大好きなペットがいる方もいるでしょう。
しかし、自分が亡くなったら、ペットはどうなるのだろう、と心配になることはありませんか?
今回はそんな相続とペットにまつわる、猫ちゃんとその飼い主、そして行政書士の絆に溢れた(?)物語を「文学風」にお届けします。
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吾輩は猫である。
名前はまだな…いや、一応あるのはあるのだが、こっぱずかしくてここでは名乗れぬ。
どうして吾輩がここで語っているかというと、わが主(女性)が原因だ。
以前、わが主が、薄暗いところでニャーニャー泣いていた。
どうやら主の父親の遺言やら相続やらの問題で、わが主もほとほと困っていたようなので、行政書士の長岡とやらのもとに出向かせたのだ。
すると、長岡とやらの仕事っぷりに崇敬の念すら抱いたわが主が、「行政書士に、私はなる!」と言い出す始末。
相談者を見つけては足しげく事務所へ通う日々なのである。
そんなわが主が、ある日外出から帰ってくるなり、吾輩を抱きしめておいおい泣き始めた。
「グンソクちゃん、わたし、あなたのこと絶対離さないから!」
…ま、待て。その名前で呼ばれたことは一度もないぞ。というか、それ、韓流イケメン俳優のチャン・グンソクじゃないのか。
「ちゃん」の使い方間違ってるぞ…顔がいいから許すけど。
わが主が言うには、近くに住んでいるおばあさんが体調を崩し、もし自分が息を引き取るとき、一緒に暮らしていたペキニーズのペキ太郎のことが心配だと相談を受けたそうだ。
おばあさんには一人息子がいるが、その息子が住んでいるマンションは規則としてペットと暮らせない。
一人息子家族は仕事で多忙なため、家を空けがちだから、引き取るのは難しいという話だったそうだ。
それで、うんぬんかんぬんどないすんねんという話になり、気づけば今日も長岡行政書士事務所の応接室に座っているというわけだ。
相続におけるペットの扱いとは?
一般的に相続財産といえば家や土地などの不動産、預貯金や有価証券などを想像するでしょう。
ではペットはどうなのでしょうか。相続人の借りている物件がもしペット禁止だったりすると、受け入れるのも難しいケースも出てきます。
ペットは法律上では動産として扱われる
ペットをモノとして扱うべきではないという道義的な問題はひとまず置いておいて、法律上の区分で言うと、ペットも故人の財産として相続されることになります。動産、つまり車や楽器などと同じように考えられています。
わが主「センセ! 私、かくかくしかじかで、うちのソジュンちゃんの顔を見たら泣けてきちゃって」
おい、さっきとまた名前が変わってるぞ…。ははあ、今度は『梨泰院クラス』のパク・ソジュンってわけか。
わが主「ペキ太郎ちゃんが心配で心配で…」
ペットに対する飼い主の負担は大きい
ペットは生き物ですから、飼い主が好き勝手に放置したりすることは道徳的に考えてもおかしいでしょう。実際、法律でそこは規制されています。逆に言えば、ペットを引き受けるというのは、非常に大きな責任になるのです。
長岡「まあまあ、では今日は相続におけるペットについて解説しますね。まず、飼い主にはペットが死ぬまで面倒を見る努力義務があるのは知ってますか?」
改正動物愛護管理法だな。吾輩たちの仲間内でも話題になった。
長岡「悲しいかな、安易に飼育を始め、捨ててしまうというケースが近年問題になっています。ですから、ペットを相続財産として受け取るとしても、それ相応の責任があるんですね」
ペットに財産を遺すことはできない
生きていて、家族同然に大切な存在だとしても、ペットが財産を受け取ることはできません。法律的に考えると、ペットは残念なことに人間同様の権利を持つ存在ではないのです。
わが主「もちろんです!大事な大事な家族…私は自分に何かあったら、うちのスヒョンちゃんに相続させるつもりですから」
はい、今度はキム・スヒョンいただきました。吾輩にはいくつ名前があるのか…24人のビリーミリガンも真っ青だな。
長岡「いえ…ペットに財産を相続させることはできないんですよ」
わが主「ひでぶ」
長岡「でもペットが心配ならば自身の死後ペットの面倒を見てもらう人を見つけて、お世話をしてもらう約束をして、ペットの生活を守るのが第一ですよね」
ペットを相続させるときの具体的な対策
ペットを誰かに面倒見てほしい。けれど、中々相続人の中で進んでペットの面倒を見たいという人も珍しいかもしれません。
そこで、具体的にどうすればいいかをご紹介していきます。
遺言書でペットについて書く
遺言書に、ペットを相続させたり遺贈する旨を書くことで、誰か信頼できる人に任せやすくなります。同時に、誰に遺されるかということがわかりやすくなり、トラブルの可能性が低くなります。
わが主「なるほど、ここでも遺言書が大活躍するんですね」
長岡「でも安心はできません。相続は放棄することができますからね。もし今回のようにペットと暮らせない環境であったりすると相続放棄をする可能性もありますから」
合わせて読みたい:相続放棄と遺産分割協議書上の放棄は違う!よくある勘違いを行政書士が解説
わが主「もし、ペキ太郎を誰も引き取らないなんてことがあったらどうするんですか?」
