相続手続を進めるためには、故人(被相続人)が遺した相続財産がいくらあるのか調査しなくてはいけません。
特に財産の中に株式が含まれているとき、亡くなった家族がどのような株式を運用していたのかわからず、困ることも少なくありません。
このような相続手続における株式調査で利用できるのが証券保管振替機構(ほふり)です。株式投資をしている方なら「ほふり」という言葉は聞いたことがあるでしょうが、相続手続でどのように情報を開示すればいいのかまでは知らないかもしれません。
そこで、今回の記事では、名探偵・明智小五郎風のストーリーに載せて、証券保管振替機構(ほふり)は相続手続でどう活用するのか、開示請求はどのような流れになっているのか、横浜市で相続手続をサポートしている行政書士が解説します。
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こんにちは。ぼくは名探偵として知られる明智小五郎先生の助手、小林です。
明智先生は、永遠のライバルである怪人三十面相との闘いの日々を過ごしておいでです。
天才的な頭脳で怪人三十面相の狡猾な犯罪を、毎日未然に防いでいる…と思われがちかもしれません。
もちろんたまに怪人三十面相の予告が届くことはありますが、相手もそう毎日毎日出没できるほどヒマなわけではありません。
要するに、奴が出没しないときは、そんなに忙しくはないんです。
最近はあまりに出没しないもんですから、心配になって「体調でも悪いの?」とお見舞いはがきを出したほど。もちろん返事などありませんが。
そんなときは、ぼくがやっている行政書士のほうでの依頼をこなし、先生は居眠りをしたり、茶々を入れてきては暇をつぶしているので迷惑なんですけどね…。
ということで、今日も事務所に相続のご相談がやってきまして…。
故人の株式は証券保管振替機構(ほふり)で調査できる
故人の株式は証券保管振替機構(ほふり)で調査できます。まずは「ほふり」の概要や仕組みについて見ていきましょう。
凡太郎「困りましたよ、小林どの。まったくうちの親父ときたら、どこの株式を持っていたのか、ちっとも伝えてくれなかったんですから」
小林「凡田財閥の凡乃介先代、先日お亡くなりになったんですよね。ご愁傷様です。確かに株式のありかがわからなければ、困りますよね」
凡太郎「それで、名探偵と名高い明智先生に調べてほしいと思いまして」
明智「ふん。ぼんぼんの依頼だったら、しっかりきっちり調査費をいただくぞ」
小林「いきなりぼったくり宣言はやめてください」
明智「親父さんが株式のありかや状況を明かさなかった理由は明白だ。怪人三十面相を恐れてのことだ! しかしかならず手がかりを残しているはず。ときに臨終の間際、指先にダイイングメッセージが残っては…」
小林「あ、すみません、凡太郎さん。うちの先生、今日も脳みそお花畑みたいなので、私が説明しますね」
凡太郎「あい」
小林「まず調査の手がかりになるのは3つあります。こんな具合ですね」
郵便物を確認しましょう
自宅に証券会社や株主優待、運用の指図に関する報告書、配当金に関するお知らせなどの郵便が届いているかどうかをチェック。郵便物の中身は無くても、封書が見つかった場合は調査を進めましょう。
預貯金口座を確認しましょう
銀行が金融商品を販売している場合、口座に記録が残ります。取引履歴に証券会社名がある場合は、記載されている証券会社に照会をかけてみましょう。
ほふり機構を活用しましょう
被相続人に関する取引の開示請求を行うと、取引があった証券会社などの取引が開示され、知らなかった株式が見つかることも。
凡太郎「ほふりって、初めて聞いたなあ」
ほふりとは「証券保管振替機構」のこと。上場株式のほか、国債を除く公共債や投資信託などの振替などの総合的な証券決済インフラ業務(振替制度の運営等)を行っている我が国唯一の組織。「社債、株式等の振替に関する法律」に基づいて、内閣総理大臣・法務大臣から振替機関の指定を受けています。ほふりに開示請求を行うと、相続人が被相続人に関する株式取引の情報について知ることができます。
凡太郎「おお、親方日の丸が指定している機関なのですか。それは安心ですな」
相続手続に伴い「ほふり」へ開示請求できる人
凡太郎「ほふりの仕組みも分かったことですし、では早速開示請求を…」
小林「と言いたいところですが、ほふりを使うには、一定の条件を満たさないといけないんです」
- 法定相続人
- 法定相続人の法定代理人
