「相続放棄を予定しているけど、遺されている家財や衣類はどうすればいい?」
「相続放棄をした。残っている故人の家具や家電の処分方法を知りたい。」
「相続放棄をすると、故人のものは全て処分できなくなるって本当?携帯電話の解約もできないの?」
被相続人の財産を相続放棄すると、プラス・マイナスを問わずにすべての財産を放棄することになります。預貯金や有価証券はもちろん、住宅ローンなどの債務も放棄できますが、遺されている家具や家電などの遺品は整理できるのでしょうか。
今回の記事では、相続放棄と遺品整理をテーマに、遺品を扱うときの注意点などを行政書士が詳しく解説します。
相続放棄したあとに遺品整理できること・できないこと
被相続人に債務が多い場合や、生前にお付き合いが乏しかった場合には、財産を相続せずに「相続放棄」を選択する方もいます。
相続放棄をすると、被相続人の相続財産はプラス・マイナスを問わずに放棄する必要があります。
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さて、相続放棄したあとは、原則として被相続人の財産を処分、つまり売ったり持ち帰ったりしてはいけません。
それでは相続放棄後、「遺品整理」はどのように進めればよいのでしょうか。ポイントは次の3つです。
- 金銭的価値のある遺品の処分はできない
- 保存行為は認められている
- 金銭的価値のないものは形見分けもできる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
金銭的価値のある遺品の処分はできない
まず、被相続人の財産を相続放棄する場合、金銭的価値のある遺品の処分はできなくなります。たとえば、預貯金や不動産、株券などの有価証券は処分できなくなるのです。
また、車やデバイス(パソコンやスマートフォン)なども、金銭的価値があると判断できるため、処分・売却はできなくなります。
もしこれらを処分してしまうと「単純承認」とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性もあるため注意してください。
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とくに疑問が多いのが、故人のスマートフォンの扱いでしょう。スマートフォンは新品の本体価格が高額な製品が多く、中古でも売却できるものであり、金銭的価値があると判断できます。
また、スマートフォン契約の解約は単純承認とみなされやすいため、相続放棄をまずは携帯電話の回線会社側に伝える必要があります。
また、相続人の財産から携帯料金を支払い続けてしまうと、これも単純承認とみなされる可能性があります。さらに、相続人への名義変更もできません。携帯料金は未納の状態で解約もせず、携帯会社側に相続放棄予定であることを告げ、相続放棄の完了後にしかるべき手続きを仰ぐことが適切な対処法です。
保存行為は認められている
相続放棄をしたとは言っても、すべての遺品類を処分できなくなるわけではありません。「保存行為」については民法921条1号でも触れられているとおり、単純承認とみなさないため認められています。
民法921条1号
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
保存行為には、次のような行為が含まれています。
- 腐敗しそうなものの処分(冷蔵庫の中身など)
- 建物の修繕対応
- 相続人自身の財産で被相続人の債務を弁済する行為
上記については相続放棄後に、遺品整理として行うことも可能ということです。
金銭的価値のないものは形見分けもできる
相続放棄したとしても、金銭的価値のないようなものは、相続人が持ち帰ったり、相続人間で形見分けをすることは可能です。
たとえば、故人が写っている家族写真は、金銭的価値は無くても家族の中では大きな意味を持つものです。長年愛用していた、傷んでいるマフラーなども形見分けしたいものでしょう。
相続放棄をしても、遺品整理全般ができないわけではないのです。
相続放棄前後の遺品整理で注意したい3つのこと
相続放棄前後に、被相続人にまつわる遺品を整理する場合には、注意したいことが3つあります。この章では、知っておきたい注意点について詳細を解説します。
- 単純承認とみなされる行為はしない
- 滞納家賃や借金を支払わない
- 相続放棄前後も管理義務がある
単純承認とみなされる行為はしない
相続放棄を行う際には、「単純承認」とみなされないように細心の注意を払う必要があります。単純承認とみなされてしまうと、相続放棄が認められなくなってしまうからです。単純承認とみなされやすい行為は以下です。
- 不動産の処分(売却や譲渡)
- 債務を被相続人の財産から弁済する
- 車や換価価値の高い家財の売却や処分
- 被相続人の財産を隠すような行為
なお、一般的な相場の葬祭費用を被相続人の財産から支払うことや、相続人が受取人名後となっている生命保険金の受取は、単純承認にはみなされません。
もし相続放棄の方針が定まっていない場合は、遺品を処分しないほうが無難です。繰り返しとなりますが、相続放棄手続きの前に単純承認とみなされるような行為があると、放棄できなくなります。
たとえば、相続放棄をするかどうかわからない段階で、被相続人の預貯金口座を解約してしまうと、この行為は単純承認となるのです。
また、空き家がボロボロの状態で、近隣から求められて相続放棄前に解体する行為も、単純承認となります。空き家の保全・維持は認められていますが、解体は単純承認となるのです。
債務調査中などの理由で相続放棄の有無が決まらない場合は、決断できるまで遺品の処分は避けましょう。
単純承認は判断が難しいケースが多いため、相続人自身が判断するよりも、法的なアドバイスをもらいながら判断することがおすすめです。
相続人全員が財産を放棄する場合、相続財産清算人の申立てが必要となるケースもあるため、まずは弁護士に相談を検討しましょう。
滞納家賃や借金を支払わない
滞納家賃や借金の督促を受けても、相続放棄をする場合は支払う義務は無くなります。相続放棄をする以上は、相続人が被相続人の債務(滞納税金含む)を弁済する必要はありません。
たとえ滞納している家賃があり、賃貸借契約の解除や退去を求められても、応じてしまうと法定単純承認とみなされる可能性も高いのです。相続放棄前に支払いを強く求められる場合、弁護士にご相談されることがおすすめです。
なお、被相続人が暮らしていた賃貸物件は、相続放棄前後に解約をしても良いのでしょうか。結論から言うと、解約は単純承認とみなされる可能性があるため、慎重に判断する必要があります。
管理組合や大家側から、契約を一方的に解除されることは問題ありませんが、解約に相続人が同意することは避けるべきでしょう。判断が難しい部分ですので、弁護士に相談することがおすすめです。
相続放棄前後も管理義務がある
相続放棄は被相続人の財産を放棄するものですが、「管理義務」は相続人に残されます。管理義務の対象となるのは空き地や空き家などの不動産が多いですが、他人の敷地に放置されてしまった金銭的価値のあるもの(車両やバイクなど)も対象です。
相続放棄前は相続人としての管理義務があり、適切に管理する必要があります。
2023年4月1日の法改正により、相続放棄後は、「現に占有」している時は、次順位の相続人や相続財産清算人が管理できるまで、管理義務を負います。
相続放棄前後の遺品整理は弁護士に相談すると安心
今回の記事では、相続放棄前後の遺品整理について、できることや注意点を中心に詳しく解説を行いました。
金銭的価値がないものや、家族には価値のあるものを形見分けすることはできますが、賃貸契約やスマートフォンの契約など、一見すると何の問題もなさそうな解約が、単純承認とみなされるリスクがあります。
相続放棄前後の遺品整理は、慎重に判断しながら進めましょう。相続放棄や単純承認については弁護士がサポートすることになるため、一度相談してみると安心です。
横浜市の長岡行政書士事務所では安心できる弁護士とも提携しておりますので、このような判断が難しいことを相談したい方はお気軽にご連絡ください。