親族で遺産分割について話し合いをするとき、負債(借金)の扱い方について悩む方も多いのではないでしょうか。
負債である債務も相続の対象ではありますが、原則として債務は遺産分割協議の対象にはなりません。しかし、一方で、相続人全員の同意があれば「相続人の間では」遺産分割協議の対象にもできます。
これだけでは誰が借金を相続するか遺産分割協議で決められるのかどうか、よく理解できないという方もいるかもしれません。
今回は、遺産分割協議における債務の取り扱いについて、座談会風に分かりやすく紹介します。借金の相続について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。それではスタートです。
債務の相続に直面しているAさん、Bさん、Cさんにお越しいただきました。借金を相続するとき、どのような点に注意していけばいいか、一緒に考えてみましょう。
債務も相続財産の対象
相続とは、故人が財産として持っていた一切の権利義務が、まとめて相続人に受け継がれるというものです。
土地や建物など、故人が所有していたものから、故人が生前に行っていた契約上の地位までもが対象になります。同時に、借金やローンなどの債務も対象となってきます。
まず原則として、債務も相続財産の対象であることを理解しましょう。
債務は遺産分割協議の対象外
債務も相続財産に含まれます。しかし、債務は遺産分割協議の対象ではありません。
この点を理解しておくことが、スムーズな相続手続きには不可欠です。
A「よろしくお願いします」
B「早速ですが、債務は遺産分割協議の対象外なんですね。知らなかった」
C「ええ。『相続財産のうち誰が何を担うか』ということを決定するのが遺産分割協議でしょ。一切の権利義務が話し合われるんだから、債務も話し合いの対象なんだとばかり思ってましたよ」
A「遺産分割協議の対象ではなく、法定相続分で相続することになりまよね。債権者に対して返済義務を負わなきゃいけない」
マイナスの相続財産(借金・債務)の返済者を遺産分割協議によって決めたとしても、債権者(貸金業者など)には通用しません。
債権者は「遺産分割協議書で債務を相続すると決めた相続人」以外にも返済を求められます。そして債権者から請求された場合には、遺産分割協議で決めた相続人以外も返済に応じる必要があるのです。
そもそも遺産分割協議で借金について話し合ったとしても、それはあくまでも相続人の間で合意した内容に過ぎません。債権者が話し合いに関与するわけではないため、債権者に対しては効力を持たないのです。
相続人の間では債務の遺産分割協議も可能
C「債務は遺産分割協議の対象外といっても、相続人それぞれに金銭的な事情もあるから、なんとか相続人でうまく負担を分担できないかと思うんですよ」
債務であっても、例外的に協議することはできます。
相続人全員の合意がある場合には、相続分とは異なる割合で、債務の負担者または負担割合を決定することができます。
相続人の間では、債務の遺産分割協議も可能ということです。
B「遺産分割協議で、債務を話し合うためには、どんなことに気をつければいいんですかね?」
A「うちの行政書士さんの話だと、この2つには気をつけましょうねと言われてますね」
- 遺産分割協議をする場合、債務引受の効力が発生する
- 債権者の同意がない場合、相続分に応じた弁済が必要
債務引受の効力が発生する
債務の遺産分割協議をする場合、債務引受の効力が発生します。
C「債務引受の効力が発生するというのは、どういう意味なんだろう?」
A「相続人全員の合意があって、債務の遺産分割協議をした場合には、正しくは『遺産分割協議』ではなく『債務引受』が契約として成立したというんですって」
B「債務引受? 契約?」
A「債務者に代わって借金を払うか、債務者と一緒に払うか、いずれにせよそういう取り決めのことですね。で、『みんなで払おう』という相続人全員の意思表示があれば、当事者間(相続人の間)でのひとつの契約として、法的な効力が生まれるそうです」
債権者の同意がないと相続分に応じた弁済が必要になる
