成年後見制度の改正案のポイント|利用しやすい制度に変わる背景と見直しのポイント

相続手続の基礎

現行制度の課題を解消すべく、2026年7月現在、成年後見制度の見直しが進められています。改正案では、本人に必要な支援を必要な範囲や期間に限って利用しやすくする方向が検討されていることが特徴です。

そこで本記事では、成年後見制度の改正案が検討されている背景や見直しの主なポイント、そして相続への影響について、横浜市で相続手続をサポートしている行政書士が解説します。

この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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現行の成年後見制度の仕組み

成年後見制度の改正案を理解するには、まず現行制度の仕組みを押さえておく必要があります。ポイントは下記の2点です。

  • 判断能力が不十分な人を支援する制度であること
  • 「後見・保佐・補助」の3つに分かれていること

それぞれ詳しく見ていきましょう。

判断能力が不十分な人を支援する制度である

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などで物事を判断する力が十分でない人を法的に支援する制度です。

たとえば、本人だけでは契約や財産管理が難しい場合には、家庭裁判所が選んだ成年後見人などが本人を支えます。

また、相続人となったものの、遺産の分け方が自身にとって有利か不利かを判断することが難しいような場合には、成年後見人が本人に代わり、遺産分割協議へ参加します。

「後見・保佐・補助」の3つに分かれている

現行制度は、本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つに分かれています。どの類型を利用するかによって支援する人の呼び方や権限の範囲が異なります。

後見は、本人が日常的な買い物などはできても法律上の判断や財産管理を自分で行うことが難しい場合に利用されます。成年後見人には、本人の財産を管理したり、契約を代理したりする比較的広い権限が与えられます。

保佐は、判断能力が著しく不十分な人を支援する制度です。本人が重要な財産上の行為をする際に、保佐人の同意が必要になる場合があります。本人が不利益な契約をしてしまった場合には、取り消しができることもあります。

補助は、判断能力が不十分ではあるものの、本人がある程度自分で判断できる場合に利用されます。本人に必要な範囲に限って、補助人に同意権や代理権を与える仕組みです。

成年後見制度の改正案で重要になる変更点

それでは、2026年現在、議論が進んでいる改正案では、現行制度から何が変わるのでしょうか。大きく変わる可能性のあるポイントを3つ解説します。

  • 必要がなくなれば制度を終了できる方向へ見直される
  • 本人に必要な範囲だけ権限を与える仕組みが検討されている
  • 後見人を途中で変更しやすくなる可能性がある

必要がなくなれば制度を終了できる方向へ見直される

現在の成年後見制度では、後見が開始されると、本人の判断能力が十分に回復しない限り、基本的に制度を終了できません。実際には、判断能力が大きく回復するケースは限られるため、一度利用を始めると、本人が亡くなるまで後見人の関与が続くこともあります。

たとえば、遺産分割協議や不動産の売却など特定の手続きを進めるために成年後見制度が必要になることがあります。しかし、その手続きが終わった後も制度を終了できないため、親族が後見人になっている場合は事務負担が続き、専門職後見人や後見監督人が選ばれている場合は報酬の負担も継続します。

このような仕組みに対して、本人や家族からは「一時的に使いたいだけなのに、その後も続いてしまう」「制度が重く、利用を決断しにくい」といった声がありました。

改正案では、本人の判断能力が十分に戻っていない場合でも、家庭裁判所が「これ以上制度を利用し続ける必要はない」と判断すれば、制度を終了できる仕組みが検討されています。

もちろん、成年後見制度は本人の権利や生活を守るための制度であり、安易に終了できるものではありません。ただ、これまでのように一度始めたら続けるしかない制度ではなく、本人の状況に応じて終了を検討できる余地が生まれる点は、大きな変更点といえるでしょう。

本人に必要な範囲だけ権限を与える仕組みが検討されている

特に後見の場合、成年後見人に広い代理権が与えられます。本人を保護するためには必要な面がある一方、本人が自分でできることまで制限されやすく、自己決定の機会を奪ってしまうのではないかという問題が指摘されてきました。

