「子どもがいない叔母さんが遺言書を書いて、甥っ子である私を遺言執行者として指定したらしい。。」
「遺言執行者として、自分は何をするのだろう? 遺言執行者ってそもそも何?」
「遺言執行者を、誰か他の人に任せることはできるのかな?」
遺言執行者とはその名のとおり、遺言書の内容を執行(実現)する人です。なにやら専門的な響きですが、冒頭で触れたとおり子どものいない叔母さん・叔父さんが、甥っ子や姪っ子を指定することもあるなど、思いがけず自分に関係してくるかもしれません。
この記事では遺言執行者の役割や、遺言執行の進め方について、自身も遺言執行者になることがある横浜市の長岡行政書士事務所として解説します。
遺言の執行とは
そもそも「遺言の執行」とは遺言書を確認し、その内容通りに遺産を配分させる作業のことです。
もう少し具体的に、遺言執行がどのようなものなのか、会話形式で見ていきましょう。
鈴木「ど、どうしよう。友達の遺言で、遺言執行者にぼくが指名されてしまったのだけれど。」
どこにでもいる頼りない中年の鈴木は頭を抱えて、考えていました。
鈴木「こうなったら、やっぱり専門家の先生に聞くしか・・・」
そう思いながら横浜市港南区を歩いていると、目の前に長岡行政書士事務所がありました。決心したあと、鈴木は扉をノックしました。・・・ガチャ。扉が開きました。
鈴木「せ、先生、突然すみません。ぼく、友達の遺言で、遺言執行者に選ばれました。あの、遺言の執行って何をするんですか? それに執行者って一体なんなんですか?」
長岡「遺言執行について知りたいのですか? まあ、座ってください。
遺言執行とは基本的には、遺言書を確認し、その内容通りに遺産を分配する作業です。」
鈴木「先生、難しくてよく分からないのですが、、」
長岡「もう少し簡単にいうと、遺言執行とは遺言の内容を実現するためになされる行為です」
鈴木「ジツゲンスルタメニナサレルコーイ・・・」
長岡「たとえば、ご友人の遺言で“私が使っていた車は鈴木さんにあげる”という旨があったとします。けれどそれだけで、車が鈴木さんのものになるわけじゃありません。
自動車の名義変更手続きをご友人から鈴木さんに変えて、ようやく車の名義が鈴木さんに移る。これが遺言の内容を実現するということです」
鈴木「なるほどです。遺言だけで、指定された財産の名義が変わるわけじゃないんですものね」
長岡「そうです。だから遺言執行という手続きが非常に重要なわけです。車をもらえる権利があったとしても、実際にもらえなかったら意味ないじゃないですか。ちゃんと遺言の内容に沿って名義を変更したりして、それを現実に処理しないと、結局遺言の意味がなくなってしまうのです。このように遺言書の内容を実現していくことが遺言執行です。」
遺言執行者とは
長岡「そして遺言の執行をしてほしい、と遺言書で誰かを指名することがあります。これが遺言執行者です」
鈴木「そうだ、ぼく、遺言執行者になってしまったんだ・・・」
長岡「なってしまった、とは。信頼されている、名誉なことではないですか」
鈴木「けれど、遺言執行者って、何をすればいいんですか?」
長岡「遺言執行者は、先ほども執行のところで話したように、遺言の内容を実現する人。現実に名義変更をして、車を鈴木さんのものにしてくれる人です。ちゃんと民法にも規定されています」
民法1012条1項 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する
鈴木「でも遺言執行者って、遺言書を書くときに必ず決めなくちゃいけないんですか?」
長岡「別に遺言書を用意するからといって、絶対に遺言執行者を決める必要はありません。
でも遺言執行者がいなければ、相続人同士で話し合いをして手続きを進めたり、金融機関だと相続人の同意が必要な可能性もあったりと、かなり執行が大変になります。だって、相続人同士の利害や意思が必ず一致するわけではありませんから。
たとえば”横浜銀行の口座はAに相続させる”と遺言書に書かれていても、同じく相続人のBが手続きへの協力を嫌がると、スムーズに手続きを進められないかもしれません。
でも遺言執行者は、預貯金の解約・預貯金の名義変更・株式や証券の解約などを単独で進められるとされています。
遺言執行者の権限で、淡々と手続きを進められますから、安心ですね。」
鈴木「大切な人がなくなったのに、もめながら話し合うなんて、嫌だなあ・・・」
