「遺産分割は禁止できることがあると聞いた。要件を知りたい。」
「遺産分割を禁止する理由はなに?どんなメリットがあるの?」
「相続人間で遺産分割協議を争っているが、遺産分割を禁止して解決する方法はないのか。」
遺産分割協議は、相続人間で被相続人が遺した財産について、相続先や配分などを協議するものです。(関連記事:遺産分割協議とは)できれば円満に進めていきたいものですが「遺産分割の禁止」がなされることがあります。
この記事では、遺産分割が禁止される理由や条件を紹介します。禁止時の注意点もあわせて紹介しますので、ご一読ください。
「遺産分割の禁止」とは
遺産分割は、複数人の相続人がおり、遺言書が無い場合に行われる話し合いです。
実は、この遺産分割については、禁止することも可能とされています。
民法の条文を見てみましょう。
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
民法第908条
相続の開始後5年以内であれば禁止の状態を保つことができます。
遺産分割を禁止できる条件
では、具体的に、遺産分割が禁止されるケースとはどのようなものでしょうか。詳しくは以下の3つです。
- 相続人の中に未成年者がいるケース
- 話し合いをしばらく保留した方が望ましいケース
- 複雑な相続が予想されるケース
相続人の中に未成年者がいるケース
相続人には年齢制限はないため、未成年が相続人となるケースがあります。しかし、未成年は法律行為ができない、と民法で規定されています。(民法第5条)
未成年者が相続人として遺産分割協議に参加する場合、特別代理人を立てる必要があります。この手続きがあると、一般的な相続よりも手続きに時間がかかります。特別代理人を選ぶためには家庭裁判所に申立てを行う必要があるためです。
そこで、あと数年で未成年が成人する場合には、遺産分割を禁止して、保留状態にする方法が考えられます。
詳しくはこちらの記事もご一読ください:未成年がいる場合の遺産相続とは~特別代理人の概要とその選任方法
話し合いをしばらく保留した方が望ましいケース
相続人の関係性が複雑で、すぐに遺産分割協議の開始が難しいケースでは、話し合いをしばらく保留することもあります。海外に住んでいる相続人が多く、すぐの相続手続きが難しいなどの事情もこのケースに該当します。
複雑な相続が予想されるケース
相続開始当初から遺産分割において紛争が予想される場合や、養子縁組や内縁関係との間の子など、相続人同士の関係性が複雑な場合も遺産分割を禁止することがあります。また、高額の財産が多かったり、価値の判定が難しい遺産が多い場合にも遺産分割を禁止した上で、相続手続きの下準備を丁寧に行うケースもあります。
遺産分割を禁止する方法
遺産分割を禁止したい場合には、どのような方法で禁止すれば良いのでしょうか。方法は1つではなく、次の3パターンが存在します。
- 遺言書を使用する
- 相続人間で協議し禁止する
- 家庭裁判所が禁止する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
遺言書を使用する
遺言者は、遺言書の中で遺産分割の禁止を書き遺すことが可能です。遺言書の場合でも、最大5年を超える遺産分割の禁止はできませんが、未成年に配慮した相続をしてほしい場合などで、遺言書による禁止が行われることがあります。
相続人同士で協議し禁止する
相続人の特定や相続財産の調査に時間を要するようなケースでは、相続人全員の合意の下で、遺産分割を禁止することもあります。
また、たとえ遺産分割を禁止したとしても、再び相続人全員で協議を行い遺産分割が成立できれば、その遺産分割は有効になります。
家庭裁判所が禁止する
遺産分割調停で激しく争っていたり、即座に遺産分割協議を行うことが相続人に大きな不利益となるケースでは、家庭裁判所が遺産分割を禁止することも可能です。
遺産分割を禁止する際の注意点
遺産分割協議がさまざまな理由でトラブルの温床となるようなケースでは、無理に協議を進めるのではなく冷却期間を置くためにも、遺産分割の禁止をすることも検討できるでしょう。
しかし、遺産分割を禁止する際には、押さえておきたい注意点もあります。詳しくは以下です。
- 相続税申告は延期できない
- 遺産分割が進まず長期化する可能性がある
- 財産の取得ができない
それぞれ詳しく解説します。
相続税申告は延期できない
相続税申告は相続財産の種類や評価を特定した上で、正しく相続税を試算して行う必要があります。
関連記事:相続税申告はどうすればいい?手続き方法や期限・税率を解説!【税理士監修】
しかし、相続税の申告は、たとえ遺産分割が禁止されていても延期することはできません。法定相続分を相続した、と仮定して相続税を算出し、申告を行う必要があります。
