「いらない山林を相続してしまった。いったいどうすればいいんだろう」
「一人暮らしの父がもしも亡くなったら、空き家になってしまう実家の土地や建物は誰が管理する?」
「負動産という言葉を知ったが、具体的にどのようなものを意味するの?」
被相続人が所有していた不動産は、相続財産として相続人が引き継ぐことになります。
しかし山林や空家など、あまり価値のない不動産については、いわゆる「負動産」として重い負担になってしまうことがあります。
売ることも譲ることも難しい不動産(負動産)を相続しそう・相続してしまった場合、一体どうすればよいでしょうか。
今回の記事では負動産の相続について、処分や対策の視点から、相続手続きに詳しい行政書士が詳しく解説します。
負動産とは
本来不動産とは価値があるものですが、近年「負動産」という言葉が広がっていることはご存じでしょうか。
「負動産」とは、売れない、使いにくい土地や建物を意味する言葉です。たとえば、以下のような不動産のことを負動産と呼ぶことがあります。
- 過疎化が進んでおり、買い手が見つからないエリアの空き家
- 欲しい人が少ない山林
- 管理や修繕に多額のコストがかかる建物
- 共有名義で売りにくい
このような不動産は、相続をしても固定資産税や管理の手間などが「重荷」になってしまいます。
しかし、面倒だな…と何もせずに放置してしまうと、さらなる相続が発生してしまい、次世代へと負の連鎖が続く可能性もあるのです。
負動産の中でも、とくに社会問題化しているのが「空き家」です。
空き家は誰も住んでいない状態の建物のため、劣化が早いと言われています。政府広報によると、使用目的の無い空き家はこの20年間で約2倍に達しており、倒壊や景観悪化などのトラブルを引き起こしています。また、空き家は「不法侵入」をされるリスクもあり、盗難や放火などの犯罪が発生する可能性もあるのです。
もし相続後に、保安上問題がある状態で空き家を放置したままにしていると「特定空家」に指定されてしまう可能性があります。特定空家に指定されると、空き家の所在する自治体から助言や指導が行われますが、それでも適切に管理をしないと勧告や命令を経て、50万円以下の過料が処されるおそれがあります。
また、特定空家で勧告を受けると、固定資産税が6倍になる可能性もあるため、早期の対策が重要です。
参考URL 政府広報オンライン 空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!
負動産の相続で発生しやすいトラブル
もしも管理や売却が難しい「負動産」を相続したら、一体どのようなトラブルが起きる可能性があるでしょうか。この章ではよくある5つのトラブルを紹介します。
- 固定資産税が負担となる
- 売却できず管理費用の負担がかかる
- 次の相続に備えて対策が必要となる
- 近隣住民とトラブルになることも
- 解体費用が高い
固定資産税が負担となる
売却ができない不動産であっても、固定資産税は支払う必要があります。固定資産税は3年ごとに評価額の見直しが行われていますが、地域によっては驚くほど高額になることがあります。
また、更地や特定空家は固定資産税が高くなるため、相続人にとって重い負担となるのです。
特に相続時は、相続税も発生する可能性があり、高額の納税に頭を抱える方も少なくありません。
売却できず管理費用の負担がかかる
相続した不動産が建物の場合、管理費用に悩まされることもあります。誰も住んでいない空き家はすぐに傷みます。雑草が増え、害虫の発生源となってしまうことも少なくありません。
管理せずに放置すると近隣住民から苦情を受けることもあるため、空き家であっても定期的に管理をする必要があります。
遠方にお住まいの場合、管理のために通ったり、定期的な清掃・メンテナンスのために外注せざるを得ず、管理費用の負担がかかってしまうトラブルも発生しています。
次の相続に備えて対策が必要となる
売却や管理に困っている不動産に頭を抱えているうちに、再び相続が発生してしまうこともあります。すると、次世代にも負動産を残すことになってしまうのです。
特に共有状態のまま次の相続が発生してしまうと、さらに相続人が増えて共有者が増えてしまいます。共有者が増えると権利関係がさらに複雑となり、売却や賃貸化の話し合いが進まなくなってしまいます。
近隣住民とトラブルになることも
管理できない土地や建物を持っていると、不法投棄が行われることもあります。特に空き家は不法侵入や放火など、犯罪につながるトラブルも多いため、近隣住民から「何とかしてほしい」という苦情につながることがあります。
解体費用が高い
売却できず、管理もできない建物を相続した場合は建物の管理リスクを下げるためにも、まずは解体することがあります。しかし、解体費用は時に高額となるため相続人に重い負担となることも少なくありません。
被相続人が残した財産が不動産だけだった場合、相続人自身が解体費用を負担することもあり、相続によって思わぬ出費を強いられることもあります。
相続した負動産の処分方法
時に相続人に重い負担となる負動産ですが、もしすでに相続してしまっている場合、処分方法はあるでしょうか。この章では扱いにくい不動産について、処分方法を4つの視点から解説します。
- 不動産会社に相談する
- 自治体に相談し、空き家情報を登録する
- マッチングサービスを活用する
- 近隣の方に声をかける
不動産会社に相談する
売れない土地や建物の相続に困ったり、あるいは生前の段階から将来的に処分に困りそうな不動産がある場合には、不動産会社にまずは相談してみましょう。いらない不動産だけを相続放棄することはできないため、できれば生前の段階から処分に向けて不動産売却を探ってみることがおすすめです。
生前に売却してしまえば、相続の発生後に相続登記をする必要もありません。後継者のいない農地や、管理がすでに行き届いていない山林なども、まずは不動産会社に相談し、買い手がいないか探してみましょう。
あわせて読みたい:農地や畑の相続はどんな手続きが必要?必要書類や流れを行政書士が解説!
