「生前に父がいくつかローンを組んでいたはずだ。どうやったら借金先が分かる?」
「亡兄に関する督促状が見つかった。相続に影響する?」
「遺産相続には債務が含まれると聞いた。相続時の調査方法を教えてほしい。」
被相続人が遺した遺産の中には、「マイナスの財産」も含みます。
つまり借金(債務)も相続することになるため、相続放棄するかどうか判断するためにも、相続の開始後は債務の有無についても調べる必要があるのです。
この記事では遺産相続における債務の調べ方や、そもそも債務にはどのような種類があるのかを、横浜市で相続手続きをサポートしている行政書士がわかりやすく紹介します。
相続時に債務を調査する5つの方法
借金(債務)も相続の対象となりますが、被相続人は生前、家族には債務の存在を隠していることも少なくありません。そのため相続が発生したら、故人に債務があるかどうか確認しなければならないのです。
相続時に債務を調査する方法としては、次の5つが挙げられます。
- 信用情報機関への開示請求
- 郵便物(滞納通知や督促状など)
- 借用書やローンの返済表
- 不動産登記簿
- 返済履歴がある通帳
それぞれ詳しく見ていきましょう。
信用情報機関への開示請求
日本国内に3つある「信用情報機関」に対して開示請求を行うことで、被相続人が遺した債務を調査できます。
機関名と開示できる内容については以下です。
信用情報機関名 | 開示できる借入内容 |
CIC (シー・アイ・シー) | 消費者金融や信販会社など |
JICC (日本信用情報機構) | 消費者金融や一部銀行など |
KSC (全国銀行個人信用情報センター) | 銀行・信用金庫など |
消費者金融などによってはCICとJICC、など複数機関に登録があり、同じ内容が開示されることもあります。
債務をきちんと調査したい場合は3つの信用情報機関すべてに対して、請求を行うことがおすすめです。請求方法は各サイトをご参考ください。
郵便物(滞納通知や督促状など)
被相続人宛に、さまざまな金融機関や保証会社などから、滞納通知や督促状が届いていることがあります。
生前に来ていた通知であっても、未返済となっている可能性があるので、郵便物を探してみることがおすすめです。
借用書やローンの返済表
住宅ローンなどの借入の場合、ローンの返済表が見つかることもあります。
また、借金をする際の借用書が見つかった場合、まだ返済ができていない可能性があるため、こちらも慎重に調査を進めましょう。
不動産登記簿
不動産がある場合、ローンの返済表とあわせて、登記もあわせて確認することがおすすめです。
「抵当権」がついていると、ローン等の債務がある可能性が高いでしょう。
不動産登記事項証明書などを取り寄せ、「権利部(乙区)」を確認すると、金融機関名や保証会社名などが入っていることがあります。
ただしローンを返済し終わっているにも関わらず抵当権が残ったままの時もあるため、不動産登記情報は必ずしも債務の存在を確定するものではありません。
返済履歴がある通帳
被相続人が使用していた預貯金通帳も確認しましょう。預貯金通帳から定期的に金融機関や消費者金融などへの返済らしき履歴がある場合、債務がある可能性があります。
たとえば、住宅ローンなどであっても、返済の場合は通帳には違う機関名が載っていることがありますので、慌てずに調べましょう。
なお、通帳に記載される引き落とし名には注意しなければなりません。
たとえば、住宅ローン会社のARUHIの場合、引き落とし名はARUHIではなくセディナやSMBCの引き落とし名となる場合があります。家賃などでも大家に対して振り込むのではなく、家賃保証会社名などで口座から引き落とされることがあると知っておきましょう。
遺産に含まれる債務の種類
そもそも遺産に含まれる債務の種類にはどのようなものがあるのでしょうか。代表的な債務は次のとおりです。
- ローン
- 奨学金
- リース
- 未払金・買掛金
- 滞納税(公租公課)や滞納家賃
- 知人・友人からの借入
- 損害賠償や保証債務などの債務
それぞれの債務の特徴を紹介します。
ローン
住宅ローンやマイカーローン、フリーローンなど、ローンは債務の中に見つかることが多いものです。
奨学金
学生時代、奨学金を借りていた場合は、奨学金の返済も行っていることがあります。
リース
車やコピー機などの購入の際には、ローンではなくリース、という契約で行っていることがあります。