長岡「一般論ですが、誰も引き受け手がない場合、多くの場合は保健所でその子を預かることになります…」
わが主「保健所…センセ、そんなの嫌です! なんとかならないんですか! センセの神通力でおばあさんを治してください」
また神通力だなどと、陰陽師みたいなことを言い出す…。
長岡「わかりました、実は今まで隠していた私の神通力…」
あんのかい⁉
ペットの面倒を見ることを条件に贈与をする
契約で何か義務を果たすことを条件に、何かをあげるということができます。これを負担付贈与と言います。これをペットに応用してみてもいいかもしれませんね。
長岡「…なんてないですから、まずは負担付死因贈与契約を考えてみてはどうでしょうか?」
わが主「なんですのん、その漢字だらけの契約は?」
長岡「かいつまんで言えば、一定の義務を果たすことを条件として財産を贈与する契約です」
わが主「一定の義務を果たす?」
長岡「たとえば。『家を贈与するよ。でも私が亡くなった時点から、代わりに残りのローンはあなたが支払ってね』というような当事者間の契約ですね」
遺言と負担付贈与の違い
遺言書でもペットのことを書くことができます。しかし遺言と贈与契約には大きな違いがあります。その違いを知っておくことで、どのアプローチが正しいか判断がしやすくなるでしょう。
わが主「なるほど。でも遺言でそれを書けばいい話では?遺言とどう違うのかしら?」
長岡「いいところに気が付きましたね。遺言書で行われる相続や遺贈という法律行為は、それを作った人の意思によってのみ成立する法律行為ですよね」
そうだな。法的な要件を満たしていれば一方的な意思表示で成立する。吾輩にもそれくらいはわかる。
長岡「でもこれは受け取る人と遺す人の合意は必要なく、契約ではありません。ですから、受け取る人たちに『相続を放棄をする』という選択肢が残ることになります」
わが主「わかった! 一方的に「あなたに任せる」とせず、負担付死因贈与契約などの契約を当事者間で結んで、しっかりと書面に残しておけば、放棄できないから、ペキ太郎ちゃんは永遠に不滅ということですね」
いや、命あるものに永遠は無理だ。引退試合での長嶋茂雄のコメントか。
長岡「この契約で明確にしておきたいのはこのような内容ですね」
・主に誰がペットの世話をする?
・フードや病院代など、ペットの生活費用はどうする?
・ペットの生活費用のために遺す財産はいかほど?
・契約解除の条件は?
長岡「もちろん手間はかかりますが、この方がペットの面倒をしっかりと請け負ってくれることでしょう」
ペット信託という選択肢も検討できる
ペット信託は、文字通り、ペットに関する信託契約です。ペットの生活を維持するためのお金を信頼できる人に預けておき、自分の死後、適正な飼い主に飼育してもらう仕組みになります。
わが主「へえ、こんな仕組みがあったんだ…?」
長岡「ペット信託は、委託者であるペットオーナーが家族や友人といった信頼できる人を受託者にして『このお金で、この子の面倒を見てあげて』と、ペットと財産を共に預ける仕組みですね」
わが主「預けられた受託者は、財産をペットのために使うわけですね。でも、ペキ太郎ちゃんのように、受託者を引き受けるとしても自宅環境に住まわせられない場合はどうなるのかしら?」
長岡「たとえば受託者が、ペットを飼育してくれる施設などに預け、故人の財産で入所費用を払うなどが考えられますね。つまり、三者間契約になるということです」
わが主「もしもですよ。受託者がとーっても悪いヤツで、預かったペット用の財産をネコババしちゃったりすることはないんですか?」
ネコババって猫に失礼ではなかろうか。この場合は、イヌババではないか。
長岡「そんなことにならないよう、契約がしっかりと行われているかをチェックする人として、信託監督人を設定できます。つまり死後だとしてもチェックが行き届く体制は作ることができるというわけです」
わが主「ちなみに…信託にかかるお金は、おいくらくらいなんですか?」
長岡「一概には言いにくいところもありますが、ペットのための飼育費用ほか信託サービスを受けたり、信託監督人の費用も考えると、高額にはなりやすいので、弁護士や行政書士など専門家にしっかり相談することが大事ですね」
確かに。遺言書でも内容が大事だし、不備がないように公正証書にしておくなど二重三重に念を入れていくほうがよかろう。
合わせて読みたい:公正証書遺言は自筆証書遺言より優先する?行政書士が詳細を解説!
将来のペットは遺言書等の作成を行政書士に相談
わが主「わかりました! さっそくおばあちゃんに伝えますわ。わが家も、うちのかわいいジャスティンのために、お金を貯めておかなくちゃ」
なんで最後にジャスティン・ビーバーなのだ? そこは最後まで韓流でいかぬか…とはいえ、多少なりとも吾輩のことを考えてくれているなら悪い気はせぬ。今回も世話をかけたな、長岡とやら。
以上、相続ではペットがどう扱われて、どうすればいいのか、というお話になりました。読者のなかにも、ペットを飼っている人はいるでしょう。
お話ししたように遺言書の作成等で将来できることも増えてきます。
ペットがいつまでも幸せに暮らせるように、正確な知識と的確な判断で、一緒によい相続を迎えましょう。
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