相続人の中にうつ病の人がいる場合、「遺産分割協議書は通常どおり作成してよいのか」「本人に署名・押印してもらっても有効なのか」と不安に感じる方は少なくありません。
そこで今回は、横浜市で相続手続をサポートしている行政書士として、うつ病の相続人がいる場合の遺産分割協議書の作り方や、本人が署名・押印できるケース、成年後見人が必要になるケース、無効を防ぐための注意点を解説します。
遺産分割協議書の作成でまず知っておくべきこと
うつ病の相続人がいる場合における遺産分割協議書の作成にあたって、まず知っておくべきこととしては、次の3点が挙げられます。
- 遺産分割協議書は相続人全員の合意が必要
- うつ病の相続人を除外して作成した遺産分割協議書は無効
- うつ病だけを理由に遺産分割協議へ参加できないわけではない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
遺産分割協議書は相続人全員の合意が必要
遺産分割協議書は、相続人全員が協議に参加し、内容に合意して作成する必要があります。
これが遺産分割協議の大前提です。
関連記事:遺産分割協議とは|目的や条件・注意点を行政書士が解説!

うつ病の相続人を除外して作成した遺産分割協議書は無効
前述の理由から、たとえ相続人の中にうつ病の人がいても、その人が相続人である以上、勝手に除外することはできません。
たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の合計3人で、そのうち1人がうつ病だったとします。このとき「本人に負担をかけたくない」「話し合いに参加するのは難しそう」と考えて、残りの2人だけで遺産分割協議書を作成することはできません。
後から本人や代理人が「自分は協議に参加していない」と主張すれば、遺産分割協議が無効になったり、相続人同士のトラブルに発展する可能性もあります。
うつ病だけを理由に遺産分割協議へ参加できないわけではない
一方、うつ病だからといって、その人が自動的に遺産分割協議へ参加できなくなるわけではありません。うつ病であっても、判断能力があれば遺産分割協議に参加できます。
うつ病の方が遺産分割協議へ参加できるか判断する基準
それでは、どのような状態であれば、うつ病であっても判断能力があるといえるのでしょうか。
遺産分割協議書の作成時に知っておくべき判断能力の基準について解説します。
遺産分割協議書に署名・押印できるケース
たとえうつ病であっても、次のような状態であれば、本人が協議に参加できる可能性があります。
- 誰が亡くなり、自分が相続人になっているのかわかっている
- 預貯金、不動産、株式などの遺産内容を理解できる
- 誰がどの財産を取得するのか説明を受けて理解できる
- 自分の取得分が多いのか少ないのか判断できる
- 署名・押印すると協議内容に同意したことになるとわかっている
ただし、後から有効性を疑われないよう、本人に十分説明したうえで協議を進めることが大切です。説明の場にほかの相続人だけでなく、必要に応じて専門家に同席してもらうと、後から無効になるリスクを抑えられます。
遺産分割協議書に署名・押印できないケース
うつ病の症状が重く、本人に判断能力がない場合は、本人が協議書に署名・押印しても無効になる可能性があります。たとえば、次のような状態では注意が必要です。
- 説明を受けても内容を理解できない
- 財産の内容や金額を把握できない
- 自分の取得分が有利か不利か分からない
- 家族の説明にうなずくだけで意思を示せない
うつ病の相続人に判断能力がない場合は成年後見人の選任が必要
うつ病の相続人に判断能力がない場合、遺産分割協議にあたって成年後見人や特別代理人の選任が必要です。
成年後見人は、判断能力が不十分な人に代わって、財産管理や契約などの法律行為をする人です。本人の生活や財産を守るために、家庭裁判所が選任します。必ずしも家族が選ばれるとは限らず、本人の財産状況や家族関係によっては弁護士や行政書士などの専門職が選ばれることもあります。
成年後見人が選任されると、うつ病の相続人に代わって遺産分割協議に参加します。協議では本人の法定相続分や今後の生活に必要な資金などを踏まえ、本人に不利益な内容になっていないかを確認します。遺産分割協議書には、成年後見人が代理人として署名・押印します。
また、成年後見人自身も相続人である場合は、本人との間で利益相反が生じるため、別途、特別代理人の選任が必要になります。
利益相反とは、一方の利益が増えると、もう一方の利益が減るような関係のことです。たとえば、父が亡くなり、相続人が母とうつ病の子どもで、母が子どもの成年後見人になっているケースを考えてみます。この場合、母は「自分自身の相続人」としての立場と「子の代理人」としての立場を同時に持つことになります。
たとえば遺産が1,000万円ある場合、母が多く取得すれば、子どもの取り分は少なくなります。反対に子どもの取り分を多くすれば母の取り分は少なくなります。このような状態で母が子どもを代理して遺産分割協議を行うと、子どもの利益が十分に守られているのかわかりません。
そのため、成年後見人と本人が同じ相続の相続人になる場合は、家庭裁判所に申し立て、本人のために特別代理人を選任してもらう必要があるのです。
特別代理人は、利益相反がある特定の手続きについて本人を代理する人です。成年後見人とは違い、特別代理人は本人の日常的な財産管理全般を継続的に行うわけではありません。利益相反がある遺産分割協議についてのみ本人を代理します。
うつ病の相続人がいる遺産分割協議書で無効を防ぐポイント
うつ病の相続人がいる場合、遺産分割協議書を作成するには本人の状態を丁寧に確認しながら進める必要があります。具体的には、次の4つのポイントを押さえておきましょう。
