「なぜ同時死亡を推定する必要があるのですか」
「同じ事故で無くなった場合にだけこの推定は適用されるの」
「親子が事故で一緒に亡くなってしまったのですが、この場合は孫に相続が引き継がれるのでしょうか」
残念ながら、日本は災害の多い国と言われています。
例えば地震ですが、日本の国土は世界の0.25%でしかないのに、マグニチュード6以上の地震発生回数は世界の21%を占めています。
災害以外にも交通事故や火事など、家族が巻き込まれて亡くなってしまうケースが存在します。
本日のコラムでは、一緒に亡くなったと推測する「同時死亡の推定」を解説していきます。
同時死亡の推定とは
「同時死亡の推定」とは、事故や災害などで複数人が同時期に死亡して、その前後がわからない場合に同時に死亡したと推定する制度です。
まずは民法を見てみましょう。
第32条の2
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
規定の通り、この同時死亡の推定とはどっちが先に亡くなったかがわからない時に同時に亡くなったと「推測」する制度です。
実際どのようなケースに当てはまるのか、そしてなぜこの同時死亡の推定が必要なのかを理解するため、例を用いて理解を深めましょう。
夫Aと子Cが車に乗っている際に交通事故に巻き込まれ、救急隊員が到着した際には2人とも亡くなっていたします。
この場合、残された妻Bは家族の遺産をどのように相続するのでしょうか。
なお、夫Aには子Cと妻B以外にも自身の両親DとEがいるとします。
親が先に死亡した後に子も死亡した場合の相続分
救急隊員が駆け付けた時には夫Aも子Cも亡くなっていましたが、もしかしたら夫Aは即死で、子Cは救急隊員が来る直前まで生存していたかもしれません。
夫Aが先に亡くなったとすると、相続する権利が配偶者の妻Bと第一順位である子Cに発生します。
法定相続における順位に関しては下記コラムを参考にしてみてください。
あわせて読みたい①>>>配偶者と子供の法定相続人の割合とその範囲とは?
あわせて読みたい②>>>配偶者と両親が法定相続人になる第二順位を行政書士が解説!
あわせて読みたい③>>>第三順位の兄弟姉妹と配偶者が法定相続人となる場合を行政書士が解説します!
よって夫Aの遺産の二分の一は妻Bが、残り二分の一は子Cが相続します。
そしてその子Cも亡くなったので、子Cの遺産は第二順位の母(Aの妻)Bが相続します。
結果として夫Aと子Cの遺産は全て妻Bが相続する形となります。
ところが、今説明したのはあくまで夫Aが先に亡くなっていた場合です。
子が先に死亡した後に親も死亡した場合の相続分
もしかしたら事故により即死したのは子Cの方で、夫Aは救急隊員が来る直前まで生きていたかもしれません。
子Cが先に亡くなったとすると、その遺産は夫Aが二分の一、妻Bが二分の一を相続します。
そしてすぐ夫Aも亡くなったので、夫Aの遺産は妻が三分の二、夫の両親が残り三分の一(DとEで各六分の一ずつ)を相続することになります。
夫Aと子Cがそれぞれ1,500万円ずつの財産を持っていたとすると、夫Aが先に亡くなった場合は妻Bが全ての3,000万円を相続しますが、子Cが先に亡くなった場合は妻Bは2,250万円しか相続できないことになります。
そしてこのケースではどちらが先に亡くなったのかわからないので、このままだと相続の手続きがストップしてします。
同時死亡の推定の場合の相続分
このような不都合を解決するために同時死亡の推定が設けられました。
夫Aと子Cが同時に死亡したと「推測」すると、夫Aの相続では子Cがいないものとして、子Cの相続では夫Aがいないものとして考えます。
よって夫Aの財産は妻Bに三分の二、両親DEに三分の一が、子Cの財産は妻Bに全額が相続されることになります。