改正案では、これまでの後見・保佐・補助という3つの区分を抜本的に見直し、補助の仕組みを中心に据えた制度へ変えていく方向が検討されています。つまり、本人の状態や生活状況に合わせて「どの場面で、どの範囲の支援が必要なのか」を具体的に決める仕組みへ変えていく考え方です。

これは本人への支援を弱めるわけではなく、むしろ本人に残っている判断能力や希望をできる限り尊重しながら必要な部分だけを支える制度に近づけるものです。

従来は後見相当と判断されていた人についても、新制度では補助の枠組みの中で必要な権限を個別に設計していくことになります。本人の自由をできるだけ保ちながら、必要な保護を受けられる仕組みを目指している点が重要です。

後見人を途中で変更しやすくなる可能性がある

現行制度では、いったん選ばれた後見人を途中で変更することは簡単ではありません。後見人が辞任するには、病気や高齢などの正当な理由が必要です。また、家庭裁判所が後見人を解任するのは、不正行為や著しい不適任など重い事情がある場合に限られてきました。

そのため、後見人の対応に不満があっても、明確な不正や重大な問題がない限り交代が認められにくいのが実情でした。たとえば、説明が不十分、対応が遅い、本人や家族との関係が悪い、支援方針が合わないといった事情があっても、それだけで後見人を交代させるのは難しいケースがありました。

また、後見人が解任されると、ほかの後見業務にも影響が及ぶ場合があるため、家庭裁判所としても慎重に判断せざるを得ない面がありました。その結果、本人や家族が強い不満を抱えていても、実質的に交代を求めにくいという問題がありました。

しかし改正案では、辞任や解任に限らず、事情に応じて後見人などを交代しやすくする方向が検討されています。特に注目されるのは、補助人の解任事由として「本人の利益のために特に必要があるとき」という考え方が加えられる点です。

これは補助人に明らかな不正や重大な義務違反がなくても、本人との信頼関係が大きく損なわれている場合や、支援方針の調整が難しくなっている場合などに、家庭裁判所が本人の利益を守るために交代を認められる余地を設けるものです。

今後この仕組みが整えば、本人の状況や支援の必要性に応じて、より適切な人に支援を担ってもらいやすくなる可能性があります。

成年後見制度の改正が終活・相続実務に与える影響

成年後見制度の改正が、終活・相続実務に与える影響としては、下記の3点が挙げられます。

  • 選択肢が広がり、より柔軟に使いやすくなる
  • 家庭裁判所の手続きや監督業務が増える可能性がある
  • 後見制度や家族信託に詳しい専門家の役割がより重要になる

後見制度の選択肢が広がり、より柔軟に使いやすくなる

成年後見制度の見直しによって、制度の使い方に幅が出ることが期待されています。従来のように「後見が始まると広い範囲で長く関与が続く」という仕組みから、本人に必要な支援を、必要な場面に合わせて設計する方向へ変われば、終活・相続の場面で、より実情に合った利用がしやすくなるでしょう。

結果として成年後見制度だけでなく家族信託や任意後見、財産管理契約など、ほかの制度との組み合わせ方も変わってくる可能性があります。

たとえば、従来は「柔軟に財産管理をしたいなら家族信託のほうが使いやすい」と考えられるケースも多くありました。

しかし、成年後見制度が柔軟になれば、必ずしも事前に家族信託を組まなくても、必要になった時点で成年後見制度を利用するという選択肢を取りやすくなるかもしれません。

特に自宅の売却を目的とした家族信託や、認知症による預金凍結への備えとして利用される家族信託は成年後見制度との比較検討がより重要になります。今後は「家族信託を選ぶべきか」「成年後見制度で対応できるのか」を本人の財産状況や家族関係、将来の手続き内容に応じて判断する必要があるでしょう。

家庭裁判所の手続きや監督業務が増える可能性がある

成年後見制度を本人ごとの事情に合わせて利用できるようになれば、制度としては使いやすくなる面がある一方で、家庭裁判所の手続きが複雑になる可能性もあります。

従来よりも支援内容を個別に決める仕組みになれば、家庭裁判所は本人にどのような支援が必要なのか、どの範囲で代理権や同意権を与えるべきなのかをより丁寧に確認しなければなりません。そのため、申立てから後見人などが選ばれるまでの審理に時間がかかる可能性があります。

