相続人が認知症の場合は遺産分割協議はどうなる?手続き方法を行政書士が解説!

相続人に判断能力がない人がいる場合の遺産分割の対応方法とは 相続手続の基礎
相続手続の基礎

大切な人が亡くなり、葬儀や納骨が終わって、落ち着いた頃に相続の手続きを開始すると思います。

相続の手続きを開始し始めた時、親が認知症等により判断能力がない状態の場合はこのまま手続きを進められるだろうかと考えたことはありますか。

遺産相続は遺産分割協議と言って相続人全員の話し合いで決めていくところ、認知症等により話し合いができない相続人を無視しては手続きはできません。ではこのような場合にはどうするのでしょうか?

今回は、相続人に判断能力がない場合の遺産分割の対応について、「文学風」に解説していきます。

この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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相続人の判断能力がない状態で成立した遺産分割協議は無効

人が亡くなると、さまざまな手続きが発生します。例えば、死亡届の提出や葬儀、お墓の手配、故人が残した相続財産の分配、そして相続登記手続きなどです。特に注意したいのが、遺言書が残っていない場合です。

このとき、相続人が遺産分割協議を進めなくてはいけませんが、相続人の中に認知症の人がいると協議ができない可能性があります。具体的に見ていきましょう。

・・・・・

吾輩は猫である。

名前はまだないが、タマだのニャン太郎だの、人間それぞれ好きな呼び方をしている。

どうして吾輩がここで語っているかというと、わが主との出逢いにさかのぼる。

以前、わが主の人間(女性)が、薄暗いところでニャーニャー泣いていた。

どうやら主の父親の遺言やら相続やらの問題で、わが主もほとほと困っていたようなので、行政書士の長岡とやらのもとに出向かせたのだ。

すると、長岡とやらの仕事っぷりに崇敬の念すら抱いたわが主が、「行政書士に、私はなる!」と言い出す始末。

相談者を見つけては足しげく事務所へ通う日々なのである。

そんなこんなで、今日もわが主の友人が困っているのを、頼まれもしないくせに首を突っ込み、ついでに長岡とやらの首も突っ込ませ、ひと騒動起きているわけである。

わが主「ちょっと、長岡センセ! 余命宣告されちゃって!」

長岡「ええっ! どこかお悪かったんですか…? 顔つきはふっくらとしてますが…」

わが主「私じゃないですよ、センセ! ふっくらって!」

長岡「あ、いや、これは失礼をいたしました…」

どう考えても主語を言わなかったわが主が悪いではないか。長岡とやらも、かわいそうに。

わが主「まあまあ、こないだ夫から、福の神みたいだなって言われて、縁起がよさそうですからいいんですのよ」

自分で言うな。

長岡「あの、余命宣告というのはどなたが…?」

わが主「そうそう! 私のジョギング仲間のダンナさんのお父さんなのよ。ちょっと、相談に乗ってあげてほしいの。春日部さん、入ってらして」

ジョギング仲間といいつつ、春日部夫人とは、ほぼ毎日せんべいと茶をしばくだけの間柄であるのを吾輩は知っている。

春日部「恐れ入ります。実は、長く病床にいた父が、先日余命宣告をされまして」

長岡「それは大変なことで。それで、ご相談というのは?」

春日部「ええ、もし父が亡くなったら、母と私と弟の3人が相続人となるはずなんです。しかし、母は認知症の診断を受けておりまして。認知症の場合、法的な手続きができないと聞いたことがあり、父も心配をしていましてね」

わが主「そうなのよ。ねえ、センセの力で認知症を治せない?」

長岡「…それは、ちょっと無理かと…」

わが主「じゃなかった、相続手続きのサポートをしてあげてくれない? せんべいあげるから」

長岡とやらも相談料をせんべいで持ち掛けられたのは、行政書士人生初であろうな…。
 
長岡「…せんべいはとにかく、相談を進めましょう。お父様の相続人となるお母様が認知症を患っていらっしゃる。そこで、できない相続手続きがあるのか? また生前にできる対策はあるか? ということですね」

