「伴侶が亡くなったけど、相手が借りている部屋にそのまま住めるの?」
「親が亡くなったけど、これまで住んでいた部屋の家賃って誰が払うの?」
親や配偶者が亡くなると、その方が契約していたお部屋の「家賃」の扱いが問題になります。
貸している側、借りている側双方で扱いが変わってきそうですね。今回はこの死亡後における「家賃」の扱いについて、相続時の問題を含めて行政書士監修のもと「落語風」のストーリー形式で解説していきます。死亡後の家賃と相続の関係にお悩みの方はぜひ最後までご一読してください。
「部屋を借りる」とは賃貸借契約を結んでいる状態
まず前提として、「部屋を借りる」とは「賃貸借契約」を結んでいる状態です。
契約であるからには、債権・債務が発生することもあります。
この債権・債務については、相続人へ引き継がれることもある、ということを前提に、お話を進めていきましょう。
七兵衛「てえへんだ、てえへんだ! 銀次親分、裏の長屋の熊五郎の野郎がおっ死んじまった!」
銀次「なあにィ! 下手人はどこの野郎よ⁉ この岡っ引きの銀次がひっ捕らえてやらあ!」
七兵衛「それが、下手人はいねえんでさ。なんでも、豆腐の角に頭をぶつけて死んじまったって…」
銀次「…どこの馬鹿が、豆腐なんぞでくたばりやがるよ」
七兵衛「くたばっちまってんだから、しょうがねえや。なんでもね、水気の抜けた豆腐でカッチカチに…」
銀次「…クマの野郎も無念だな…って、おい、あの野郎、こないだ嫁もらったばっかじゃねえか。えっと、たしかお菊さんだったか」
七兵衛「そうそう、それでお菊さんも困っちまってるんでさ。長屋を借りてたのはクマだから、長屋にそのまま住めるのかどうかって」
銀次「そいつは困ったぜ…。そういうのは岡っ引きの相談内容じゃねえからなあ…。おっ、そうだ! こういうときにこそ長岡屋のご主人に聞こうじゃなねえか」
七兵衛「行政書士の長岡屋さんですかい? そんじゃひとっ走りいってきやす!」
銀次「おう、長岡屋さんもお菊さんも、よく揃ってくれたな。お菊さん、俺たちがついてっから安心しなよ」
お菊「親分さんも七兵衛さんも、長岡屋のご主人も…ありがとうございます…よよよ」
銀次「でよ、長岡屋さん。早速だが家賃のことでな」
長岡屋「ええ、道すがら七兵衛さんにあらましは聞きましたよ。まずは家賃というものがどんなものかから説明をしましょうね。家賃というのは、まず2つの眼で見なくちゃいけません」
銀次「俺っちもいつも、この2つの目で見てるぜ。何が違うんだい?」
七兵衛「親分…両目のことじゃなくて、見方ってことじゃねえんですかい?」
長岡屋「そうです。大家さんの視点では、家賃は賃貸借契約を結び、自分の不動産を相手に使用させてあげて、その対価として受け取っているお金ですよね。つまり家賃は当事者間の契約により生じたものであって、財産の分類としては、債権なんです」
銀次「おう。そんなもん、そこいらの小僧どもでもわかるぜ」
長岡屋「借りた側からすると、他人の不動産を使用させてもらえて、その対価として契約上支払う必要がある。これは債務ということになりますね。」
銀次「おう。そんなもん、そこいらの七兵衛どもでもわかるぜ」
七兵衛「あっしは、ひとりだけですよ」
ここまでの話をまとめてみましょう。
賃貸人(オーナー):家賃をもらう権利がある(債権)
賃借人(借りている人):家賃を払う義務がある(債務)
つまり、たとえば親・配偶者が賃借人として部屋を借りていた場合、その人には家賃を払う義務がある、ということです。
賃借人としての立場も相続される
親・配偶者が賃借人として部屋を借りていた場合、その人には家賃を払う義務があります。
この賃借人としての立場も、債務の一つとして相続人に相続されるのです。
銀次「賃借人としての立場も相続されるってことは…どうなんでえ?」
七兵衛「賃借人、つまりお菊さんの立場からすると、クマさんが死んじまっても賃借人の地位は受け継がれて、賃貸借契約は借主の死亡によっては終了しないってことじゃないんですかい?」
長岡屋「すごいですね、七兵衛さん。その通りですよ」
銀次「おい七兵衛、調子にのるんじゃねえぞ!」
七兵衛「へへへ、親分がやきもち焼いてらあ」
長岡屋「契約者本人が亡くなったからといって、その家族は出て行ってほしい、というのはやはり人の道に外れるってものですよね」
銀次「おうよ、そんなふてえ野郎は、この銀次がぎゃふんと言わせてやらあ」
家賃の支払い義務は相続人全員に生じる
長岡屋「ですので、相続時に賃借権も共有される…つまり、お菊さんは家賃さえ支払えば、今も長屋に住めるんですよ」
銀次「よかったなあ、お菊さん。これで一件落着だ」
長岡屋「でも逆を言えば、つまり大屋さんからすると、各相続人に家賃の支払いを請求でき、請求を受けた者はその家賃の全額を支払わなければいけませんから、お菊さんは経済的に自立しないといけないんですよね。そこが心配です」
お菊「あたい、なんでもやります。いつまでもへこたれてちゃ、お空の上であの人が心配しちゃいますから…ねえ、親分さん。あたいを使ってくださいな」
銀次「なんだよ、頼もしいじゃねえか! ようし、そんなら俺っちがしっかり鍛えてやるぜ! おう、七兵衛、おめえはお役御免だ」
七兵衛「えーっ、なんでですかい! 親分がいちばんふてえ野郎だったよ…」
なお、相続において、家賃は債務となるため、相続人全員に支払い義務が生じ、大家さんから請求されたら拒めないことには注意してください。
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本人死亡後の家賃と相続の問題は行政書士にご相談ください
部屋を借りている人の立場からすると、家賃は支払う義務があるもの、つまり「債務」に該当します。
そして相続が発生すると、賃借人としての立場は相続人に引き継がれ、さらに家賃債務も相続人全員に支払い義務が生じます。
この債務も相続の対象とはなりますが、原則として債務は遺産分割協議の対象とはなりません。つまり、相続人の一人が大家さんから家賃を請求されたら、それは拒めないのです。
ただし、相続人の間では、遺産分割協議によって債務を引き継ぐこととなった相続人に対し、自らが支払った(弁済した)金額を請求することができます。
つまり親や配偶者が亡くなったら家賃はどうなるのか、という質問についての答えは、次のとおりです。
- 相続人として家賃を支払う必要がある(相続人として住み続けることも可能)
- 大家さんから家賃を請求されたら、他に相続人がいるとしても、支払いを拒否できない
- ただし遺産分割協議で家賃を負担する人が決まっていたら、その人に自分が支払った額を請求できる
プラスの財産を相続することと比べると、複雑であることは否めません。もしぜひ、相続と家賃の問題でお困りのことがありましたら、横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。どのように相続手続を進めるべきか、さらには遺産分割協議書の作成までサポートいたします。