C「相続人間で契約として成立したとして、もし債権者側が『そんなのダメだよ』と言い出したらどうなるんですかね?」
A「債権者の合意の有無で、債務引受のありようが変わるらしいです」
債権者の合意があるとき
- 債権者に対しても債務の遺産分割(債務引受)がある
- 遺産分割協議後は債務者として定められた相続人が債務を負担
債権者の合意がないとき
- 債権者に対しては債務の遺産分割協議(債務引受)の効力を主張できない
- 債権者から弁済の請求を受けた場合、各相続人は自己の相続分に応じた債務を弁済する
- 相続人間では遺産分割協議(債務引受)の内容は有効
- 債権者へ弁済をした相続人は、遺産分割協議によって債務を引き継ぐこととなった相続人へ、弁済額を請求できる
債権者の同意がないと相続人の一人として相続分に応じた弁済が必要になるものの、後で遺産分割協議で決まった債務を引き受けた相続人に対して、その弁済額(立替額)を請求できることを覚えておきましょう。
相続される債務の種類
被相続人が亡くなった時までに発生した被相続人の債務の範囲は多岐にわたります。生前の保険料や病院費用、カードの未払いなども該当します。
A「ちょっと調べてみたんですけど、相続される債務には次のような種類があるみたいです」
- 可分債務
- 不可分債務
可分債務
借金など、その性質上、分けることができる債務を「可分債務」といいます。
例として、連帯債務を相続した相続人の債務について、可分債務の扱いを見ていきましょう。
A(被相続人)とBが連帯債務者としてCから1000万円を借りていて、XとYが相続人となった場合で考えてみます。
Bの弁済額は1,000万円で変わりません。
XとYの法定相続分が1/2ずつの場合は、A(被相続人)の連帯債務1,000万円のうち、XとYは500万円ずつCに弁済する義務を承継することになります。
また、本来債務を負っている債務者に代わって債務を履行しなければならない債務のことを保証債務といいます。保証人などが代表例です。
借金など金銭債務に対する保証債務者が亡くなった場合は、その債務は相続人に自動的に承継されます。
なお、本来の債務者が弁済を履行している限り、原則として保証人には何も請求されません。
不可分債務
債務の目的がその性質上分けることができない債務のことを「不可分債務」といいます。
例えば、車、不動産の所有権移転登記に協力する債務などです。
不可分債務は分割はできないため、各相続人の債務を承継する範囲は相続分に応じた割合ではなく、その債務全てとなります。
弁済をした相続人は他の相続人が本来支払う部分を立て替えて支払ったことになるため、各相続人の範囲応じて支払いを求めることもできます。
葬儀費用は債務ではない
相続の対象となる債務は、被相続人の死亡時までに生じた債務のため、葬儀費用は相続の対象にはなりません。
葬儀費用の弁済方法については相続人全員の同意があれば、喪主負担・相続財産負担など、いずれの方法であっても問題はないということです。
債務にまつわる遺産分割協議書の記載例
C「遺産分割協議を行なったとしても後から相続人同士で「認めた」「認めてない」の水掛け論になる可能性もありますよね」
A「そうならないためにも、債務の遺産分協議書の記載例をもらってきましたよ。以下のような文言を加えて協議書を作っておくといいようです」
被相続人の債務のうち次の債務は、相続人〇〇〇〇が負担する。 令和〇年〇月〇日付金銭消費貸借契約に基づく借入金 債権者 〇〇〇〇銀行 残債務金 〇〇万円 ただし、令和〇年〇月〇日現在の残高 返済期限 令和〇年〇月〇日 利息 年〇%
債務があるときの遺産分割協議は行政書士にご相談を
債務の遺産分協議書を作成するとなると、文書作成に慣れていない相続人だけでは不安に感じるかもしれません。
相続人同士で引き受け割合が決まっている場合には、ぜひ相続実務に慣れている行政書士に遺産分割協議書作成を依頼してみてください。
横浜市の長岡行政書士事務所でも、遺産分割協議書の作成に対応しています。初回相談は無料なので、気になることがあればお気軽にご連絡ください。