自治体に相談し、空き家情報を登録する
空き家問題は全国で深刻化しているため、自治体では空き家の買い手と売り手をつなぐ試みを強化しています。いわゆる空き家バンクなどに情報を登録するもので、サービス内容は自治体によって異なりますが、不動産会社では思うような反応がなかった物件も、購入希望者が現れることがあります。
例として、神奈川県真鶴町でも空き家情報について自治体が公開しています。空き家バンクそのものを真鶴町が運営しており、住宅以外に店舗などの登録も可能です。
参考URL 神奈川県真鶴町 真鶴町空き家バンク登録物件情報
マッチングサービスを活用する
不動産の売り手と買い手をつなぐ試みは、民間のサービスにも登場しています。いわゆるマッチングサービスです。0円でも不動産を処分したい方が発信するサイトもあり、解体費用や固定資産税がかかる物件を上手に手放せるようなしくみができあがっています。
近隣の方に声をかける
こちらはちょっと意外な対策法です。いらない土地や建物を抱えている場合、近隣の方々に声をかけてみることもおすすめです。
実際にあったケースでは、古くて処分に困っていた駐車場を、駐車場から遠方に暮らす相続した方が近隣の方々に声をかけたところ、「ちょうど息子の進学で車を買ったので、駐車場を欲しいと思っていた」と購入してくれることがありました。
近隣の方々の中には、空き家バンクや不動産屋の情報掲載を知らない方も多いため、まずは声をかけてみることもおすすめです。
負動産を相続しそうなときの対策
まだ相続してはいないものの、負動産を相続しそうなときの対策としては、次のような選択肢が挙げられます。
- 相続放棄
- 自分以外の相続人に相続してもらう
それぞれの選択肢について見ていきましょう。
相続放棄
相続放棄とは、マイナスの財産(借金など)やプラスの財産(預貯金・不動産など)を含めた一切の財産を「相続しない」とする手続きです。
相続放棄するのであれば、負動産を相続せずにすみます。
ただし負動産以外の預貯金・株式なども相続できないため、活用しづらい選択肢であることは否めません。
また、たとえ相続放棄したとしても、状況によっては遺産を管理しなければならないこともあります。
関連記事:相続放棄後の財産処分の可否とは?遺産の管理義務等も行政書士が解説!
そのため「負動産を相続したくない」ことのみを理由に相続放棄しても、自分が意図したとおりの結果にならない可能性もあります。
自分以外の相続人に相続してもらう
自分にとっては「負動産」だとしても、他の相続人にとっては価値のあるものかもしれません。
管理が難しくなりそうな土地、両親の実家など、自分以外に欲しい相続人がいないか確認してみてください。
相続人以外の親族にも声を掛けておくと、検討してくれる方がいるかもしれません。
負動産の相続に備えた生前対策
相続が始まってしまうと、思うように負動産を処分できず、今後どうすればいいのか悩む方も少なくありません。
そこで、将来相続時に負動産となる可能性がある物件は、生前から対策を進めることがおすすめです。対策方法は以下の3つです。
- 生前から売却・譲渡を検討する
- 土地・建物活用で収益化を目指す
生前から売却を検討する
空き家として放置したり、管理しきれない農地の状態のままにするのではなく、生前から売却に向けて活動を開始しましょう。不動産会社に相談したり、近隣の方に声をかけておくと、思わぬタイミングで売却が成立することがあります。
長期間管理をしないで放置された不動産は、買い手がつきにくくなるため、お手入れができているうちに売却を目指すことがおすすめです。
また、先述したとおり、負動産の近くに住んでいる親戚であれば、引き取ってくれる可能性もあります。推定相続人(将来相続人になる可能性がある方)以外の親族にも、生前から声をかけておくといいでしょう。
土地・建物活用で収益化を目指す
現在は無用に見える土地や建物でも、活用方法を検討することで収益化し、思わぬ収入につながることもあります。民泊に活用する、駐車場として生かすなど、方法はさまざまです。
また、古くなった家屋も賃貸物件として借りたい方もいます。ただ放置するのではなく、使い方をじっくりと検討しましょう。
負動産を含む相続対策も行政書士に相談できる
負動産は日本全国で社会問題となっていますが、自治体も工夫を凝らすなどの対策を強化しており、空き家バンクも活発になっています。もしも負動産を相続したら、慌てずに不動産会社や自治体、近隣の方々になど声をかけてみることがおすすめです。
また、将来的に誰も管理できなくなる不動産をお持ちなら、生前から売却や収益化を目指して活動してみましょう。
かりに相続と合わせて誰かに譲渡することが決まったのであれば、その内容を「遺言書」として遺しておくと安心です。横浜市の長岡行政書士事務所では遺言書作成もサポートしているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。