個人事業主が亡くなった場合、家族は相続手続きに加えて、事業に関する手続きも進める必要があります。その代表例が、「廃業の手続」です。
この記事では、個人事業主が死亡した場合の廃業届の出し方や、事前に確認しておきたいポイントを解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
個人事業主が死亡した場合は相続人が廃業届の手続きを行う
個人事業主が亡くなった場合、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。一般的に「廃業届」と呼ばれる書類です。
個人事業は、事業主本人に紐づいているため、事業主が死亡すると、故人名義の事業は終了したものとして扱われます。そのため、相続人が税務署に対して、事業を廃止したことを届け出る必要があります。
しかし、廃業届を出せばすべての手続きが終わるわけではありません。事業用の財産や債務も相続に関係するため、口座残高、売掛金、未払い金、借入金、契約関係などを整理する必要があります。
また、家族が事業を引き継ぐ場合でも、故人の廃業手続きと、引き継ぐ人の開業手続きは別に考える必要があります。
個人事業主の死亡後に廃業届を出す前に確認すること
個人事業主が亡くなった場合は、早めに廃業届を提出する必要があります。しかし、届出だけを急ぐと、事業用の財産や契約関係の確認が不十分なまま手続きが進んでしまうことがあるため。注意しなければなりません。
廃業届を出す前に、少なくとも下記の4点は確認しておくのがおすすめです。
- 廃業届を出す前に事業の状況を整理しておく
- 事業用口座や入出金の予定を確認する
- 売掛金・未払金・借入金を整理する
- 許認可をそのまま使えるか確認する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
廃業届を出す前に事業の状況を整理しておく
まず確認したいのは、故人の事業の状況です。
たとえば、店舗を借りていた場合は、賃貸借契約の解約や原状回復が必要になることがあります。従業員がいた場合は、給与や社会保険、雇用保険などの手続きも確認しなければなりません。
また、取引先との契約が残っている場合、納品前の商品や未完了の業務がないかも確認が必要です。事業の実態を把握しないまま廃業届だけを提出すると、取引先や従業員に迷惑をかけてしまう可能性もあるため、注意してください。
事業用口座や入出金の予定を確認する
個人事業主が使っていた事業用口座は、屋号付き口座であっても、基本的には故人本人の財産として扱われます。金融機関が死亡の事実を把握すると、口座は凍結されることが一般的です。
そのため、売上の入金予定、家賃やリース料の引き落とし、クレジットカード決済、税金や社会保険料の支払い、仕入先や外注先への支払いなどが残っていないか確認しておきましょう。
相続人の一人が独断で事業用口座から出金すると、他の相続人とのトラブルにつながる可能性があります。口座の残高や入出金の内容は、相続財産の一部として整理し、相続人間で共有しておくことが大切です。
また、相続人の一人が独断で事業用口座から出金すると、他の相続人とのトラブルにつながる可能性があります。口座の残高や入出金の内容は、相続財産の一部として整理し、相続人間で共有しておくことが大切です。
関連記事:個人事業主の事業用口座を相続する方法|確認事項と手順を行政書士が解説!

売掛金・未払金・借入金を整理する
個人事業主が亡くなった時点で、まだ入金されていない売掛金がある場合、その売掛金も相続財産に含まれます。取引先に対して請求済みのものがあるか、未請求の業務が残っていないかを確認しましょう。
一方で、仕入代金、外注費、家賃、リース料、借入金などの未払い金や債務が残っている場合もあります。これらは相続人が引き継ぐことになる可能性があるため、金額や支払期限を整理しておくことが重要です。
許認可をそのまま使えるか確認する
もし故人の事業を継ぐ場合は、許認可や屋号をそのまま使えるか確認しましょう。
許認可は、事業主本人に対して与えられているものも多く、事業主が死亡したからといって、家族がそのまま使えるとは限りません。承継手続きができる場合もあれば、改めて新規申請が必要になる場合もあります。
関連記事:個人事業主の許認可は相続で引き継げる?必要な確認と注意点を行政書士が解説!