- 代理権がない状態での署名の代筆は避ける
- 本人に不利益な内容になっていないか確認する
- 手続きに必要な書類を事前に把握しておく
- 医師や専門家の意見を聞く
代理権がない状態での署名の代筆は避ける
家族であっても正式な代理権がなければ、本人に代わって遺産分割協議書の署名・押印をできません。
本人が内容を理解し自分で署名・押印できる状態であれば、本人の意思を確認したうえで進めます。判断能力が不十分で本人が協議に参加できない場合は、成年後見人の選任など、正当な代理人を立てる手続きを検討しましょう。
関連記事:遺産分割協議書に署名できないときの対処法|代筆や添え手の有効性を行政書士が解説

本人に不利益な内容になっていないか確認する
遺産分割協議では、うつ病の相続人にとって不利益な内容になっていないかを確認することも重要です。
本人の取得分が極端に少ない場合や、管理が難しい財産だけを取得させる内容になっている場合は、後からトラブルになる可能性があります。
たとえば、本人にはほとんど預貯金を渡さず、管理や売却が難しい不動産だけを取得させるような内容は注意が必要です。本人の今後の生活費や医療費、住まい、支援体制などを踏まえ、現実的に本人の利益が守られる内容になっているかを確認しましょう。
なお、うつ病であっても本人に判断能力がある場合は、遺産分割協議で本人に不利益な内容になったとしても問題はありません。
手続きに必要な書類を事前に把握しておく
遺産分割協議書を作成した後は、預貯金の解約や不動産の相続登記、株式や投資信託の名義変更などの手続きに進みます。うつ病の相続人がいる場合は、通常の相続書類に加えて、成年後見人や特別代理人を選任しているときはその権限を示す書類が必要になります。
一般的に、相続手続きでは遺産分割協議書に加えて次のような書類が求められます。
- 被相続人の戸籍関係書類
- 相続人の戸籍謄本
- 印鑑証明書
- 成年後見登記事項証明書
- 特別代理人選任審判書
必要書類は、金融機関や法務局、証券会社など手続き先によって変わることもあります。協議書を作成してから書類不足に気付くと手続きが止まってしまう可能性があるため、事前に必要書類を確認しておきましょう。
医師や専門家の意見を聞く
うつ病の相続人がいる場合、家族だけで判断能力の有無や手続きの進め方を決めるのは不安が残ります。症状の程度や時期によって状態が変わることもあるため、必要に応じて医師の診断書や意見を確認することも考えられます。
また、遺産分割協議書の有効性や成年後見人・特別代理人の要否については、行政書士や司法書士などに相談することが大切です。相続税が発生する可能性がある場合は、税理士への相談も検討しましょう。
うつ病の相続人がいる場合は判断能力の確認から始めよう
うつ病の相続人がいる場合、遺産分割協議書の作成は慎重に進める必要があります。不安があるならば、早い段階で行政書士などの専門家へ相談しましょう。
専門家へ相談するメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- 遺産分割協議書の無効や相続トラブルを防ぎやすくなる
- 成年後見人や特別代理人が必要か判断してもらえる
- 家庭裁判所への申立てをスムーズに進めやすくなる
成年後見人や特別代理人が必要か判断してもらえる
専門家に相談する大きなメリットは、成年後見人や特別代理人の必要性を判断してもらえることです。
成年後見人や特別代理人の選任が必要かどうかは本人の状態や家族関係によって変わります。専門家に相談すれば、成年後見人で足りるのか、特別代理人の選任まで必要なのかを具体的に確認できます。
家庭裁判所への申立てをスムーズに進めやすくなる
成年後見人や特別代理人の選任が必要な場合は、家庭裁判所への申立てが必要です。申立てには、申立書だけでなく戸籍謄本や住民票、診断書、本人の財産資料、遺産分割協議書案などの書類をそろえなければなりません。
必要書類に不足があると家庭裁判所から追加提出を求められ、手続きに時間がかかることがあります。相続では預貯金の解約や相続登記、相続税申告などの手続きも控えていて、成年後見人の選任に時間がかかると全体の相続手続きが遅れる可能性があります。
行政書士などに相談すれば、どの申立てが必要か、どの書類を準備すべきかを整理しやすくなります。また、必要に応じて弁護士・司法書士など別の専門家を紹介してもらえます。
遺産分割協議書の無効や相続トラブルを防ぎやすくなる
うつ病の相続人がいる遺産分割協議では、「本人が本当に内容を理解していたのか」「無理に署名させられたのではないか」といった点が後から問題になることがあります。相続人同士の関係が悪化していたり、取得分に大きな差があったりする場合、特に注意が必要です。
専門家に相談すれば、遺産分割協議書の内容が本人に不利益になっていないか、署名・押印の進め方に問題がないかを確認できます。本人に判断能力がある場合でも、説明した内容や本人の意思確認の方法を整理しておくことで、トラブルの発生を防げます。
うつ病の相続人がいる場合は判断能力の確認から始めよう
うつ病の相続人がいる場合、遺産分割協議書を作成するうえで大切なのは、病名だけで判断しないことです。まずは本人が遺産の内容や分け方を理解し、自分の意思で判断できる状態にあるかを確認しましょう。
判断能力に不安がある場合は、医師の意見を確認したうえで、行政書士や税理士などの専門家に相談することが大切です。専門家に相談すれば、後見人・特別代理人の要否判断から書類サポートまでまとめて任せられます。
本人の権利を守りながら遺産分割協議書の無効や相続人同士のトラブルを防ぐためにも、状況に応じた対応が求められます。
相続手続きを円滑に進めたい方は、横浜市の長岡行政書士事務所へお気軽にご相談ください。初回相談は無料で承っております。