春日部「そうです」

長岡「わかりました。認知症の方がいらっしゃる場合、遺産分割協議ができないことが、特に大きな問題になるでしょう」

春日部「遺産分割協議?」

遺産分割協議は、故人の相続財産を、誰がどのように引き継いでいくかということを決定する大切な話し合いです。遺産分割協議では相続人全員で話し合い、合意することが基本ルールとなります。

春日部「あのう…初歩的な疑問なのですが、遺産分割協議って、そんなに大事なものなんですか?」

長岡「ええ、遺産分割協議は、相続が発生した際に相続人全員で遺産分割について話し合う、とても大事な手続きなんです。遺産分割協議で結論を出すためには、共同相続人全員の同意が必要なんですね」

わが主「つまり、満場一致ってことね」

春日部「もしひとりでも同意しなかったら?」

わが主「…ゲーム、オーバーよ…その先の未来は誰にもわからないわ…」

なぜハリウッド映画のSF作品に出てくる女優みたいなセリフが…?

相続人が認知症を患い、判断能力が不十分であると判断された場合、遺産分割協議を行うことはできません。また、財産の名義変更や登記手続きができない可能性も出てきますので、注意が必要です。

長岡「…いや、未来はわかります。遺産分割協議は法律上無効とされてしまう可能性があるってことなんですね。ここでポイントなのが、認知症の有無です」

春日部「そうだ、認知症だ」

長岡「認知症の方は判断能力が低下している恐れがありますよね? ということは、遺産分割協議に必要となる意思表示ができない可能性があるんです」

春日部「つまり、病気のせいで自分の意思表示が捻じ曲げられている可能性があるから、仮に同意をしたとしても、その同意には効力がないということですか」

長岡「そうです。ですから、相続人全員の同意という大前提が崩れて、協議そのものが成立しないことになるわけなんです」

判断能力がない人がいる場合の相続の注意点

判断能力がない人がいる場合に遺産分割協議が出来ないことはお話しいたしました。では、このまま相続を進めた場合にはどのような注意点があるでしょうか。

わが主「でもさあ、密室トリック使えばいいんじゃない?」

今度はSFからミステリになり始めたぞ…。

判断能力がない人の代わりに署名は無効

わが主「遺産分割協議書に、他の相続人がちょちょいのちょいと署名しちゃえばいいんじゃない。記録映像とっているわけでもないし、わかりゃしないわよ」

長岡「…それ、私文書偽造で罪に問われますよ。もちろん、偽造した遺産分割協議は無効です」

わが主「なーんちゃって、なーんちゃって! …もう、ちょっとしたジョークじゃないの、やだわあ、センセったら」

ジョークならなぜ目がバキバキに見開いている…?

判断能力がない人は単独で相続放棄も出来ない

春日部「あの、もしもですよ。例えば認知症の相続人が相続放棄をしたとしたらどうなるんですか? 以前、「報道小路」ってニュース番組で見たことがあるんですけど」

長岡「あ、あの番組、実は以前私も出たことがあるんです。西園寺遺子さんのキメゼリフが印象深いですよね」

春日部「そうそう、『私、調べましたけど!!!』」

わが主はニュースなどまったく見ないので、口ぽかんであるのは致し方ない。

関連記事:遺産相続での放棄とは?間違いがちな2つの放棄について行政書士が解説!(西園寺遺子が登場します)

長岡「相続放棄についても、認知症の場合できなくなりますね。判断能力を必要とする法律行為は基本できないんです。仮に本人の意思がないまま他の相続人等が代理人として相続放棄を申し立てても無効になってしまいます」

