遺産分割協議書に署名が出来ない!添え手の有効性と注意点を行政書士が解説!

遺産分割協議書に署名が出来ない!添え手の有効性と注意点を行政書士が解説! 相続トラブル・事例
相続トラブル・事例

遺産分割協議書の要件として自筆での署名、そして押印があります。それは署名と押印が本人が自分の意思で同意したことを示す証拠として機能しているからですが、中には様々な事情により文字を書くのが難しいという人もいると思います。

そういった人が誰かに手を添えてもらって署名をした場合、その筆跡は自分のものというよりも助けてくれた人の筆跡に近くなるかもしれません。自分で書いたというよりも他の人が書いた、と判断されてもおかしくはないように思えます。実際はどうなのでしょう?

今回は遺産分割協議に署名ができない人の法律問題を「物語風」に解説していきます!

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現世から遠く遠く離れた、魔王が支配する異次元世界で、打倒魔王を掲げ旅をする勇者一行。

勇者を筆頭に、男気のある兄貴分的存在の戦士、知性を武器にパーティを支える僧侶、そしてひとりだけなぜか欲望にまみれた老魔法使い、最初は敵ながら勇者に憧れて加わったスライムという面々。

ところが、この勇者、なんと現世で行政書士をして男が、ひょんなことから転生してした姿だった…。

そんなある日、勇者のパーティ一行がイベントボスと戦っている最中のこと。

戦士「ちくしょう、今回の相手は手ごわいぜ! おい、みんな大丈夫か?」

僧侶「こっちは大丈夫。勇者さんが食い止めてくれてるわ!」

戦士「おい、魔法使いのじいさん!チマチマやっててもきりがねえ。強力魔法で仕留めてくれよ!」

魔法使い「ったく、仕方がないのう。この魔法を使うと、しばらく手がしびれてしまうんじゃが…くらえ、火球系最強魔法のメラムラムーラ!」

この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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相続での遺産分割協議の役割

遺産分割協議では、協議した内容を遺産分割協議書にまとめるのが一般的です。

遺産分割協議書には、協議参加者がそれぞれ署名をするもの。でも、高齢などが理由で手が震え、誰かに手を添えてもらわないと字が書けない場合はどうしたらいいでしょうか?実は、添え手による署名も有効になるのです。

文字が書けなくなる場合もある

高齢になって体が悪くなったり、病気のせいで手がやられてしまったり、様々な事情で字を書くのが難しいということは起こります。

僧侶「やったわ! さすがね! 名前がムラムラしててスケベっぽいけど!」

魔法使い「…スケベって言うな」

戦士「それにしても、昨日のボス戦は疲れたぜ。さすがの俺でも腰にきてるもんな」

僧侶「久々にハードだったわね。あれ、おじいちゃん、その手どうしたの?」

戦士「おいじいさん、手がずっと震えっぱなしじゃねえか!」

魔法使い「強力魔法を使うとしばらくこうなるんじゃ…それにしても困ったのぅ」

スライム「スプーンを持てないからですか?」

魔法使い「それもあるけど、実は明日、遺産分割協議があるんじゃよ」

遺産分割協議書に自署という要件はない

遺産分割協議書は、記名と押印がそろっていることで有効性があると判断されます。

自筆で書かなくてはいけないというルールはありませんが、やはり最も確実なのは記名ではなく自筆署名。本人がそれを自分の意思で書いたことがより明らかになるからです。この署名が自分で書けない人が、第三者に手を添えてもらって自筆署名することは、効力的に大丈夫なのでしょうか?

戦士「遺産分割? そうか、じいさん、とうとうくたばっちまうのか」

魔法使い「わしのじゃねえわ! こないだ兄貴が大往生してな。明日親族が集まるんじゃよ。まあ、わしらは仲がいいから、遺産分割協議自体はうまくまとまるじゃろうけど、そのあとが問題じゃ」

僧侶「何が問題なの?」

魔法使い「遺産分割協議書じゃよ」

遺産分割協議書は相続手続に必要

遺産分割協議書は後々の相続手続きを考えると非常に有効なツールです。それによって財産の名義変更などができるため、遺言がないのなら作るのが一般的です。

合わせて読みたい:遺産分割協議書を作成しよう|書き方の様々なパターンを行政書士が紹介!

