安心でしょう。
相続人等がどこに住んでいようと全員あてに遺産分割証明書を送付し、それぞれが署名捺印後に返送をしてもらうことで手続きを滞りなく効率的に行う事ができます。
相続人全員分の遺産分割証明書があれば、遺産分割協議書と同様の効力を持ちます。
しかし、逆に言えば1枚でも欠けるとすべての遺産分割証明書は効力を失うため注意が必要です。
遺産分割証明書作成時のポイント
遺産分割証明書を作り慣れている人はそう多くないと思われます。最後に、遺産分割協議書を作成する時のポイントについて紹介します。
- 相続手続きを行う人が作成する
- 捨印をもらう
- 印鑑証明書ももらう
- 相続放棄する場合は別の書類が必要になる
相続手続きを行う人が作成する
遺産分割証明書は、共同相続人の一人が作成し、郵送などで配布して他の相続人から署名捺印をもらいます。
共同相続人であれば誰が作成しても構いません。
しかし、遺産分割証明書は相続手続きに使うものなので、実際に相続手続きを行う人が作成するのが良いでしょう。
捨印をもらう
遺産分割証明書には捨印を押してもらうと安心でしょう。
捨印があることで記載の誤りが合った場合など、訂正印として利用でき、書き直すために郵送する手間を省くことができます。
印鑑証明書ももらう
遺産分割証明書の押印は実印で押してもらう必要があります。
また、この押印が本人のものであるという証明をするために印鑑証明書を添付する必要もあります。
実印での押印+印鑑証明がセットになって初めて効力を持つため印鑑証明書の受け取りを忘れないようにしましょう。
相続放棄する場合は別の書類が必要になる
相続放棄とは、家庭裁判所で申述をすることにより初めから相続人ではなかったこととされる手続きで、相続放棄をすることで一切の遺産を受け取ることを拒否する事ができます。
合わせて読みたい:相続放棄とは?遺産相続で負債がある場合の対処法を行政書士が解説!
相続放棄をすれば遺産について一切関係を失うため、相続手続きに関与する必要がなくなります。
そのため、遺産分割証明書に署名したりする必要もありません。
ただし、相続手続きを進めるに際して、相続放棄をしたことの証明は必要となります。
相続放棄受理証明書を家庭裁判所から取得して他の相続人に渡しておくなど、対策をとっておくと良いでしょう。
遺産分割証明書の作成も行政書士に相談できる
遺産分割証明書は遺産分割協議書と同じ効力を持つ書類です。
しかし遺産分割証明書は各自が別の用紙に署名捺印をするため、相続人が多い場合や遠方に散らばっている場合などには非常に使い勝手が良く、利用される事が多いです。
ただし、遺産分割協議書と遺産分割証明書は、それぞれにメリット・デメリットが存在します。
それぞれのメリットデメリットなどを理解して、状況に応じて遺産分割協議書と遺産分割証明書を使い分けることをおすすめします。
いずれの方法が良いのかなどご心配な事があればぜひ横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。遺産分割証明書の作成はもちろん、遺産分割協議書の作成やその後の相続手続きまでお任せいただけます。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。