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遺言執行者制度が存在する理由
鈴木「でも、ぼく、遺言執行者なんて、無理ですよ」
長岡「確かに大変かもしれませんが、遺言執行者を選んだご友人はちゃんとした方だったと思います。遺言執行は思ったよりも厄介です。相続人や遺贈を受ける人も、それぞれの思惑があるからです。中立な執行者というのは、その点で、スムーズに遺言を進めるための素晴らしい方法です。きっと信頼されていたのでしょう。誇りに思ってください」
鈴木「そうですか、、遺言執行者が重要なことは分かりました、、じゃあ、ぼくがみんなに車をあげるサンタさんになるんですね!」
長岡「え、いや、遺産は車だけじゃありませんけど・・・(サンタさん?)」
遺言執行の進め方
鈴木「先生、それでは遺言執行の進め方を教えてもらってもいいですか?」
遺言執行者がやるべきことの手順は、次のとおりです。
- 検認(自筆証書遺言の場合)
- 就職通知書・遺言書の写しを送付
- 相続人調査・相続財産調査
- 財産目録の作成・交付
- 遺言事項の執行
- 完了報告
検認(自筆証書遺言の場合)
鈴木「先生、でも、でも、遺言執行者として相続手続きを遺言通りに進めていくとして、その遺言が偽物だったらどうするんですか?」
長岡「偽造ということですか?」
鈴木「いや、そんなことないと思いますけれど、もしもの場合です。ぼくだってさすがにそんなところにまで責任を持てません」
長岡「そうですね。そのような偽造によるトラブルなどを防ぐため、実は遺言書の“検認”というものがあります」
鈴木「ケンニン・・・」
長岡「簡単にいえば、裁判所に遺言書がちゃんと存在しているか、そして本物か、をチェックしてもらう作業です。遺言は重要な法律行為なので、やはりそこには適正な手続きがあります
少し細かい話になりますが、ご友人が作った遺言が、自筆で書いた遺言(自筆証書遺言)や遺言内容を秘密にした遺言(秘密証書遺言)だったりした場合、原則的に、この検認手続きが必要になります」
鈴木「あ、でも確かぼくの友達は、公証役場で遺言を作ってもらったと言っていました」
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長岡「ならきっと、公正証書遺言ですね。実は、公正証書遺言の場合、裁判所の検認手続きが不要になります。だって、もう役所の人間がチェックしているんですから。つまり、遺言執行を最初からスムーズに進めることができるということです」
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鈴木「なるほどです」
長岡「ポイントをまとめておきます」
遺言の種類 | 裁判所による検認 |
自筆証書遺言・秘密証書遺言 | 原則必要 |
公正証書遺言 | 不要 |
長岡「どちらにせよ遺言が存在し、本物であるとわかったら、遺言が執行され、遺産分割や財産の移転が始まります。遺言執行者、つまり鈴木さんが、ここから活躍していきます」
就職通知書・遺言書の写しを送付
平成30年の民法改正によって、遺言執行者は相続人に対して通知する義務を負うようになりました。
つまり相続人に対して、「自分が遺言執行者になりましたよ」と通知するわけです。
民法には、遺言執行者がいつ・誰に・何を、通知するべきかという点について、以下のように定めています。
民法1007条2項 遺言執行者の任務の開始遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
この条文から、通知について、以下のことが読み取れます。
- いつ ⇨ 遺言執行者に就任したときに通知が必要
- 誰に ⇨ 相続人に対して通知が必要
- 何を ⇨ 遺言の内容を通知が必要
遺言の内容については、遺言書のコピーを添付することが一般的です。
また、遺言の内容と併せて、自らが遺言執行者に就任した旨の報告(就職通知書)を送ります。
そもそも相続人に対しての通知が規定されているのは、遺留分を侵害された相続人は、その侵害について請求する権利があるからです。
しかし遺言執行者は、遺留分がない人に対しても通知義務を負っています。そのため遺留分を請求する権利を有しない遺言者の兄弟などの相続人に対しても通知しなければならないことには注意してください。
関連記事:遺言執行者は兄弟などの遺留分がない者に対しても通知義務はあるのか?