遺産分割協議ができないことの問題点

遺産分割協議ができないと、「不動産は法定相続分での共同相続となる可能性」「不動産の処分や売却ができなくなる」「相続した預金の名義変更や引き出しができなくなる」という3つの問題が出てきます。

不動産は法定相続分での共同相続となる可能性がある

春日部「法定相続分というのは法律で相続分が決まっているということですかね?」

長岡「そういうことです。遺産分割協議を行わない場合、法定相続人による不動産の法定相続分での共同相続をする可能性もあります。不動産の場合は共同相続人の一人で法定相続分の登記が可能なことから、それをしてしまう可能性もあります。」

わが主「でも、お上のお定めで分け前が決まっているなら、誰もやいのやいの言ってこれめえ?」

おっと、今度は時代劇口調だ。今日のわが主はなかなかの女優だな…って言ってる場合か。話の腰を折らないでほしいものだ。

長岡「ところが、どっこい。そうはイカの塩辛よ」

長岡とやらが…乗った…! だめだ、戻ってこい…!

長岡「…あ、失礼。一緒に考えてみましょう。普通、遺産分割協議をすると、誰が何を相続するのかを決定できますよね。なぜなら、遺産分割協議の場で、「私はアレが欲しい」「俺はコレは欲しくない」などを話し合って、最終的に皆で同意するわけですから」

春日部「そうですね」

長岡「でも、遺産分割協議ができない場合、そもそも話し合い自体が完結できません。お金のように分けやすいものならともかく、土地や建物などの場合はどうなるでしょうか?」

春日部「分けにくい?」

長岡「そうなりますよね。不動産のように高価な物の価値は、そもそも明確に判断できませんし、物理的に分けられませんよね。すると、法定相続分での共同相続をすると一見自己の権利を登記されているから良いのでは?と思うかもしれませんが、これは意外と厄介なのです」

わが主「うちの場合は、100対0で私に分配させる自信はありますけど」

それは「分ける」とは言わず、「ぶんどる」というのだ。

不動産の処分や売却等が出来なくなる

長岡「…ですから、不動産を売りたいと思っても、共有している相続人全員の同意が必要になりますから、竹を割ったようにスパッと結論が出るとは限らないんです」

わが主「例えばリフォームしたいとか、そういうのもやりにくくなっちゃうのかしら?」

長岡「売却することはもちろん、賃貸や大規模な修繕が必要となった場合にも共有している全員の同意がなければできません

わが主「嫌なご時世ねえ」

長岡「ご時世のせいではないですが…時代という点で言えば、不動産の相続登記が令和6年4月1日以降に義務化されていますから、相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科せられる場合があります。でも相続登記を行う際には、遺産分割協議書の提出が求められるため、相続人が認知症で遺産分割協議ができなければ相続登記ができないというジレンマも生まれます」

合わせて読みたい:相続法改正のまとめ|平成30年~令和6年まで法改正を行政書士が詳しく解説!

預貯金口座が動かせなくなる

わが主「あと、預貯金も動かせないんじゃなかったかしら?」

長岡「さすが、よくお勉強なさってますね」

わが主「でへへへ」

長岡とやら、ほめ過ぎないでおくれ。「今日センセに褒められた記念」で、我が家でパーティが始まるから。騒がしくて寝てられぬのだ…。

長岡「通常、口座の名義人が亡くなったことを銀行が知ると、預金口座が凍結されます。この凍結は、相続手続きが完了するまで凍結されてしまうんです。誰かが相続された預貯金を使いこんだりしたらいけませんからね」

関連記事:口座凍結のタイミングはいつ?相続発生後の死亡届と銀行凍結の関係について行政書士が解説!