個人事業主が死亡した場合の廃業届の提出手続き
個人事業主が死亡した場合は、相続人が「個人事業の開業・廃業等届出書」を作成し、故人の納税地を管轄する税務署へ提出します。手続概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出書類 | 個人事業の開業・廃業等届出書 |
| 提出者 | 相続人 |
| 記入する事業主情報 | 亡くなった個人事業主の氏名・住所・屋号など |
| 廃業日 | 原則として死亡日 |
| 提出先 | 故人の納税地を管轄する税務署 |
| 提出期限 | 原則として廃業日から1か月以内 |
提出手続の流れを、順に見ていきましょう。
廃業届には故人の情報を記入する
廃業届には、原則として亡くなった個人事業主本人の氏名、住所、納税地、屋号、事業の種類などを記入します。相続人が提出する場合でも、事業主欄には故人の情報を記載する点に注意が必要です。
また、書類の余白や備考欄に、事業主が死亡したため相続人が提出する旨を記載すると、税務署側でも事情を把握しやすくなります。相続人の氏名や連絡先も記載しておくと、確認事項があった場合の連絡がスムーズです。
青色申告をしていた場合や、消費税の課税事業者だった場合は、廃業届以外の書類が必要になることもあります。記入方法に迷う場合は、提出前に税務署へ確認しましょう。
廃業日は原則として死亡日を記入する
個人事業主が死亡した場合、廃業日は原則として死亡日を記入します。個人事業は事業主本人に紐づくため、死亡日をもって故人名義の事業は終了したものと考えられるためです。
死亡後に相続人が取引先への連絡や未払い金の支払いなどを行う場合でも、故人名義の事業をそのまま継続するわけではありません。家族が事業を引き継ぐ場合は、故人の廃業届とは別に、引き継ぐ人の名義で開業届などを提出する必要があります。
故人の納税地を管轄する税務署へ提出する
廃業届の提出先は、故人の納税地を管轄する税務署です。相続人の住所地を管轄する税務署ではない点に注意しましょう。
なお、個人事業の廃業届は、原則として事業を廃止した日から1か月以内に提出します。個人事業主が死亡した場合は、死亡日が廃業日になるのが基本のため、死亡日から1か月以内を目安に提出しましょう。
ちなみに、故人に事業所得などがあり確定申告が必要な場合は、相続人が準確定申告を行います。準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
廃業届と準確定申告は別の手続きです。廃業届を出しただけでは、故人の所得税の申告が完了するわけではないため、あわせて確認しておきましょう。
関連記事:身内が亡くなったらいつまでに納税する?相続税の申告納税期限と準確定申告について税理士が解説

個人事業主の死亡後に家族が事業を引き継ぐ場合の手続き
個人事業主が亡くなった後、家族が事業を続けるケースもあるでしょう。
ただし、個人事業は法人のように、代表者を変更すればそのまま継続できるものではありません。
故人名義の事業はいったん廃業し、引き継ぐ人が自分の名義で新たに事業を始める形になります。そのため、各種届出・契約も、引き継ぐ方が個別に手続きする必要があります。
たとえば青色申告を希望する場合は、青色申告承認申請書の提出も必要です。故人が青色申告をしていたとしても、その承認が自動的に相続人へ引き継がれるわけではありません。
また、故人名義の銀行口座はそのまま使い続けることができません。引き継ぐ人が新たに事業用口座を用意し、取引先へ振込先の変更を案内する必要があります。
店舗や事務所の賃貸借契約、リース契約、仕入先との契約、ホームページや電話番号の契約なども確認が必要です。契約内容によっては、名義変更で対応できる場合もあれば、新たに契約し直す必要がある場合もあります。
繰り返しとなりますが、許認可が必要な事業では、承継の可否を管轄行政機関へ確認しましょう。確認しないまま営業を続けると、無許可営業と判断される可能性があるため注意してください。
個人事業主の死亡後は廃業届だけでなく事業全体の手続き整理が必要
個人事業主が死亡した場合、相続人は税務署へ廃業届を提出する必要があります。ただし、廃業届は事業の廃止を税務署へ知らせる手続きであり、それだけで事業や相続に関する対応がすべて終わるわけではありません。
事業用口座、売掛金、未払い金、借入金、許認可、契約関係、準確定申告の要否なども確認が必要です。家族が事業を引き継ぐ場合は、故人名義ではなく、引き継ぐ人の名義で改めて手続きを進めます。
事業用の財産や債務は相続にも関係するため、対応を誤ると相続人間のトラブルにつながる可能性があります。判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談し、相続手続きと事業の整理を並行して進めましょう。
横浜市の長岡行政書士事務所でも、個人事業主の相続手続をサポートしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