相続人調査・相続財産調査
遺言執行者は相続財産目録を作成し、相続人に交付しなければならないとされています。
そのため遺言執行手続きの前に、まずは相続人調査・相続財産調査が必要です。
相続人調査をはじめとする相続手続きでは原則として、次の戸籍謄本が必要となります。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人の現在戸籍
関連記事:なぜ相続手続きでは戸籍謄本が必要?理由や注意点を行政書士が詳しく解説!
また、相続財産と聞くと、現金や株式、不動産のような資産を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし相続における財産は「プラスの財産」「マイナスの財産」の2種類に分けられます。
プラスの財産の例
- 現金・預貯金
- 不動産・借地権
- 骨とう品・貴金属類
- ゴルフ会員権
- 株式・投資信託
- 著作権
マイナスの財産の例
- 借金(消費者金融などからの借入など)
- 住宅ローン・自動車ローン
- クレジットカードで未払いとなっているもの
- 買掛金
- 未払医療費・未払家賃
- 滞納税
- 保証債務
なお、次のような金銭は、一見すると遺産のように思えますが、相続財産ではありません。
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 遺産から発生する収益
- 祭祀財産、葬式費用、香典
これら財産の種類も意識しながら、相続人のすべての財産を調査します。
関連記事:相続財産の調べ方とは?遺産の探し方や注意点を行政書士が解説!
財産目録の作成・交付
被相続人の財産をすべて調べたら、財産目録を作成し、相続人に交付します。
関連記事:相続時に必要な財産目録とは|目的や書き方を行政書士が紹介します!
財産目録には、土地や車などのほか、銀行に預けている預貯金なども記していきます。
そして財産目録は自由に作成・記載できますが、財産の概要だけではなく、詳細を記載しなければなりません。
このとき役立つのが、銀行などが発行してくれる残高証明書です。亡くなった方の残高をわかりやすく明示してくれるので、有効活用していきましょう。
関連記事:相続のための残高証明書とは?財産目録作成の意義も合わせて行政書士が解説!
遺言事項の執行
財産目録の作成後、もしくは目録作成と並行して、遺言内容を実現するための手続きも進めます。
たとえば不動産の遺言執行では、受遺者に登記を移転します。また、預金の遺言執行では、受遺者の意向・各銀行の対応方法にもよりますが、「預金解約→払い戻し→受遺者へ引き渡し」「預金名義を受遺者に変更」のいずれかで対応することが多いです。
他にも記事前半で紹介した、自動車の名義変更なども進めます。
鈴木「そいや、あいつは車だけじゃなくて、家も持っているし、貯金もうらやましいほどあったなあ。ん、これって、これもぼくが名義とかを変更していくわけですよね」
長岡「そういうことになります。けれど、それぞれ手続きが変わるのでご注意を」
鈴木「え」
長岡「たとえば家なら登記の変更をしなければなりません。不動産は登記によって管理されていますから、登記が必須要件になります」
鈴木「登記なんてしたことないなあ、そういえば」
2019年7月1日以降に作成された特定財産承継遺言であれば、遺言の内容によっては遺言執行者が単独で相続登記できます。
特定財産承継遺言とは、「特定の財産を特定の相続人に相続させる内容」の遺言のことです。
合わせて読みたい>>特定財産承継遺言とは?遺贈との違いや作成時の注意点を行政書士が解説
長岡「一方、預貯金の場合は名義変更したり、一旦払い戻したりしてから相続人や受遺者に交付するといった形になります。問題はそれぞれの財産ごとに手続きが違うことなので、それに気をつけるといいでしょう。ここらへんは遺言執行のなかでも非常に大変なところです」
鈴木「なんか頭がパンクしそうです・・・」
長岡「あくまでも一例ですが、話したことをまとめると、
遺産の種類 | 手続き |
不動産(家) | 登記の変更 |
預貯金(債権) | 名義変更または払い戻して再交付 |
という形になります。頑張ってください。
その他の遺言執行にまつわる行為として、「子どもの認知」「相続人の廃除」が挙げられます。
遺言書に「子どもの認知」と「相続人の廃除」に関することを記載する場合は、必ず遺言執行者を選任しなければなりません。
関連記事:遺言による認知とは|遺言で子を認知する時の注意点を行政書士が解説!
