死亡退職金は相続財産?相続方法や受取人(受給権者)による注意点を行政書士が解説!

死亡退職金は相続財産になるのか? 行政書士が解説する死亡退職金と相続の関係 相続トラブル・事例
相続トラブル・事例

「亡くなった夫の死亡退職金があったのだけれど、これは遺産になるのか?」

「死亡退職金が相続財産だとしたら、どのように手続きを進めればいいの?

死亡退職金があることで、なにか相続に影響があるのか?」

たとえば一生懸命働いていた夫が死亡して、死亡退職金が出たときに、それを相続財産として処理していいのかがわからないという話を聞きます。

相続だけでもそうそうあることでもないのに、誰か他の人の退職金を受け取ることも非常に珍しいケースです。

なので、戸惑ってしまうことも多いでしょう。

今回は「死亡退職金は相続財産に含まれるか」という観点から、その他にも関連している事項を交えて、お話をしたいと思います。

この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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死亡退職金とは

死亡退職金とは、労働者又は会社役員が死亡した際に、会社が受給権者に対して一定額を支給する制度です。

必ずしも支給されるとは限らず、死亡退職金が発生するか否かは会社の規定(就業規則等)により定められています。

基本的には退職金と同じく、死亡退職金も会社側が任意で設定するものだということです。

しかし、死亡退職金は退職金と違い、受給権者が働いていた当人ではなく、遺族が受け取ることが特徴です。

退職金の法律上の解釈は、賃金の後払い=給料だとされています(他の解釈もあります)。

しかし死亡退職金には少し変わった解釈が存在します。それが次の2つです。

  • 遺族の債権とする考え
  • 賃金の後払い(給料)とする考え

それぞれ詳しく見ていきましょう。

遺族の債権とする考え

死亡退職金の性質上、働いた本人ではなく第三者に給付されます。そのため、労働者と会社との契約によって生まれた債権(お金を請求できる権利)という性格を持つようになります。

たとえば、生命保険などは労働の対価ではなく、単に保険契約によって生まれた金銭等の請求権です。そのため「債権」という感覚に近いでしょう。

実際、生命保険と死亡退職金では多くの共通点が見られます。

合わせて読みたい:生命保険金は相続財産の範囲か?混乱しやすいポイントを行政書士が解説

このため、死亡退職金=遺族の債権と考えることもできるのです。

賃金の後払い(給料)とする考え

こちらは通常の退職金と同じように、死亡退職金も労働の対価として支払われているという解釈です。

この場合だと、死亡退職金も給料として支払われているので、基本的に死亡した労働者の財産ということになります。

死亡退職金=給料だと考えるならばそれは、基本的には死亡退職金=死亡した労働者本人が持っている権利だと考えられます。

つまり死亡退職金も相続財産としてのニュアンスが強くなるということです。

死亡退職金は受取人の固有の財産

ここまで紹介したとおり、死亡退職金が「遺族の債権なのか」「賃金の後払いなのか」によって財産の性質は大きく異なります。

そして結果として、死亡退職金が相続財産かそうでないかに影響するのです。

判例は基本的に、死亡退職金は、それを受け取った人の固有の財産であるとしています。

つまり、受け取った人個人の財産であり、相続の対象にはならないということです。

基本的に相続財産は、遺産の分割が終わるまではまだ誰のものでもありません。

けれども、死亡退職金が固有の財産ならば、遺産分割を待たずして、それは既に受け取る人のものだ、というわけです。

死亡退職金が相続財産となるケース・ならないケース

死亡退職金は原則として受取人の固有財産であるため、相続財産とはなりません。

しかし必ずしもそうなるとは限らず、会社の規定によっては、死亡退職金が相続財産となることもあるのです。

  • 受給権者が特定されている場合:相続財産とならない
  • 受給権者が特定されていない・不明な場合:相続財産となりうる
  • 死亡直前に対象金を受給した場合:相続財産となる

それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。

受給権者が特定されている場合は相続財産とならない

シンプルなケースですが、当事者によって死亡退職金の受給権者が明確に定められている場合は、相続財産ではなく固有の財産として扱われます。

たとえば死亡退職金の受給権者を「労働者の配偶者」と会社規定ではっきりと決めてあるような場合です。

このような場合、その指定された人が死亡退職金を受け取り、それはその人の財産だとみなされます。

つまり、相続財産とはなりません。これが死亡退職金の原則となります。

受給権者が特定されていないとき・不明な場合は相続財産となり得る

受給権者が特定されていないとき・もしくは不明な場合は、死亡退職金が相続財産となりうる可能性もあります。

たとえば、受給権者が単に「相続人」とされていたり、そもそも受給権者が誰かわからないような場合です。

その場合は、遺産と同じように、相続人同士で分割して死亡退職金を受け取る形になります。

固有の財産というのは、あくまでも特定の個人の財産、ということなので、その個人が誰かわからなければ、結局は遺産のような配り方になります。

死亡直前に対象金を受給した場合は相続財産となる

厳密には死亡退職金ではありませんが、次のようなケースもありえます。

たとえば労働者が会社を退職し、退職金の受給権が発生した後すぐに死亡したとします。

すると、通常の退職金とみなされ、労働者がその受給権を持った状態で死亡したことになります。その後、その受給権が相続されたと考えることになります。

この場合、その退職金は遺産分割の対象になります。つまり、相続財産となるのです。

死亡退職金は特別受益の対象となるか?