春日部「預貯金を引き出すためには遺産分割協議書が必要…?」

長岡「その通りです。ただし、預貯金の仮払い制度というものもあります。『150万円』または『その銀行にある預貯金×3分の1×法定相続分』のどちらか、少ない額の方を引き出すことはできます」

判断能力がない相続人がいる場合にする生前対策

わが主「それにしても、好きで認知症になったわけじゃないのに、踏んだり蹴ったりじゃないですか。センセ、何か事前に手を打っておくことはできないの?」

長岡「そこなんです! 生前にできる対策が2つあります」

認知症の相続人がいる場合、生前に予想される場合は遺言書を作成するとか、あとは相続が発生したら成年後見制度を利用して後見人をつけるとかで遺産分割協議をすることはできます。ただし、成年後見制度にはデメリットもありますので、やはり生前対策をしっかりしていくのが良いでしょう。

遺言書を作成する

長岡「生前対策のひとつめは、遺言書を作成することです」

春日部「遺言書を残してもらうと、何がいいのでしょうか?」

長岡「本人が亡くなった後に、遺産を誰がどのように相続するのか。このことについて遺言書で指定しておくと、遺産分割協議をしなくても、不動産や預貯金について凍結を解除して相続手続きをすることができるんです」

わが主「遺言書があれば、相続人間でよほどのトラブルがない限り、遺言書の通りに財産を受け取れるわよね。うちも私の都合のいいように、夫に遺言書を書かせて…」

やめなさい、もう。

合わせて読みたい:親に遺言書を書いてもらう意味とタイミングを行政書士事務所として相談を受けた経験から解説

生前に贈与をする

長岡「もうひとつは、生前贈与です。不動産や預貯金などの財産を、生前に渡してもらうことで、相続時のトラブルを防止しやすくあります。もっとも、生前贈与にもメリットとデメリットがありますから、やはり詳しくは専門家に相談したほうがいいですね」

春日部「ありがとうございます。遺言書は死ぬ覚悟をしたときに書くイメージがありましたが、将来を見据えて、ちゃんと書いておくことが大事ですね」

長岡「そうですね。いつでも相談にいらしてくださいね」

相続が発生しているなら成年後見制度を利用する

もしすでに相続が発生している、つまり生前対策ができない状態であるなら、成年後見制度を利用することで遺産分割協議を実施することも可能です。

成年後見制度とは、判断能力がない方の代わりに、後見人が財産を管理する制度です。もし後見人が選ばれている場合には、後見人が遺産分割協議に参加し、遺産分割方法を進めます。

ただし後見人は親族以外の専門家(弁護士など)が選ばれる可能性が高く、必ずしも他の相続人・家族にとって望ましい相続が実現するとは限りません。

やはり相続手続きをスムーズに進めるためには、生前に対策しておくことが重要です。

相続人が認知症などで判断能力がない場合の生前対策も行政書士に相談できる

今回は判断能力がない相続人がいる場合の相続について、その対応策と注意点についてお話してきました。

認知症などで判断能力がない相続人がいる場合、遺産分割協議を開催するとなると、成年後見人制度を利用しなければなりません。すると通常の相続手続きの工程よりも複雑化し、時間も長期間かかることとなります。

このようなことにならないためにも、もし将来の相続に不安がある方は生前に遺言書を作成する、生前贈与をする等の相続対策をすることをおススメいたします。

将来の相続にご不安な方は、横浜市の長岡行政書士事務所までお気軽にご相談ください。

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この記事の執筆・監修者
長岡 真也(行政書士)

長岡行政書士事務所代表。1984年12月8日生まれ。
23歳の時に父親をガンで亡くしたことから、行政書士を志す。水道工事作業員の仕事に従事しながら、作業車に行政書士六法を持ち込んでは勉強を続け、2012年に27歳で合格。
当時20代開業者は行政書士全体の中で1%を切るという少なさで、同年開業。以来。「印鑑1本で負担のない相続手続」をモットーに、横浜市で相続の悩みに直面する依頼者のために、誠実に寄り添っている。最近は安心して相続手続したい方々へ向け、事務所公式サイト上でコラムを発信しており、相続手続の普及に取り組んでいる。

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