関連記事:遺言で相続人を廃除できる?書き方や手続きを行政書士が解説!
完了報告
遺言書に書かれている内容すべてを執行したら、相続人に対して遺言執行の完了を報告します。
遺言に書かれた「相続させる」「遺贈させる」の違いに注意
長岡「パンクしそうなところ申し訳ないですが、まだ遺言執行において気をつけるべきポイントがあります」
鈴木「え、まだあるんですか・・・」
長岡「法律というものの性質上やむを得ないのですが、文言の確認です」
長岡「遺言の文言で遺言の意味合いがかわってしまうので、それも注意した方がいいでしょう。”相続させる”とあったら、それは相続人(妻や子供などの身内)に遺産を受け継いでもらうことになります」
鈴木「でも遺産を与えるのって、相続以外に何かあるんですか?」
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長岡「実は”遺贈する”というのがあります。相続が受け継いでもらうという感じなら、こちらは“あげる”といった感じでしょうか」
鈴木「なぜそんなものがあるのですか?」
長岡「相続は妻や子供などの身内、つまり相続人しかすることができません。けれど、遺贈は、それ以外の人にもすることができます。ご友人は鈴木さんとは家族ではないけれど、遺贈によって鈴木さんに車をあげることができるんです」
鈴木「友達って素敵です!」
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鈴木「けれど些細な言葉の違いで、内容が大きく変わってしまうのですね」
長岡「はい。言葉が違うだけで、行為の性質が変わってしまうのが遺言という法律行為なので、ちょっと遺言を確認するとき、こういう言葉のニュアンスに気をつけたほうがいいでしょう。執行は遺言に沿って行われるのですから」
鈴木「は、はい、気をつけます(もう頭がパンクしそうですが・・・)」
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遺言執行は行政書士に依頼できる
鈴木「えっと、ちょっと細かいことはあれですが、とにかく基本的には、遺言を確認し、その財産や名義を移転させていく、という感じですよね」
長岡「おっしゃるとおりです。けれどそのシンプルな作業に、たくさんの注意点があります。今回話したことをまとめただけでも、遺言執行をするために考えるべきことは次のとおりです。」
- 裁判所による遺言の検認が必要か
- 遺言執行者は定められているか、そして何をするか
- 遺産の種類ごとの適切な手続きは何か
- 遺言書の文言はどんな法律行為に該当するのか
鈴木「た、大変だあ」
長岡「それに、実は遺言執行者の定め方も、結構細かい作業が求められます。それはそうです。法律は権利関係を確かなものにするためにありますから、どうしてもある程度細かな配慮が必要になります」
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鈴木「本当に大変です。うう・・・」
長岡「ですから、もし不安ならば私のような行政書士などの法律専門家に相談してみるのがやはり安心できる近道だと思います。
遺言執行者には、包括的に他の人に業務を委ねる権利”復任権”があるため、たとえば行政書士のような専門家に依頼することも可能ですよ。遺言執行者の職務のうち、なにか個々の行為だけを復任することも可能です」
関連記事:遺言執行者に選任されたけど誰かに代わって欲しい!法改正があった執行者の代理人
横浜市の長岡行政書士事務所では、相続手続きを全般的にサポートしています。もちろん遺言執行者として、遺言執行した経験も数多くあります。もし遺言執行者に任命されたものの、どうしたらいいのか分からず困っているという方は、お気軽にご相談ください。初回相談は無料で対応しています。