後見人が選ばれた後の監督業務にも影響が出るでしょう。支援内容が個別化されれば、家庭裁判所はその支援が本人の利益に合っているか、権限の範囲を超えていないかを確認する必要があります。制度が柔軟になるほど家庭裁判所の判断や監督も細かくならざるを得ません。

そのため、新制度の開始直後は、家庭裁判所や関係機関の運用が安定するまで一定の混乱が生じる可能性があります。利用する側も申立てに時間がかかることを見越して、早めに準備を進めることが大切です。

後見制度や家族信託に詳しい専門家の役割がより重要になる

制度が柔軟になるほど、専門家にはより高い実務理解が求められます。従来のように単に成年後見人の選任を申し立てるだけではなく、「本人にどのような支援が必要なのか」「成年後見制度をどの範囲で使うべきか」「家族信託など別の制度のほうが適していないか」といった判断が重要になるためです。

新制度では、本人の判断能力や財産の内容、家族関係、将来予定される手続きなどを踏まえたうえで支援の形を検討する必要があります。たとえば、不動産売却のために制度を使うのか、日常的な財産管理まで支援が必要なのか、相続対策も含めて考えるのかによって、選ぶべき制度や手続きは変わります。

そのため、成年後見制度だけでなく家族信託や任意後見、相続手続きなどにも詳しい専門家の役割が今後さらに大きくなるでしょう。

なお、横浜市の長岡行政書士事務所では終活・相続をサポートしており、『成年後見制度がよくわかる本』という書籍を監修したこともございますので、何かお悩みがある場合はお気軽にお問い合わせください。

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成年後見制度の改正案を踏まえて家族が気を付けたいこと

最後に、成年後見制度の改正案を踏まえて家族が注意しておきたい点を解説します。

改正前に申し立てる場合は現行制度を前提に考える

成年後見制度の改正前に申立てを行う場合は現行制度に基づいて手続きが進みます。

現行制度は利用を始めると想定よりも長く続く場合があります。たとえば、相続人が遺産分割協議に参加するのが難しそうであるがために申立てをする場合は、制度の特徴や負担を理解し、専門家にも相談しながら判断しましょう。

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家族信託や任意後見など他の制度との違いを知っておく

本人の判断能力に不安がある場合に取れる選択肢は成年後見制度のみではありません。状況によっては家族信託や任意後見、財産管理契約など別の制度を検討できる場合があります。

各制度には、利用できる時期や目的、手続きの内容に違いがあります。たとえば、家族信託は、本人に判断能力があるうちに契約を結び、信頼できる家族に財産管理を任せる仕組みです。任意後見も、本人が元気なうちに将来の支援者を決めておく制度です。一方で、すでに判断能力が不十分になっている場合は、法定後見制度を検討することになります。

利用する制度を比較検討する際は「本人と家族の状況に合っているか」という視点で行うことが大切です。

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改正内容が正式に決まるまでは最新情報を確認する

改正案は、今後の法改正や制度設計によって内容が変わる可能性があります。そのため、法務省や家庭裁判所などの公的機関の最新情報を確認しましょう。

合わせて、成年後見制度に詳しい行政書士、弁護士、司法書士などの専門家に相談することで、改正を待つべきか、現行制度で対応すべきかを判断しやすくなります。

成年後見制度の改正案は「必要なときに使いやすい制度」への見直し

成年後見制度の改正案では、本人の状況に応じて制度を終了しやすくすること、必要な範囲だけ支援を受けられる仕組みにすること、後見人などを途中で交代しやすくすることなどが検討されています。

これにより、成年後見制度は「一度使うと長く続く重い制度」から「必要なときに、必要な範囲で利用しやすい制度」へ近づくことが期待されています。

ただし、今後の正式な改正内容や運用の動きについて、常に最新情報を追うのは大変でしょうから、悩みがある場合は専門家へ直接相談することも検討してみてください。もちろん、当事務所でも終活・相続のお問い合わせを歓迎しております。

参考:厚生労働省「成年後見制度の見直し等について」

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