- 法定相続人の任意代理人
- 遺言執行者
凡太郎「私は法定相続人ですけど…ん? 内縁の方や相続人以外の家族は開示請求できないんですね」
小林「そうなんです。ですので、今回の場合は凡太郎さん自ら開示請求をするのが安心ですね」
「ほふり」へ開示請求する流れ
「ほふり」へ開示請求する流れは次のとおりです。
- 書類を集める
- 必要書類を「ほふり」へ郵送する
- 開示結果が通知される
ステップごとに概要を見ていきましょう。
書類を集める
小林「まずは書類をそろえましょう。【法定相続人が証券保管振替機構に開示請求を行う際の必要書類】にも記載がありますが、必要書類・入手場所はこちらの通りです。細かいルールもありますから、参考にしてみてくださいね」
- 開示請求書…証券保管振替機構のHP(複数名分を請求する場合は対象者1名につき1枚の開示請求書が必要)
- 法定相続人の本人確認書類…本人確認書類(運転免許証の場合は両面など注意点あり)
- 法定相続情報一覧図、相続人と被相続人の関係を示す戸籍など被相続人の住所確認書類…株主(被相続人)宛の株式関係書類でもOK
小林「ちなみに、法定相続情報一覧図を使わない場合、被相続人との関係が分かる戸籍謄本原本のコピーが必要になります」
必要書類を「ほふり」へ郵送する
小林「必要書類を集めたら、ほふり機構へ郵送します。すぐに結果がわかるわけではないので、スケジュールには余裕を持って郵送してくださいね」
開示結果が通知される
凡太郎「それで、ほふりの結果がわかったら次はどうすればいいんですか?」
小林「まず注意点として、ほふりから届く照会結果には、具体的な株式名が書かれているわけではないんです」
明智「暗号にでもなっているのか?」
小林「…なぜ暗号にする必要がある…。凡太郎さん、いずれにせよ保有している銘柄を特定するためには、開示された取引証券会社などに個別に照会をかけなくちゃいけないんです。
どういうことかというと、株式などの調査結果が判明したら、ほふりから結果が通知されます。もし開示すべき情報がない、つまり株式を取引していなかったとしても、その旨が通知されますからその点は安心してください。
そして、ほふり機構から届いた通知書には、証券会社・信託銀行の名称が記載されています。具体的な株式名が書かれているわけではありませんから、記載されている証券会社などに問い合わせて、残高証明書を請求し、故人がどのような株式を保有しているのか一つひとつ調べていかなければならないのですよ」
凡太郎「こりゃけっこう時間かかりそうだな」
小林「そうです。株式取引の特定に関しては、時間がかかることが予想されるため、相続の開始後できる限り早期にスタートすることがいいんですよ。株式の調査を放置すると、準共有状態(遺産共有)、つまり株式の権利行使が制限される状態になってしまい、トラブルのもとになりますからね」
「ほふり」では調べられない株式もある
凡太郎「これだけわかっていれば、あとは開示請求するだけですね。いやあ、一件落着だ」
小林「でも、さすがのほふりでも対象外…つまり特定できない取引もあるので気を付けてください。例えば、非上場の内国株式・投資信託の受益権、外国株式、国債、社債などです」
凡太郎「なるほど、上場している株式などの口座は特定できるけど、国債などは特定できないんですね」
小林「ええ。ですから、ほふり以外の調査も並行して行ったほうがいいですね」
相続手続に伴う「ほふり」への開示請求も行政書士に相談できる
凡太郎「そうですね。うちの親父の口癖も、『明日やろうはバカ野郎』でしたから、早めにやりたいです。小林さん、ぜひサポートしていただけませんか?」
明智「よかろう」
小林「…ぼくへの依頼ですよ。凡太郎さん、もちろんです。では先生、打ち合わせに入りますから、三十面相さんにお手紙でも書いててください」
明智「おいおい、私を邪魔者にするのか」
小林「ちがいますよ。これが本当の怪人請求…なんちゃって」
相続時の株式の調査方法について楽しくわかりやすくお伝えいたしました。
自ら株式投資をしている方を除けば、「ほふり機構」というのを初めて知った方も多いのではないでしょうか。
遺産の調査をしていく中で意外な財産が見つかる場合もございますので、ぜひこれを参考に漏れなく手続きをしていけたら良いですね。
横浜の長岡行政書士事務所では遺産の調査としてほふり機構への開示請求もやっております。お困りの方はお気軽にお問い合わせください。