遺産相続の際に実親子関係が切れる制度はご存知でしょうか。
例えば、親が育児放棄(ネグレクト)をしたときや、親が子にDVをした場合は子供の福祉に影響を与えます。
このような時に親子関係を存続させるのではなく、法律上絶縁できる制度があります。
今回はこの特別養子縁組と将来の相続との関係について「小説風」にお話しいたします。
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吾輩は猫である。
名前はまだな…いや、最近、仲間内から「にゃん吉」などという名前を付けられて、迷惑している。
先日、わが主が、長岡行政書士事務所というところに入りびたり、普通養子縁組のことについて教えてもらっていた。
その帰り、わが主が友達と駅前のデパートのバーゲンセールに立ち寄るというので、吾輩ひとり長岡とやらに遊んでもらって帰っていたら、空き地でにゃあにゃあと声が聞こえるではないか。
見ると、野良猫の子猫がいる。
どうやら親とはぐれてしまったらしく、このままにしてはいけないぞと困っていたら、町の親分格である「にゃん乃介」がやってきた。
にゃん乃介「おい、にゃん吉。困っている子猫を見捨てるなんざ、猫がすたるぜ。お前の子にして育てたらどうだ」
ずいぶんと他人事のように…いや他猫事のように言ってくれるものだ。とはいえ、このままにしておけば、子猫は衰弱することは目に見えている。
それに、一度己の子としてしまえば、実の親はどうなるのか。人間界でいう、特別養子縁組のように、実の親との関係はなくなってしまうのではないか。
にゃん乃介「なんだ、その特別養子縁組というのは?」
やれやれ。長岡とやらからの聞きかじりにはなるが、解説しないと前には進まぬな…。
特別養子縁組では実親子関係が解消される
特別養子縁組は、養子と養親が実の親子関係となるための仕組みです。普通養子縁組とは違い、養子は養親の子となった時点で、実親との親子関係が解消されます。
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特別養子縁組では実親子関係の相続は生じない
吾輩「普通養子縁組では、戸籍上に養子・養女などと表記される。でも特別養子縁組をしたら、長男・長女のように表記されるのだ。つまり実子と変わらぬな。だから実親との親子関係もなくなるというわけだ」
にゃん乃介「人間の世界では、相続というものがあるんだろう? こないだうちのオヤジもそれで忙しくしていたんだ。その点はどうなんだ?」
吾輩「特別養子縁組の場合、実親の死去後に相続人にはなれないのだな。普通養子縁組では、養親・実親どちらの相続人にもなれるのだがね」
にゃん乃介「なかなか複雑なんだな」
特別養子縁組は子の福祉の観点からの制度
吾輩「そうだ。手続きも複雑でな。なぜなら特別養子縁組は福祉の観点から、養親が必要と考えられる場合に行われる養子縁組だからなのだ」
にゃん乃介「福祉の観点な…、つまり、事情がある子たちを迎えると言うわけか。だとすると、裁判所なんかも関わってくるだろう?」
吾輩「さすがだな。わが主もこれくらいのレベルの問答をしてほしいもんだが…」
にゃん乃介「何の話だ?」
特別養子縁組の手続きとは
吾輩「何でもない。そう、家庭裁判所に対して、特別養子適格の確認の申立てと、特別養子縁組の成立の申立てを行わなければならん」
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特別養子縁組で家庭裁判所へ行う手続き
- 特別養子適格の確認の申立て
- 特別養子縁組の成立の申立て
では次の通りみていきましょう。
特別養子適格の確認の申立て
- 申立先は養親となる方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 申立人は養親となる方
- 収入印紙は不要
- 連絡先切手(裁判所によって異なる)が必要
特別養子縁組の成立の申立て
- 申立先は養親となる方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 申立人は養親となる方
- 収入印紙800円と連絡先切手(裁判所によって異なる)が必要
特別養子縁組の相続時の注意点
特別養子縁組は普通養子縁組よりも、厳しい運用が行われています。相続時には血縁者以外に事業や財産を引き継ぎやすくなるなどのメリットがあります。
にゃん乃介「なるほどな、特別養子縁組は「子がおらず、里親などを視野に入れていた方」が子の受け入れを行うことが多いと聞く。親から子へのスムーズな相続ができなければ、困ってしまうものな」
吾輩「そうなのだよ。話が早いな、にゃん乃介は。まあでも注意すべきこともある」
普通養子縁組よりも条件が厳しい
特別養子縁組は、福祉の力を必要とする原則15歳未満の子を受け入れるため、家庭裁判所の審判が必要になる。そのため、非常に手続きが複雑。本当の親子として、長く生活していくことが前提の仕組みなので、相続対策には向いていない。
実親側の相続に影響する
特別養子縁組は、さまざまな事情を持つ子が養親に迎えてもらう仕組みなので、縁組をしたら実親との縁が切れる。養親の相続しかできなくなるので、相続人側に大きな影響がある。
養子であると知るタイミングや離縁に注意が必要
特別養子縁組は夫婦で養子を迎えるしくみであり、親子関係を大切に育んでいく必要がある。養子は自身が養子であることを知らないまま育つことも多く、戸籍上も気付きにくい。しかし、養親の死去と同時に自身が養子であるとわかってしまうことがある。
にゃん乃介「なんだかよう…こうしてみると、この子猫が不憫で仕方ねえぜ。やっぱりお前が養親になるべきだ。特別養子縁組で決まりだ」
吾輩「簡単に言うでない。特別養子縁組の場合は、原則として離縁ができず、やむを得ない事情で離縁する場合は裁判所に離縁審判を申立てしなくてはいけないのだ。吾輩たちが裁判所に行っても、相手にはされぬだろう」
特別養子縁組をした気持ちを遺言に書くことも検討
にゃん乃介「それもそうか。でもよ、養親の死去と同時に自分の出生がわかるなんて、さぞかし驚いちまうだろうな」
吾輩「だからこそ、遺言を書いておくことが大事なのだ。遺言書には付言事項と呼ばれる項目があってな。養親が自分の思いを書き留めることができるんだ」
合わせて読みたい:遺言書の「付言事項」について行政書士が解説!遺言者の想いを込める
にゃん乃介「おうよ。養子として大切に育てたとか、ちゃんと気持ちを書いておけば、「父ちゃん、ありがとう」ってな話になるもんな…ううう、ダメだ、もう涙なしでは語れねえや…」
吾輩「で、問題は元に戻って、この子猫をどうするかだが…ん? 誰か来るぞ?」
母猫「レイチェル! ああ、よかった、こんなところにいたのね…」
吾輩「失礼だが、この子の母親かね?」
母猫「申し訳ありません、少し目を離したすきにトラックの荷台に飛び込んでしまって…私も何日もかけて探しに来たんです…」
にゃん乃介「親が見つかったとなれば、にゃん吉の養親話もなくなるな」
吾輩「吾輩はひとこともなるなどとは言っておらんが?」
母猫「とにかく、ありがとうございました。さあレイチェル、おうちに帰りましょ。パパも待っているからね」
吾輩「レイチェルとやら。おてんばゆえに父君、母君を困らせるでないぞ。わかった…んあ!」
にゃん乃介「ほほう、お礼のほっぺに…いや頬ひげにチューか。ふふふ、かわいい子にチューされてよかったな。照れて真っ赤じゃないか、にゃん吉」
吾輩「う、うるさい! これは…夕陽が赤いだけである!」
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