遺産分割を禁止していると、どのように相続税を申告すればいいのかわからず、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」という期限を守れない可能性があります。
そのため遺産分割が禁止されているときでも、まずは財産を把握し、相続税申告が必要かどうか調べることは忘れないようにしましょう。相続税について分からないことがある場合は、税理士へ相談するようにしてください。
(横浜市周辺の方であれば、長岡行政書士事務所が提携している税理士事務所を紹介することも可能です。お気軽にご相談ください)
■遺産分割ができていないまま相続税申告を行う場合の注意点
遺産分割協議が終わらないまま相続税申告を行うと、配偶者控除や小規模宅地の特例など、相続税申告時にメリットのある控除や特例が受けられません。
ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を仮申告時に提出し、遺産分割完了後の翌日から4か月以内に修正申告もしくは更生の請求をすることで受けたい対象となる特例が認められます。遺産分割の禁止時の相続税申告は、税理士と相談してから対応することをおすすめします。
遺産分割が進まず長期化する可能性がある
遺産分割の禁止を検討する場合、遺産分割協議の難航が予想されるケースもあるでしょう。一旦冷却期間を置いても、思うように遺産分割協議の再開につながらず、問題が長期化するおそれがあります。
硬直化している間に相続人が死亡してしまうと、さらに相続が複雑化するため、禁止の状態に入っても、遺産分割協議の再開に向けて準備を進める必要があるでしょう。
財産の取得ができない
遺産分割の禁止の状態が続いているということは、財産を相続人が取得できていない状態です。預貯金や株式も、特定の人に帰属させられない状態です。使いたい財産があっても、無断で使うことはできません。
また、不動産の中に空き家がある場合、管理責任は相続人全員で共有している状態にあり、適切に対応する必要があります。相続人の誰かが無断で管理してしまうと、その他の相続人に許可を得ずに立ち入ったことになってしまいます。
無用なトラブルを防ぐためにも、空き家の管理責任については遺産分割が禁止されていても、しっかりと話し合っておく必要があるでしょう。
遺産分割の禁止を避けるコツとは
遺産分割の禁止はやむを得ない事情がある場合に活用されるものであり、相続税申告やトラブルの長期化の視点から見ると、できれば回避したいものです。
では、遺産分割の禁止を避けるコツとは、どのようなものでしょうか。
生前から家族が話し合いをしておく
未成年者が相続人となることが予想される場合や、相続財産・相続人の調査が難航する可能性がある場合は、相続の開始後どのように手続きを進めていくのか、生前の段階から家族で話し合いをしておくことがおすすめです。
特に相続財産が多い場合には、相続税計算や申告にも大きな影響を与えますので、話し合いを重ねておくことが理想でしょう。
複雑な相続には遺言書の準備をする
実子と養子がおり、複雑な相続が予想される場合や、相続財産の評価に時間がかかりそうなケースなら、遺言者がきちんと生前の段階から、相続手続きを整備しておくためにも遺言書を準備しておくことがおすすめです。
また、あえて遺言書で遺産分割を禁止したい場合は、付言事項にその趣旨を添えて多くと、相続人も慌てずに対応ができるでしょう。(関連記事:遺言書の「付言事項」とは)
横浜市の長岡行政書士事務所では、遺言書の作成もサポートしています。これまでに100人以上の方々の遺言書作成をお手伝いしてきましたので、ぜひお気軽にご相談ください。
そもそも遺産分割を禁止すべきなのかどうかを含め、ご相談者様に最適な選択肢をご提案いたします。
こちらの記事もご一読ください:遺言書とは~効力と種類について行政書士が詳しく解説!
遺産分割を禁止する遺言書を作成したい場合も行政書士に相談できる
この記事では、遺産分割の禁止について、禁止できる主な理由や注意点を中心に詳しく解説を行いました。
遺産分割が禁止されるケースとしては次の3つが挙げられます。
- 相続人の中に未成年者がいるケース
- 話し合いをしばらく保留した方が望ましいケース
- 複雑な相続が予想されるケース
このような場合、遺産分割協議の禁止で保留状態に留めることはできますが、相続税申告が複雑化するなどのデメリットもあるため注意しましょう。
もし遺産分割を禁止する遺言書を作成したい場合には、横浜市の長岡行政書士事務所へご相談ください。また、すでに遺産分割が禁止されており、今後どのように相続手続きを進めていくべきか分からない場合も、まずはご相談ください。初回相談は無料で対応しています。