「相続した財産に欠陥が見つかったら? 誰が責任を取るの?」
「相続人に担保責任はあるの?」
「遺言書で担保責任を定めることはできるのだろうか」
実は相続人にも担保責任があることをご存知でしょうか。
この記事では相続・遺贈における担保責任や、遺言書でのの軽減・免除について行政書士が解説します。
担保責任とは
それではさっそく聞きなれない言葉がでてきたと思いましたので、「担保責任」とは一体なにかをまずは説明します。
担保責任とは一言でいえば、財産に欠陥がある場合の責任のことです。
仮にお金を払って何かものを買ったり、あるいはサービスをしてもらったりしたのに、それに欠陥があって全然意味がない、という場合に問題となるのが担保責任です。
つまり、受け取ったものに欠陥があったら誰がどんな責任を負うの、という責任です。
実は2020年より民法において瑕疵担保責任は契約不適合責任という名称に変わっています。
確かに担保責任というよりも、契約が不適合だったらどうするの、というのが字面でわかる契約不適合責任の方がわかりやすいかもしれません。
欠陥があった場合の責任の取り方は、契約内容に適合するようにもう一度仕事をしてもらったり、契約解除することができたり、損害賠償を請求できたり、さまざまです。
ここでは、「自分がしたことに何か落ち度があれば、それに対して責任を負うことを民法が定めている」ということだけ意識していただけたらと思います。
相続人の間で担保責任が生じることがある
そのような担保責任ですが、それが相続ではどう扱われるのでしょうか。
相続においてこの担保責任が問題になるのは、契約上非常に特殊なケースだからです。まず目的物を誰かに遺した本人がもういません。
その結果、相続人間で担保責任が生じることになります。
民法にはこう定められています。
民法911条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
例えば、相続人の誰かの受け取った家が実はその後、品質に問題のあるものだと発覚したとします(例、台風になった途端、雨漏りすることが判明する等)。
そして相続したその人だけが修理代金を払わないといけないとしたら、相続の時にはまったく想定していなかった事由によって、その人だけ損をしていることになります。非常に運が悪いことですね。
こういった際に、他の相続人に対し「あなたたちも相続人だったのだから修理代を払ってくれよ」ということを主張できるという内容です。
他にも相続における担保責任の具体例としては、次のようなものがあります。
- 相続した土地・建物に他人の権利が付いていた
- 相続した土地の坪数が、財産目録に記載されているより狭かった
- 相続した建物の評価額が、財産目録に記載されているものと大きく異なった
相続人に担保責任を請求するときの条件
相続人に担保責任を請求するときの条件としては、次の2つを知っておきましょう。
- 相続分に応じて請求できる
- 請求期間は財産の欠陥を見つけた時から一年以内
担保責任は相続分に応じて請求できる
担保責任は相続分に応じて請求できます。
例えば、夫の遺産が5000万で、妻が3000万、ひとり息子が2000万相続したとします。母と子で3:2の割合となっています。
そして妻が相続した家に欠陥が見つかり500万の修理代がかかったら、そのうちの200万分を子に請求できるという考え方です。
請求期間は財産の欠陥を見つけた時から一年以内
相続における担保責任の請求期間は、財産の欠陥を見つけた時から一年以内です。
もし隠れた欠陥が見つかったらなるべく早く請求する必要があります。見つけたのに放置していたら、請求できる期間が過ぎてしまいます。
相続財産の担保責任の軽減・免除は遺言で定めることも可能
さきほどまで説明していたのは、遺言に何の定めもなかった場合の担保責任です。実はこの担保責任は遺言で指定することができます。
例えば先ほどの例で、200万の修理代を請求された子がまだ学生でお金がなかったとします。
そういった場合に、さすがに子供にそこまで責任をもたせるのは大変だから「何か遺産に問題があっても、あの子にお金を支払ってもらうのはさすがに可哀相だ」と、遺言書によって相続人の担保責任を免除することができます。
なお、たとえ故人が生前にどれほど相続人に「担保責任を子供に追求しないでね」などと言っていたとしても、相続人間の担保責任は遺言以外で変えることはできません。
相続に関わることですから、担保責任をどうするかの意思表示は遺言に委ねられるのです。
合わせて読みたい:遺言書には何を記載する?|入れた方が良い事項を行政書士が紹介!
遺贈にも担保責任はある
遺贈とは、遺言書に書くことによって相続人以外の人に財産をあげることです。
その財産に何か欠陥があったら、担保責任はどうなるのでしょうか。
遺贈の場合にも担保責任があります。再度民法を見てみましょう。
民法998条 遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
こちらでも、遺言によって責任の範囲を変更ができるとも書いてありますね。
この遺贈は、贈与と似た性質を持っています。贈与は無償で財産をあげる行為ですから、目的物の品質にそこまで厳しく責任を持てというのはなかなか大変な話でしょう。
その場合、「これ、あげるよ」と言ったその時の状態で渡せば問題がありません。
遺贈の場合は、故人が死んで遺言通りに相続が始まった時、の状態となります。そのときの品質で渡せばいいので、逆に言えばそれ以前にあった欠陥については問題になりません。
では担保責任が問題になるのは具体的にはどんなときなのでしょう。
たとえば、相続開始後に遺贈する予定だったものが損傷してしまう、といったような場合になります。
そしてその際に責任を負うのは相続人全員です。遺贈するはずのものを引き渡すまで、遺産を管理しているのは相続人のはずだからです。
将来の相続にご不安な方は行政書士にご相談ください
こうしてざっと見てみるだけでも、相続と遺贈の担保責任は似ています。
非常にわかりやすい結論として、相続における担保責任にしても、遺贈の担保責任にしても、その財産を受け取らない他の相続人たちが責任を負うことになります。
そして相続であっても遺贈であっても、双方とも遺言によって担保責任を変更できます。これは故人の意思で、あまりお金がなかったりする人にそこまで責任を負わせないようにすることもできる、という趣旨なので双方とも通じるのは当たり前かもしれません。
また、相続人になったら担保責任がある、ということを意識すると遺産の管理も真剣になるのではないでしょうか。
遺産に隠れた欠陥が見つかって今回のような担保責任が発生することも、決して珍しいケースではありません。
相続ではこのように複雑な法制度が関係してくることもあるため、やはり専門家の助言を得ながら手続きを進めたほうが安心です。
横浜市の長岡行政書士事務所では、相続手続きを全般的にサポートしています。相続人が複数いて、どのようなことに注意しながら相続手続きを進めたらいいのか分からないという場合には、お気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で対応しています。