相続には特別受益という考え方が存在します。

ある特定の相続人に多くの財産が与えられたならば、その分、他の相続人との公平を考慮し、財産を多くもらった相続人が受け取る他の相続財産を減らす、といったものです。

合わせて読みたい:特別受益とは?生前に親から多額の援助を受けた場合は相続に影響するため注意

死亡退職金が相続財産となりうるケースがあるということは、死亡退職金が特別受益の対象となる可能性もあるということです。

死亡退職金が特別受益に該当するか否かは、事例ごとに考える必要があります。

その事例の背景、死亡退職金や遺産の総額などにより、特別受益となるかどうかは決まるのです。

退職金の意図判断の傾向特別受益に該当する可能性
遺族のための死亡退職金遺産ではない低くなる
給料としての死亡退職金遺産としての性質がある高くなる

それぞれのケースごと解説します。

遺族のための死亡退職金は特別受益に該当しにくい

基本的に死亡退職金が遺族の生活を保障するためのものと考えられるならば、特別受益に該当しにくくなります。

しかし実際には例外として、妻と子の両方の生活を保障すべきなのに、妻のみが死亡退職金を受給した場合に、裁判所は特別受益を認める判決を出しています(福島家裁昭和55年9月16日)。

この場合、残りの相続財産については、子が多くをもらい受けることになります。

妻だけでなく子供のためにも死亡退職金が存在する、と裁判所は考えたのです。

遺族の保護が目的だとしても、死亡退職金が特別受益に該当するケースもあることは覚えておきましょう。

給料としての死亡退職金は特別受益に該当しやすい

反対に、死亡退職金が特別受益に該当しやすくなるパターンもあります。

それは最初の方の死亡退職金の解釈でも述べたように、死亡退職金が賃金の後払い的なもの=給料であると考える場合です。

ある判例では、会社の創設者に支払われた死亡退職金につき、その人自身の功績への報酬の意味合いが強いと考えられました。受給権者の固有の財産ではなく、死亡した人の財産だとみなしたのです。

東京地方裁判所平成26年5月22日判決 
本件総会において確認されていると おり,本件退職金等の支給はAの功績に報いるためのものであり,その金額についてもAの勤続年数や創立者としての功績等を考慮して算定されていることからすれば, これが遺産としての性質を有していることも否定できない。

つまり、その人の報酬(給料)のような意味合いで与えた死亡退職金は、遺産としての性格を持つことがある、ということです。

死亡退職金と遺留分の関係

遺留分とは、相続人の保護のために設けられた最低限の相続財産を保障する制度です。

たとえば、遺産をすべて妻に与えるという遺言があったとしても、子は自分の遺留分の範囲内で最低限の相続財産を請求できます。

合わせて読みたい:遺留分とは?具体例や侵害された遺留分請求方法を分かりやすく解説!

仮に遺留分の額に死亡退職金が含まれるならば、もちろん遺留分の金額が変わってしまうことになります。

原則的に、死亡退職金は遺留分に影響しないとされています。

けれども、特別受益のように死亡退職金を相続財産扱いした判例もいくつかあるため、その状況によって変わってしまう可能性はあります。

死亡退職金とみなし相続税の関係

死亡退職金は原則として相続財産ではありませんが、相続税がかかることがあります。(これをみなし相続税といいます)

基本的には以下のように処理されます。

死亡後の期間3年以内3年経過後
税金の種類相続税所得税

死亡退職金に相続税がかかるかどうかは、税理士に相談したほうが安心です。横浜市の長岡行政書士事務所では、提携する税理士を紹介することも可能ですので、お気軽にご相談ください。

死亡退職金が相続財産となるかどうかは個別事例で考える必要がある

死亡退職金を相続においてどう扱うかという問題は、非常に厄介なものです。

なぜなら、死亡退職金はその時々の解釈によってその性質が変わってしまうからです。そして、性質が変わると結果も変わってしまいます。

ですから、死亡退職金が仮にあったのならば、少なくとも以下のことは考える必要があるでしょう。

・会社の規定で定められた受給権者は?

・本当に死亡退職金なのか? ただの退職金ではないのか?

・死亡退職金の意図は何か?

これらのことを考える際に、専門家の意見が必要になることもあると思います。

横浜市の長岡行政書士事務所は、相続手続きの専門家としてさまざまな相続手続きをサポートしてきました。もし相続手続きについて不安・お悩みがある場合は、お気軽にご相談ください。初回相談は無料で対応しています。

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長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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