多額の購入費用をねん出する必要がなため、個人の方もリース契約を使っていることがあります。契約書などを探してみましょう。
未払金・買掛金
個人事業主など事業を営んでいる方(過去に営んでいた方でも)の場合、未払金や売掛金が残っている場合があります。
第三者に支払うべき買掛金も相続財産の対象であり、債務として相続するため覚えておきましょう。
滞納税(公租公課)や滞納家賃
滞納税(公租公課)や、家賃を滞納している場合も、相続の対象です。特に一人暮らしで生活が大変だった方の相続を行う場合、家賃の滞納などはよく見られるケースです。原状回復費なども含めて、大家側に確認することがおすすめです。
知人・友人からの借入
たとえ身近な知人や友人からの借入であっても、借金である以上は相続する必要があります。親族から「生前にお金を貸していたから、返してほしい」と、被相続人の死去後に請求を受けることもあります。
損害賠償や保証債務などの債務
交通事故で加害者になってしまった場合などに発生する損害賠償請求権、保証債務や連帯保証についても債務として相続する必要がありますので、注意してください。
相続財産に含まれない債務
残された相続人にとっては重い負担となる債務ですが、養育費や婚姻費用など、「一身専属する義務」に該当するものは、相続財産に含まれない債務です。
たとえば、離婚の協議中に婚姻費用を分担していた方が亡くなったら、その方の相続人にあたる方は、将来分の婚姻費用請求を受けることはありません。
相続で高額の債務に直面した時の対処法
もしも被相続人が遺した高額の債務に直面してしまったら、一体どうするべきでしょうか。
もし債務を相続したくないとしたら、対処方法は次のいずれかです。
- 相続放棄
- 限定承認
それぞれ詳しく解説します。
相続放棄
相続放棄とは、「プラスの財産」も「マイナスの財産」も一切相続しないことです。
マイナスの財産を相続することがなくなるため、高額の債務が発覚したら、相続放棄を検討する方法が考えられます。
ただし、相続放棄はプラスの財産も含めて放棄するため、被相続人名の住宅や預貯金なども失うこととなります。残された方々への影響が非常に大きい手続きのため、慎重な対応を要するでしょう。
相続放棄は、「自己のための相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に、家庭裁判所に対して申立てをする必要があります。
なお、債務を支払ってしまうと相続放棄ができない可能性があるため注意してください。
被相続人宛の債務を知り、相続の開始後に慌てて返済をしてしまったら単純承認とみなされ、相続放棄ができないおそれがあります。
単純承認とは亡くなった人の財産を相続することです。
合わせて読みたい>>相続放棄ができなくなる行為とは?法定単純承認について行政書士が解説!
知人や友人などに求められると、つい返済をしてしまう可能性がありますが、慌てずに専門家にご相談ください。債務の調査も専門家とともに行い、方針を決めることがおすすめです。
参考 URL 裁判所 相続の放棄の申述
限定承認
利用される場面は多くないものの、限定承認という方法もあります。
限定承認とはプラスの財産を承継する範囲内で、債務も承継する方法です。
事業や住まいを守るために行われることがありますが、手続きが複雑であること、相続放棄とは異なり相続人全員で家庭裁判所に対して申立てする必要があることなど、注意が必要です。
なお、限定承認も「自己のための相続の開始を知ったときから3か月以内」に手続きをする必要があります。
参考URL 裁判所 相続の限定承認の申述
相続時の債務調査も行政書士に依頼できる
借金(債務)も相続財産であるため、相続が発生したときは被相続人(亡くなった方)の債務まで調べなければならないことがお分かりいただけたでしょうか。
債務が見つかっても「抵当権が残っていただけ」というケースもあるため、急いで何かしなければならないなどと慌てる必要はありません。
ただし、単純承認とみなされると相続放棄ができないリスクもあるため、債務調査が終了するまでは慎重に行動する必要があります。
横浜市の長岡行政書士事務所は相続手続きをサポートしており、相続財産の調査も承っております。
プラスの財産はもちろん、マイナスの財産(債務)をどのように調査したらいいのか分からないという方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で対応しています。