この配分だけ見ると子Cが先に死亡したケースと同じように見えますが、子Cの財産が一旦夫A経由で相続されていない点が異なります。
先ほどと同じく夫Aと子Cがそれぞれ1,500万円の財産を持っていたとすると、妻Bは2,500万円を相続することになります(子Cが先に死亡した場合は2,250万円です)。
同時死亡の「推定」は覆ることもある
このように同時死亡の推定は相続を前に進めるため有効な制度ですが、あくまでも「推測」であることに注意してください。
もし別のタイミングで死亡したということが判明した場合は、この推定は覆ることになります。
例えば交通事故であれば目撃者の証言や救急隊員による記録により、死亡の前後が判明する可能性があります。
また、同時死亡の推定は同じ場所の同じ事故に限定されないので、例えば親が日本で火事でなくなり、子が同日に海外で飛行機事故で亡くなったような場合も同時死亡の推定が適用されますが、こちらも調査が進み死亡の前後が判明すれば推定が覆ることになります。
このように推定が覆ると相続の結果が違ってくるので、多く遺産をもらっていた人は不当利得の受益者となり返還義務を負うことになります。
同時死亡の推定と代襲相続の関係
同時死亡の推定が働いた場合でも、代襲相続が発生します。
先ほどの例で、子Cに配偶者Fと子(孫)Gがいたとします。
夫Aと子Cは同時に死亡したと推定されお互いに相続関係は発生しません。
夫Aの遺産は妻Bに二分の一が渡ることろまでは同じですが、孫Gが子Cの代わりに代襲相続をうけるので第一順位となり、夫Aの残りの遺産の二分の一は第二順位である夫の両親DEでなく孫Gに受け継がれます。
子Cの遺産は配偶者Fと子(孫)Gに半分ずつ、となります。
よって夫Aと子Cが1,500万円ずつ財産をもっていたとしたら、
妻B:750万円 (夫Aの遺産の半分)
子Cの妻F:750万円 (子Cの遺産の半分)
孫G:1,500万円(夫Aの遺産の半分と子Cの遺産の半分)
という結果になります。
代襲相続に関しては下記コラムも参考にしてみてください。
あわせて読みたい>>>代襲相続と養子縁組がある場合の法定相続人の範囲と割合とは?行政書士が解説!
同時死亡も考慮して遺言を作成することも可能
さて、本コラム最後の項目になりますが、遺言を書いていた場合にこのような同時死亡の推定はどう影響してくるのでしょうか。
遺言は故人の最後の意志としてもっとも尊重され、遺産の分割も基本的に遺言の通りになりますが、同時死亡が起きてしまうと遺言が無効になる可能性があります。
例えば夫Aが子Cに「遺産の全てを相続させる」と書いていたとしても、子Cも同時に亡くなったと推定されるので遺言の内容を実行することができず、遺言自体が無効になってしまいます。
このような場合に備えて遺言には「遺言者より前にまたは遺言者と同時に子Cが亡くなった場合には・・・」と予備的な条項を入れておくことができます、
これを「予備的遺言」といいます。
このように、同時死亡も考慮に入れた遺言を書く事で不測の事態に備えることができますが、遺言の作成には経験と専門的な知識が必要です。
あわせて読みたい>>>相続人が同時に死亡した場合の相続はどうなる?同時死亡の推定と代襲相続の関係について解説
同時死亡の推定の相続で迷ったら行政書士に相談ください
今回は同時死亡の推定について分かりやすく解説いたしました。
相続人の死亡の前後で相続の順位が変わってくることから、同時死亡の推定が必要とお話ししました。
また、遺言書作成時でも合わせて同時死亡の推定を予防的に記載することもできます。
これらのことを事前に知ることで皆様の将来の相続に光がさすことができれば幸いです。
長岡行政書士事務所は多くの相続のお手伝いをし、「印鑑一本で負担のない相続手続き」を掲げております。
不安やご不明点がある場合は是非当事務所にご相談ください。