スライム「なるほど」

魔法使い「誰がどの遺産を受け継ぐのかをまとめた書類のことでな。相続財産の名義変更とか相続税申告、あとは銀行口座を解約するときとかにあったほうがいいんじゃ。な、勇者さん」

僧侶「ふうん。でも、それと手が震えていることにどう関係があるの?」

署名は完全に自筆でなくても有効になり得る

ここからがこのコラムの本題になります。遺産分割協議書の署名は添え手などを使った、いわば完全に自筆でないものでも有効になることがあります。判例の判断も踏まえて解説していきます。

魔法使い「できれば自筆で署名したいんじゃが、誰かに手を添えてもらって書くことができるかどうか…

合わせて読みたい:「自筆遺言証書」で自筆と言えるかの判断について解説|添え手・財産目録・ワープロなど

戦士「なあ、勇者さん。この場合、添え手って大丈夫なのか?」

自筆証書遺言では有効になった判例がある

遺産分割協議書ではありませんが、遺言に関してなら添え手が有効になった事例があります。この考えが遺産分割協議書にも応用される可能性はあります。

僧侶「ふむふむ。勇者さんが言うには、手が不自由であり添え手で署名したとしても、その遺産分割協議書は有効になりえる…か。遺言だけど、添え手で有効になった判例もあるみたい」

合わせて読みたい:自筆証書遺言とは|効力やその他の遺言書との違いを行政書士が解説!


最判昭和62年10月8日 「自書」を要件とする前記のような法の趣旨に照らすと、 病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆 証書遺言は、(1) 遺言者が証書作成時に自書能力を有し、(2) 他人の添え手が、 単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手 を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みに まかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支え を借りただけであり、かつ、(3) 添え手が右のような態様のものにとどまること、 すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である。

魔法使い「それなら一安心じゃのう…じゃあさっそく、酒場のバニーちゃんに添え手を頼もうかのう、ムフフ」

僧侶「汚らわしいわ、気持ち悪いわ、消えてほしいわ」

魔法使い「…ひどくない?」

真に自分の意思で書いているかが重要

先ほど明示した判例にも書いてありますが、添え手がダメというわけではなく、他人の意思が入り込んでしまうことがダメということです。一番大切なのは、本当に本人が自分の意思で行為をしているか、ということになります。

スライム「でも、例えば変身魔法を使えるモンスターが人に化けて、おじいさんの手を勝手に動かしてしまう危険もあるのでは?」

戦士「そうだよな。ほかにも本人の認知症がひどくなっていて自分の意思が何なのかわからない、という状況で、単なる補助として添え手をしたとしても、有効になるのは難しいでしょうしね」

僧侶「勇者さんが言うには、添え手どうこうで安心するのではなく、そもそも無効になる可能性を減らすのが一番なんだって」

無効になりそうな行為は避けるが大事

確かに添え手は有効になる可能性がありますが、それはその時の裁判所の判断であって、無効になる可能性だって残っています。あまり過去の判例に頼りすぎるよりも、無効になりそうな行為自体をしない方がいいのは間違いありません。

スライム「例えば遺言なら公正証書遺言にするとか、そういうことですね」

合わせて読みたい:公正証書遺言の方が優先される?実際の効果と確実性を行政書士が解説!

僧侶「なんにせよ、相続は法的な手続きだから、専門家が一緒にいるのが一番心強いでしょ。なんなら勇者さんに添え手をしてもらったら?」

戦士「そうだな。俺でもいいぞ」

スライム「ボクでもいいですよ」

魔法使い「スライムはそもそも手がないじゃん…」

なるべく確実な方法で相続を実現するには

最強魔法の反動があまりにも大きすぎるおかげで、今回は予想外のことが学べましたね。本当に遺言や遺産分割協議に関しては、ちょっとしたことで無効になってしまうことがありますから、より確実な方法で細心の注意を払いながら行うのがいいと思います。

もし「これで大丈夫かな?」と不安になることがありましたら、いつでも横浜市の長岡行政書士事務所にご連絡ください。

この記事を詳しく読みたい方はこちら:遺産分割協議書には添え手は有効か?過去の判例から考えてみよう

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この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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